文科省がユネスコに対し、「増上寺が所蔵する三種の仏教聖典叢書」とともに、「広島原爆の視覚的資料―1945年の写真と映像」を「世界の記憶」として正式に推薦すると決定したのは11月28日のこと。
このニュースに日本国内では歓迎ムードが広がる。ただ、「世界の記憶」は国際政治のダイナミズムに直結する素材ともなる。場合によってはユネスコが政治闘争の場となることもありうるだけに、一般の報道とは異なる観点からの解説を加えておきたい。
ユネスコは後世に残すべき価値を承継する事業として、3本の柱を持っている。日本人に馴染みが深いのは世界遺産の制度だろう。これは文化遺産と自然遺産、そしてまれに両方の性質を持った複合遺産からなりたっており、基本的に「不動産(場所や構造物)」が登録の対象となる。