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ゾンビ化する大木と殺人キノコが蔓延…山暮らしライターが見つけた、富士の麓で静かに広がる異常事態の正体

集英社オンライン / 2023年12月16日 12時1分

東京と山中湖を行き来するデュアルライフをはじめた著者は、ある日、不自然に大木が枯死しているのを目撃、その原因を探ってみると…新たな暮らし方を模索する全てのひとに贈る『山の家のスローバラード 東京⇔山中湖行ったり来たりのデュアルライフ』(百年舎)より、一部抜粋、再構成してお届けする。

急速に立ち枯れしてしまった大木に一体何が…

その異変に気づいたのは、夏が始まる頃でした。
(※連載コラム初出時、2021年9月の話です)

山梨県・山中湖村にある我が山の家のお向かいには、一棟貸しの瀟洒なペンションが建っています。建物の横には、立派な枝ぶりのシンボルツリー。恐らくこの周辺に多く生えているクヌギかコナラなのでしょう。道路を挟んで我が家の庭にも面したところに生えている大木なので、今年も長い冬が終わって若葉を芽吹き、新緑から徐々に緑を濃くする季節の変化を楽しんでいました。



ところが、梅雨が明けた頃のことです。たわわに蓄えたその木の葉が、全体的にくったりとしおれてきていることに気づきました。葉の色も、周囲の樹木の生気に満ちたつややかな緑とは明らかに違い、ひどくくすんでいます。

最初は「あれ、変だな」と少し気になる程度でした。しかし、日をあけて山の家を訪れて見るたび、木の葉の変化は著しく、やがて完全に枯れ果ててしまいました。どうやらその木は、わずか1ヶ月あまりの間に枯死してしまったようなのです。

幹の太さから見て、樹齢数十年は経過した木だったはず。長年にわたって風雪に耐えてきた立派な大木が、なぜこれほどあっという間に死んでしまったのか。

オーナーさんに尋ねると、原因は〝ナラ枯れ〟でした。この周辺では、ナラ枯れが急増しているのだそうです。なんとなく耳にしたことがあったナラ枯れという言葉を、そのとき初めてはっきり意識しました。

ナラ枯れは数年前から多く見られるようになり、県や村でも対策に追われているようです。山の家には束の間の休息、息抜きのために来るデュルライフ民ですので、良いところばかりを見てしまう傾向にあることは自覚しています。村が直面しているこんな喫緊の問題にも気付いていなかったことは、率直に反省しなければなりません。

今のところ我が家の庭木はいずれもまだ大丈夫ですが、いつナラ枯れ被害の当事者になるかもわかりません。急に心配になってきた僕は、家の周辺を調べてみることにしました。

すると、感染拡大は一目瞭然でした。隣の空き地に生えている木は2本。同じ通り沿いにある二軒先の家の庭木も、そのお隣の庭木もそれぞれ1本ずつ枯死しています。ほかにも至るところに、ナラ枯れ樹木があることがわかりました。

人間の目というものは、見ようと思っているものしか見ていないことを痛感しました。僕の脳の照準が合ったとたん、すぐ周辺にまで迫っている危機をはっきり自覚できたのです。

樹木は伝染病にかかっていた

ナラ枯れとは、6月上旬頃から木の幹に巣食う、カシノナガキクイムシという体長5ミリ程度の小さな甲虫によって引き起こされる樹木の伝染病。カシノなんとかムシはナラ類やシイ・カシ類などの、太い幹を持つ木をターゲットとし、自分たちの餌となる菌とともに「ナラ菌」と呼ばれる病原菌を運び込みます。

持ち込まれたナラ菌は、ムシによって穿たれた坑道を伝って樹内に広がります。そこで樹木は、菌の蔓延を防ぐためにみずから通水をストップ。かくして7~8月頃には葉がしおれて枯死に至ります。 木の中で成長した新成虫は翌年6月、ナラ菌を持って立ち枯れた木を悠々と脱出。健全な樹木に飛来して巣食うことで、被害がどんどん拡大するのだそうです。

ナラ枯れで死んだ樹木は、枯葉の色が特徴的です。秋になって自然に枯れた葉のような明るい茶ではなく、なんとなくまだ湿り気を帯びたような赤茶色をしているのです。

枯れてもすぐに落葉しないのもまた特徴です。死んだ木は枯れ葉を茂らせたまま、緑の葉を蓄える周囲の健全な木の間で、恨めしそうに立ち尽くしています。その姿はまるで幽霊かゾンビ、あるいは落武者のようで、見ていると背筋がゾクッとします。

「菌の蔓延を防ぐためにみずから通水をストップ」というのも、まるで覚悟を決めて切腹した侍のようで、実に悲しいお話ではありませんか。

立ち枯れた木に近づいてよく見ると、幹の下の方にはカシノなんとかムシが侵入した痕跡である小さな穴、そして木の皮の間や根元には、細かなパウダー状のものが貯まっています。これは「フラス」と呼ばれる、カシなんちゃらムシの排泄物と木くずが混じったもの。ヤツらは宿主である樹木がゾンビ化した現在も、この樹幹の奥深くでぬくぬくと暮らしているのです。

恐ろしや。

ナラ枯れは周期的に流行と衰退を繰り返す樹木の疫病で、ここ数年は山梨県以外にも、関東を中心に日本各地で大量発生しているようです。多くは人が住まない山中で発生するし、放置していても自然に収束するので、あまり積極的な対策は打たれないようです。人里の木がやられると枯死した木が倒れたり枝が落ちたりして人的被害が出る可能性があるので、行政によって伐り倒され、虫ごと燻蒸して始末するようです。山中湖村では予防的措置として、虫を捕獲する粘着シートを役場で配っています。

我が家の庭にも、ターゲットとなるクヌギが何本も生えています。来シーズンのムシさん飛来の前に、必ず対策をしようと思っています。

枯死した木の根元には日本一ヤバい猛毒キノコ

そして、ナラ枯れに関連するもうひとつの大問題についてです。枯死した木の根元を見ると、気色の悪いクリーチャーのような外見の、赤いキノコがチョロチョロと生えています。一見して明らかにヤバそうなので、さすがに取って食おうという気など起こりませんが、これが想像以上の恐ろしさ。

燃える炎のような形から、カエンタケ(火炎茸、火焔茸)と名付けられているそのキノコは、日本一とも噂される猛毒を有しているのです。コイツは数ある毒キノコの中で唯一、汁に触れただけで皮膚がただれてしまうそうです。致死量は3ミリグラム、つまりティースプーン半分ほどの量です。誤って食した場合は直後から唇がただれ、大きな口内炎ができ、食後10分から発熱・悪寒・嘔吐・下痢・腹痛・目眩・手足のしびれ・言語障害・血圧低下などの激烈な症状が発生。その後は高熱・消化器不全・肝不全・腎不全・呼吸器不全・脱皮・脱毛・びらん、そして小脳萎縮による運動障害など脳神経症状が起こり、死に至るそうです。

役満かよ。……恐ろしや(本日二回目)。

そんな殺人キノコなんて、全然知らなかったという方もいるでしょう。それもそのはず、カエンタケはやや珍しいキノコで、見つかると新聞の地域版に載って騒がれるほどの存在なのです。ところがどのようなメカニズムにあるのか文系の僕には説明できませんが、ナラ枯れで枯死した樹木の根元に高頻度で発生するので、ナラ枯れの流行とセットで地域に蔓延してしまうのです。

このキノコを「食べてみた!」とやって死んでしまったお調子者のYouTuberがいたというのは都市伝説にすぎないようですが、過去には本当に、酒に浸けて飲み、死に至った人の例もあるとか。我が家の隣の空き地にある2本のナラ枯れ樹木の根本には、この殺人キノコがすでにたくさん生えています。

さすがに取って食おうと思うやつはいないだろうと書きましたが、我が家にはちょっとおバカなワンコが一匹います。いくらダメだダメだと言っても、山の家に着いたら我を忘れて猛ダッシュ。家の境界を超え、隣の空き地の枯葉の上を気持ちよさそうに散策したりしていることがあります。

んもう!! チョー心配!!

触れるのもヤバイから迂闊に抜くことはできないし、胞子が飛ぶシーズンは離れていても目や鼻の粘膜がやられるという情報もありました(信憑性にはやや疑いありですが)。

どうしたものだろうか。保健所に連絡すれば、なんとかしてくれるのかな?

写真・文/佐藤誠二朗

『山の家のスローバラード 東京⇔山中湖行ったり来たりのデュアルライフ』

佐藤誠二朗 (著)

2023年11月15日発売

2200円(税込)

264ページ

ISBN:

978-4991203923

東京で生まれ育ち、働き、家族をつくってきた筆者は、なぜデュアルライフ(二拠点生活)を始めたのか。東京と山中湖を行き来しながら暮らす日々を軽快に綴ったエッセイ集。コロナ禍を経て、新たな暮らし方を模索する全てのひと必読の書。

著者が山中湖村にある“山の家”を手ごろな価格で手に入れたのは2017年のこと。以来、東京の家との二拠点生活=デュアルライフがはじまる。コロナ禍で「この機会に景色のいいところに住んでみよう!」と思った人も少なくないはず。ここにはそんなデュアルライフのリアルが描かれている。

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