ふだん暮らしている東京・世田谷区の家とは別に、山梨県・山中湖村に“山の家”を設け、デュアルライフをはじめたのは2017年春のこと。
それから足かけ7年になるので、山の家周辺でさまざまな野生動物を見かけることには、もうすっかり慣れました。
「クマに襲われる」が自分ごとになった“山の家暮らし”のライターが、準備万端で揃えたクマ対策グッズ全容とは
集英社オンライン / 2023年12月9日 12時1分
山梨県・山中湖村に“山の家”を手に入れ、デュアルライフ(二拠点生活)を始めた著者の最近の悩みごとは「クマ」。メディアで多数報道されているクマの脅威に、対策グッズを買って備えるが…。『山の家のスローバラード 東京⇔山中湖行ったり来たりのデュアルライフ』が好評の佐藤誠二朗氏のクマ対策はいかに。
“山の家”周辺、シカは野良猫よりもありふれた存在
野鳥に言及するとキリがなくなるから哺乳類に限ると、もっとも頻繁に遭遇するのはシカです。
シカときたら、こっちでは野良猫よりもありふれた存在。その気になって家の周囲数百メートルを探すと、いつでもほぼ確実に見られるような感じです。
第一、我が家の庭は、シカが山から降りてくる際の動線になっているようで、明らかなけもの道があります。
村内ではシカによる食害や交通事故も多発し、増えすぎて困ったちゃん状態になっています。
シカ以外の動物との遭遇頻度はぐっと低くなるものの、これまでにキツネ、イノシシ、リス、テンを何度も見かけました。
僕の“山の家”は、湖畔から歩いて10分ほど坂を登ったところに建っています。
そこは、一定の間隔をあけながら民家が並ぶ人里ですが、もう5分も歩けば人の立ち入らない山との境界線。
野生動物がその棲家である山奥からちょっと足を伸ばして闊歩していても、まったく不思議ではないような場所なのです。
それで、問題はクマです。
ご存じのとおり、今年は日本の各地で異常なほどクマの出没が多発しています。クマから攻撃される人的被害もたびたび発生し、由々しき問題として大きく報道されました。
大型動物であるツキノワグマは、タヌキやハクビシンのように人目を避けて隠れるように生きられるわけではないので、都会に定住はできません。
今年クマが出没した街も、その多くはクマが本来生息している山と接続しているような地域です。
ですので、都市生活者が多い現代の日本では、「クマが出るぞ!」というニュースも、ほとんどの人にとっては“他人ごと”だったはず。
僕自身も、仮に東京・世田谷区だけで暮らしていたら、当事者の皆さんには申し訳ないけど、他人ごとにしか思えなかったでしょう。
でも僕は、月に少なくとも1〜2回は、週末を“山の家”で過ごす身。
クマ問題は、まさしく“自分ごと”なのです。
“山の家”周辺でもたびたびクマが出没しているようなので対策を
山梨県は、県内でのツキノワグマの目撃・出没情報を随時集計し、一覧表にしてホームページで公開しています。
https://www.pref.yamanashi.jp/shizen/kuma2.html
僕はこれをしばしばチェック。今年度に入ってから我が山中湖村でも、11月26日時点で計9回の出没・目撃例があったことを知りました。
しかも、一覧表に記された詳細を見ると、その多くが「ああ、あそこらへんか」と見当のつく場所。
クマが身近まで迫っていることを、激しく実感しています。
早朝や夕暮れどきに、家や湖の周辺、それに近隣にある登山道入り口あたりを犬と散歩していると、林の奥からガサゴソと、枯れ葉を踏み歩く音が聞こえてくることがあります。
“クマ禍”が伝えられるようになった今年は、そのたびにビクッとするのですが、大抵の場合、というか今のところ100%、それは臆病そうな目を向けてこちらを警戒している、かわいいシカちゃんです。
でも山中湖村でも毎月のように出没情報があがっている以上、本当にいつ何時、正真正銘のクマがのそりと現れてもおかしくはない状況です。
本気で不安になった僕は、できる限りのクマ対策グッズを揃えました。
① トランジスタラジオ
② ハンディライト
③ 音追いピストル
④ 爆音ホイッスル
の4種類です。
よく知られているように、ツキノワグマは基本的には臆病な性格で、人間の存在を近くに感じると、みずから立ち去ってくれる動物です。
だから対策グッズも、遭遇する前にこちらの存在をクマへ知らせるためのものになります。
登山をする人は、クマよけ鈴を携行することが多いですが、常に音を発するものであればなんでも構わないので、僕は①トランジスタラジオを持ち歩くことにしました。
このラジオは小さいながらも優秀で、スマホのスピーカーよりもずっと大きな音が出ます。ラジオの電波が届かない場所ではBluetoothモバイルスピーカーモードにし、スマホから音楽を飛ばして流せばOKです。
薄暗い早朝や夕方は、②ハンディライトも忘れてはなりません。僕の二つのライトは、攻撃してくる敵の目をくらますことができるほど強力なものではありませんが、かなり遠くまで光が届く高性能のものです。
これで周囲を照らしながら歩けば、クマもいち早くこちらの存在に気づいてくれるでしょう。
山の家の周囲を歩いていると、民家が途切れて木々が鬱蒼と茂り、いかにも動物の気配が濃厚でやばそうな地点を通過しなければならないことがあります。
そんなときは、③の爆音ホイッスルをひと吹きします。
2種類持っている僕のホイッスルは両方とも、120デシベルというかなり大きな音が出るものなので、クマもこちらの存在に気づかないことはないでしょう。
それでも、もしクマさんが眼前に突如現れ、睨み合って膠着状態になってしまった場合は、④の音追いピストルを使おうと思っています。
これは、子供のころに遊んだ八連のキャップ型火薬をセットする、音が出るだけのおもちゃピストルですが、ネットやホームセンターでは、害獣を追い払う用途で販売されています。
クマは破裂音や火薬の匂いを嫌うので、こちらに向かってくる前に脅しのために一発ぶっ放そうと思っています。
こんな予防策をしていても、本当に不幸な偶然が重なってクマと至近距離まで近づいてしまい、向こうもやる気になってしまったら、あとはクマ撃退スプレーくらいしか実効性のあるものはないようです。
僕はまだスプレーまでは用意できていませんが、この状況が続くようだったら、いずれ装備しようと思っています。
こうして続いていく、僕のデュアルライフ
とはいえ、これらのクマ対策、現時点ではほとんど不要です。
12月上旬である現在、標高1000メートルに位置する寒冷地の山中湖村は、いよいよ冬本番という雰囲気。
もうすでにツキノワグマは、冬ごもりに入ったはずなのです。
対策グッズは、子連れグマになってより危険性が増す、来春までは温存しておこうと思います。
間もなく、山中湖村へ行く道も、峠のカーブなどを中心に朝晩は凍結することが多くなります。
車のタイヤをスタッドレスに履き替えなければならないので、僕はある平日の夜、一人で山の家に向かいました。
交換用のタイヤは、山の家の倉庫に置いてあるのです。
夜更けに到着した山の家の中はかなり冷えていました。
でも、今年の初めに新しく設置した薪ストーブは、家の中を柔らかな暖かさで満たしてくれて、快適に眠ることができました。
翌朝早く。
条件が揃えば日の出の時刻に出現する、朝日の光が雪の積もった富士山の白い斜面を紅色に染める現象“紅富士”を見るため、キンキンに冷えた空気の中、外に出ました。
もしかしたら冬ごもりしそびれたクマが出るかもしれないので、ラジオ、ホイッスル、おもちゃのピストルの3点セットは、もちろん携行しています。
あいにくその日は雲が多く、紅富士は見られませんでしたが、朝日と交代して徐々に輝きを失いつつある朝の満月の前で、かっこよくポーズをとるカラスの写真を撮ることができました。
こんなふうに、僕のデュアルライフは続いています。
写真・文/佐藤誠二朗
『山の家のスローバラード 東京⇔山中湖行ったり来たりのデュアルライフ』
佐藤誠二朗 (著)
2023年11月15日発売
2200円(税込)
264ページ
978-4991203923
東京で生まれ育ち、働き、家族をつくってきた筆者は、なぜデュアルライフ(二拠点生活)を始めたのか。東京と山中湖を行き来しながら暮らす日々を軽快に綴ったエッセイ集。コロナ禍を経て、新たな暮らし方を模索する全てのひと必読の書。
著者が山中湖村にある“山の家”を手ごろな価格で手に入れたのは2017年のこと。以来、東京の家との二拠点生活=デュアルライフがはじまる。コロナ禍で「この機会に景色のいいところに住んでみよう!」と思った人も少なくないはず。ここにはそんなデュアルライフのリアルが描かれている。
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