夫婦同姓が婚姻の条件になるのは世界で日本だけ。地裁では同性婚を認めないことは憲法違反の判決も…世界から取り残される日本の婚姻制度
集英社オンライン / 2023年12月7日 11時1分
結婚すれば当たり前のように夫の姓が選ばれ、妻は「家内」、夫は「主人」と呼ばれることも。さらに異性同士の単婚制しか法律上認められていない日本の婚姻制度。G7では日本以外の国すべてで同性婚は認められているという。世界から取り残されている日本の婚姻制度の現状を書籍『ルールはそもそもなんのためにあるのか』より、一部抜粋して解説する。
時代に応じて変わるべきルールもある──
たとえば結婚
あらゆるルールが人々の有益さのために変更されてよいというわけではなく、あらかじめ定められたルールに従わなければならない。だがそれはあくまでゲーム、そして同時代の社会を成り立たせるためのものだった。
一方で、人類が歴史を重ねていくうちに、かつてのルールが相応しくなくなることがある。理由は、かつてのルールが差別を含んでいたり、特定の人々を抑圧していたりすることが明らかになるからだ。その場合には、できるだけ多くの人々が幸福になれるよう、改変する必要がある。
いつまで異性同士の単婚制にこだわる?
日本では戦後、家制度(明治時代に規定された、戸主に家の統率権限を与える制度)はなくなり、婚姻は日本国憲法によって「両性の合意」に基づくべきものとされた。にもかかわらず、いまだに結婚式や披露宴に行くと「○○家と△△家」との立て看板がある。そして女性は結婚に際して、まだ「○○家に嫁ぐ」とか「嫁入りする」と言われる。
夫婦同姓としても当たり前のように夫の姓が選ばれ、戸籍や年賀状などでは夫はフルネームだが、妻はその横に名を添えられるだけである(そもそも夫婦同姓が婚姻の条件になるのはいまや日本のみである)。そして妻は「家内」、夫は「主人」と呼ばれる。法律はともかく、人々の意識はまだ戦前の家制度を引きずっている。
それどころか、日本ではまだ、法律上結婚は異性同士の単婚制(一夫一婦制)に限定されている。それは戦後日本の社会保障が「夫、妻、未婚の子」の核家族を標準世帯とし、男は外で働き、女は家族の面倒をみるという性別役割分担意識が深く刻み込まれているからだ。
こうした結婚観は、時代でいえば18〜19世紀ドイツの哲学におけるそれにとどまっている。19世紀ドイツの法学者フリードリッヒ・カール・フォン・サヴィニーは、婚姻とは個人の権利や意志から独立した制度であると述べ、18世紀にカントは、一夫一婦制の意義を、異性同士のふたりが相互に自分の全人格を委ね合うことによって、自己を性欲の対象として相手に与え、かくして種族を保存することにあるとした。
だが今日の欧米では、同性婚が認められ、合法化されつつある。アメリカ合衆国において2015年6月25日、連邦最高裁判所が、同性婚に異性婚と同じく憲法上の権利を認めた。長らく異性単婚のみを法的に正当化してきた欧米にも、同性婚を認める、あるいは合法化する流れが生じており、いまや日本以外のG7諸国は同性婚を認めている。
日本では近年、地方裁判所レベルで、「同性婚が認められないことは憲法14条に反する」などの判決が複数出ている。しかし首相やその近辺、国会などが、同性婚を認めると「社会が変わってしまう」などときわめて否定的、時代錯誤的な見解を示している。こんなふうにマイノリティの権利を認めない国家に未来はないだろう。
さらにヨーロッパには、法律婚にこだわらない国々もある。たとえばオランダには「登録パートナー制度」がある。それは男女に限らず同性カップルのパートナーシップも認めた制度で、2000年には養子を迎えることも認めている。この制度ができて以来、オランダではとくに法律婚に固執することのない、パートナー社会に変化してきているという。またスウェーデンでは、社会組織の単位が家族でなく個人におかれ、性別役割分業の否定に基づく家族政策がとられている。同国では「サンボ法」というものがあって、サンボと呼ばれる同棲カップルに、婚姻関係にある夫婦とほぼ同等の権利が与えられている。欧米ではこのように、結婚の自由化が徐々に進んでいるといえる。
同性婚やパートナーシップ制を
認めればそれでいいのか?
しかしここで注意すべきことがある。同性婚やパートナーシップ制を認めればそれでいい、というわけではないことである。アメリカの判決は、異性単婚制と並んで同性単婚制をも法的に認める、というものであるにすぎない。
法廷意見では「婚姻は、愛、忠誠、献身、犠牲、家族の崇高な理想を体現する」ものであり、(同性同士であれ)二者間の性愛に基づく関係は、その「崇高な理想」を体現するものであるから、法はそうした関係を過不足なく保護しなければならない、と言われている。法によって保護されるべき結婚の仕方は相変わらず限定されている。二者間で「崇高な理想」を体現するものでなければならない、というのである。パートナーシップ制も異性であれ同性であれ、人間ふたりのカップルを当然の前提としている。
ということは、欧米のほとんどでも、〈まともな結婚〉とはふたりの個人によってなされる単婚に限られる、という古い「常識」からいまだに脱していないということだ。
なぜ複合婚がいけないの?
今日、LGBTQなど多様なセクシャリティを平等に承認すべきだという気運が欧米で高まりつつある。もちろん、世界の中にはいまだに同性愛を犯罪としている国々も少なくないし、アメリカの中でも州によっては同性愛や同性婚を認めないところもある。
とはいえ、LGBTQ差別をやめようという社会的合意が醸成されている国や社会では、それに伴って人と人との結びつき方、ひいては結婚の仕方も多様であってよく、したがって国にとって〈特定の〉結婚だけを合法化し、そうでない結婚を差別することをやめるべきではないだろうか。
ところで、アメリカの同性単婚を合憲とした判決の法廷意見を反対解釈してみよう。すると、いわゆる複合婚は合法化できない、〈異常な〉婚姻として保護されるべきではないという話になる。
複合婚の例としては、三者以上で性愛関係を営む関係(一夫多妻、一妻多夫、多妻多夫、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの複合婚など)、シングル・ペアレント、他者と性的関係を結びたくない人、生涯独身者、子を持たない夫婦、等々があげられる。
これらの多様な性愛の例示を見て、理由もなく眉をひそめる人々もいることだろう。とくに現代日本ではなぜか、不倫が発覚した有名人を異常なほど叩いて引きずり降ろす傾向がある(他人に関係のないプライベートなことなのにね)から、一夫多妻、一妻多夫なんてもっての外、絶対に認められないと言われそうだ。
だが性愛のかたちはその人のセクシャリティによって多種多様だ。同時に複数の人々(異性であれ同性であれバイセクシャルであれトランスジェンダーであれ)を深く愛しうる人々もいるし、そのように愛されることを喜んで受け入れる人々もいる。
相手を愛するものの性的欲求をもたない人々もいる。パートナーはいらないが子は欲しいという人々もいる。逆に子をもうけたくない夫婦もいる。当事者同士が満足しており、他の人々に危害を与えることがなければ、これらの関係を非難する必要はないのではないか。
ジョン・スチュアート・ミルは『自由論』で、19世紀当時のイギリスの世論の多数がモルモン教徒の一夫多妻制を力によってやめさせるべきだと公然と主張していたことに対してこう述べた。
「彼らと全然無関係な人々が踏み込んで、直接利害関係のある全ての当事者が満足しているように見える社会状態に対して、その制度と全然無関係な数千マイルの外にある人々にとってそれが憤激すべきことだからといって、その廃棄を要求しなくてはならないというようなことは、私には到底承認できないことである」
彼も個人的には一夫多妻に批判的ではあった。しかしその関係がモルモン教信者の女性たちの自発的な意志に基づいているものであり、かつ一夫一婦制を採っている国々の人々に信者が自分たちの婚姻制度を強要している訳ではない以上は自由にさせておくべきである、と考えていたのである。
写真/shutterstock
『ルールはそもそもなんのためにあるのか』 (ちくまプリマー新書)
住吉 雅美 (著)
11月9日発売
880円(税込)
176ページ
978-4480684660
ブルシットなルールに従う前に考えてみよう!
この国で疲弊しているあなたには「法哲学」が必要だ
決められたことには疑問も持たず従うことが正しいと思っている人が日本社会には多い。だが、ルールはどういう趣旨で存在するのか、その目的を理解した上で従うものではないか?
ルールの原理を問い、武器に変える法哲学入門。
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ルールは、そもそも何でそういうルールが作られたのかという目的を考えなければ理解できないし、また、それを忠実に守ることによって自分が得られる利益と、それを破ることによって得られる利益とを天秤にかける必要も出てくる。……
私は、守った人が損をするルールはダメルールだと考えている。その意味では日本の議会、政府、自治体は、ルール作りがヘタッぴだなーと思っている。そういう怒りを込めて、この本を書こう。……
フランスのアナーキスト、ピエール・ジョセフ・プルードンは言った、「法律は、金持ちにとっては蜘蛛の巣。政府にとっては漁網、人民にとってはいくら身をよじっても脱けられない罠」だと。まさに今の日本の状況そのものじゃないか!……
こんな日本でルールをどう語ったら良いのか。政府や役所を信頼してもしょうがないから、庶民が各自の生活と命を守るための自生的なルールの可能性を考えてみよう。
(はじめにより)
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