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動画配信事業で苦戦か…エンタメ業界の巨人ディズニーがアクティビストに狙われる理由

集英社オンライン / 2023年12月7日 8時1分

11月30日、アクティビスト(物言う株主)のトライアン・ファンド・マネジメントが、ウォルト・ディズニーに3人の取締役選任を求める声明を出した。これに対してディズニーは、取締役会の刷新を図っていることや、75億ドルものコスト削減を達成したことなどを表明。そんななか、ディズニーの鬼門となっているのが、動画配信事業だ。抜け目ないアクティビストが、ディズニーの虎の子を巡って執拗に攻撃を加えている。

収益基盤となるアメリカと成長期待の高いインドで苦戦

まずはウォルト・ディズニーの業績から振り返りたい。

11月8日に発表した通期決算によると、2023年度の売上高は前年比7%増の888億ドル、営業利益は同6%増の128億ドルだった。増収増益だ。しかし、業績を支えているのはテーマパーク事業に他ならない。2023年度のこの事業の営業利益は39億ドルで、前年比23%も増加した。



動画配信事業は26億ドルの赤字。前年の40億ドルと比較すると赤字幅は縮小しているものの、ディズニーには逆風が吹き荒れている。その原因はアメリカとインドでの苦戦だ。

ディズニーがグローバルで展開する定額制公式動画配信サービス「Disney+」のアメリカのユーザー数は、4600万人前後で足踏みが続いている。

アメリカのDisney+加入者の平均単価は7.5ドル。インドを除く他のエリアの平均単価6.1ドルと比較すると割高だ。Disney+は、成長ドライバーとなるアメリカ市場で高止まりが続いている。

ウォルト・ディズニーはインドでも苦戦している。同社は13億人もの巨大市場であるインドを攻略するため、2015年に創業したインド最大のエンターテインメントアプリ「Hotstar」を傘下に入れた。もともとは21世紀フォックスが抱えてものを、2019年のフォックス買収で手にしたのだ。

現在は、Disney+Hotstarというサービスで、マーベルなどのキラーコンテンツをHotstarの加入者に提供している。実はこのDisney+Hotstarの平均単価は0.7ドルと極めて安い。

しばらくは先行投資で旨味がないが、13億人という巨大な市場を制することによって、長期的には巨額の利益が得られるという目論見があったのだろう。しかし、課金ユーザー数は急減している。

その失速の背景にあるのが、クリケットからの撤退だった。

熱狂的な人気のクリケットを巡る巨額入札合戦

インドのHotstarの課金ユーザー数は、ピークの6100万人から3700万人まで縮小した。

Hotstarの人気はインドの国民的なスポーツであるクリケットに支えられていた。2028年に開催されるロサンゼルスオリンピックではクリケットの採用が決定しており、インドでのその熱は高まる一方だ。

ウォルト・ディズニーはインドのプロクリケットリーグである「インディアン・プレミアリーグ」の2022年までの配信と放送の権利を持っていた。しかし、2023年から2027年までの配信権獲得を断念したのだ。

配信権は2050億ルピー(現在の相場で3600億円)でViacom18が取得した。この会社はインドの富豪ムケーシュ・アンバニ氏のメディア企業だ。ウォルト・ディズニーは4000億円でテレビ放映権を取得したが、動画の配信を見送っている。それが課金ユーザー数の失速を招いた。

なお、21世紀フォックスの傘下にあったスター・インディアが権利を落札した金額は2800億円余りだった。それでも高額だと言われていたが、テレビと動画配信の二極化が進んだことで、その価格は狂乱ともいえるほどに高騰している。

Disney+は事実上、インドから撤退したともいえるだろう。

もっと早く課金ユーザー数を獲得していれば、状況は違ったはずだ。しかし、単価が低く、成長も鈍いのであれば、撤退を迫られるのも無理はない。ましてや、アクティビストに狙われていれば、拙速な意思決定などできるはずもない。

Hulu買収でDisney+は変わることができるか?

ウォルト・ディズニーは今年11月に動画配信サービス「Hulu」の全株を取得すると発表した。株式の33%をコムキャストから86億ドルで取得するというものだ。1兆円もの巨額取引である。

Huluはウォルト・ディズニー、コムキャスト、21世紀フォックス、タイム・ワーナーが共同で出資して設立した。ディズニーがフォックスを買収し、タイム・ワーナーを取得したアメリカの大手通信会社AT&TがHuluの持ち株を放出したため、ディズニーの持ち株比率は7割に近づいていた。

ディズニーによるHuluの完全子会社化を進言したのもアクティビストだった。日本ではセブン&アイ・ホールディングスに祖業のイトーヨーカ堂を売却するよう求めたことで知られる、サード・ポイントだ。
サード・ポイントはHuluを完全子会社化してDisney+と統合するよう要求していた。この要望は合理的だ。

デジタル動画レコーダーを手がけるTiVoによると、アメリカの消費者は一人平均9.86もの動画配信サービスを利用していることがわかった。昨年の調査では8.8だった。ウォルト・ディズニーの主戦場であるアメリカ市場は、すでに動画配信サービス契約数が飽和状態を迎えており、後発であるDisney+の入り込む余地が少なくなっている。HuluとDisney+を統合し、コンテンツ力を拡大したほうが差別化を図りやすいのだ。

さらにウォルト・ディズニーには苦い経験がある

現在のCEOであるボブ・アイガー氏は、かつてピクサーやマーベルなどの買収を手がけて会社の成長をけん引した立役者だ。しかし、後任のボブ・チャペック氏は、Disney+に本格ホラーを導入するなど、ファミリー層を獲得するという従来の路線を変更した。

また、動画配信のドラマを強化して映画を軽視した結果、マーベルなどの主力コンテンツの持ち味が失われた。

映像事業もテーマパークに事業も、ウォルト・ディズニーはコンテンツの力で消費者を魔法にかけ、熱狂させてきた。それがいつの間にか、動画配信という枠組に自らを押しこんで、コンテンツ力を失ったのだ。

Disney+とHuluを統合すれば、ターゲットの補完関係が成り立つ。ユーザーの獲得や配信インフラをHuluが手掛け、ウォルト・ディズニーがコンテンツ作りに経営資源を集中するという切り分けも可能なはずだ。

トライアン・ファンド・マネジメントとの対立は厄介なタイミングでやってきた。ボブ・アイガー氏が再びCEOとなり、新たな組織として生まれ変わろうとしていたからだ。
委任状争奪戦は経営陣の負担が重く、事業運営に支障をきたす。トライアンのトップに立つネルソン・ぺルツ氏と、水面下で激しい交渉を重ねているに違いない。その動向には今後も注目だ。

取材・文/不破聡

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