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「疲れを感じにくいのに運動強度が高い」…体質を改善しながら筋力を鍛えられる最高のアイテム「自転車」

集英社オンライン / 2023年12月13日 17時1分

ウォーキングやランニング、筋トレなど、近年さまざまな運動が奨励されているが、そのなかにあって、気軽に取り入れることができて疲れにくく、運動強度も高い最高のアイテムとは自転車だという。なぜ自転車なのか、日本の道路事情もリンクさせながら、その理由を解説する。

なぜ自転車なのか

健康づくりのために、運動が必要なことは誰もが知っています。では、どの程度の運動が必要なのでしょうか。米国スポーツ医学会は、健康づくりのための運動として「50%程度の運動強度で、1日に30分間、週に5回、または70%程度の運動強度で、1日に20分間、週に3回の有酸素運動を行う必要がある」としています。

50%以上の運動強度といわれても、どれくらいの運動をすればいいのかよくわからないと思います。運動強度については2章で詳しく解説しますが、とりあえずいまは、息が切れてもう動けないというときの運動強度を100%とし、その半分が50%の運動強度だと考えてください。



しかし、その運動時間をつくるのが難しい、という忙しい方も多いことでしょう。まして週に3回以上といわれると、ハードルが高く感じます。そこでおすすめするのが自転車を通勤や通学、買い物などに取り入れることです。

本書では自転車運動を生活のなかに取り入れることで、気持ちよく健康になる方法を紹介していきます。ただし、やはり運動強度を高めるための乗り方のコツがあります。そのさいのキーワードが「疲れない運動」です。疲労を感じないと運動した意味がないと考えがちですが、それは正しくありません。その理由をこの節で見ていくことにしましょう。

なぜ自転車なのでしょうか。

図1-1

歩行または自転車走行で1分間運動したときのエネルギー消費量を比較した結果があります(図1-1)。この図を見ると、自転車でゆっくり走ると、歩行と比べて1分間あたりの運動量は減っています。自転車が、とても運動効率のいい乗り物であることがわかります。ところが、スピードを上げると、時速15キロメートル(一般的な自転車の速度)のあたりから、早歩きよりもエネルギー消費量が多くなり、時速18キロメートルでは、大きな差が出ています。

図1-2

図1-2は、標準的な体力を持つ40代の女性が若干のアップダウンのある約3.8キロメートルの道のりを、とくに急ぐことなく歩行と自転車で走行した場合の心拍数の変化を比較したものです。所要時間は歩行で44分間、自転車で16分間です。

歩行では大半の運動強度が50%以下なので、健康づくりにはもう少し高い運動強度がのぞまれます。一方、自転車では大部分の走行時間で運動強度が60%を超えています。このように、自転車では推奨される「50%以上の運動強度」を、それほど無理することなく行うことができるのです。

どちらもとくに急ぐことなく運動を行ったのに、なぜ自転車では心拍数が上昇したのでしょうか。図を見ると、自転車では歩行よりも心拍数の変動幅が大きいことがわかります。これは自転車の場合、発進や坂道で運動強度が大きく増加するためです。

実は、交差点の中央部は水がたまらないように少し高くなっています。そのため、信号などで交差点の手前に停止すると、そのたびに発進・加速を緩い上り坂で行うことになります。日本の街中は信号機が多く、そこでの停止・発進のさいには大きな筋力を使うことになるのです。このように自転車では、運動強度を変動させるインターバル・トレーニングを自然に行うことができ、大きな力を出す筋力トレーニングの要素も含まれるため、心拍数が上昇しやすいのです。

自転車にはもうひとつ大きなメリットがあります。さきほど、「50%以上の運動強度」を目安にと紹介しました。たとえばジョギングでもこの運動強度を超えることができます。しかし、ふだん運動不足の人が、いきなりジョギングを始めると、ひざを痛めるなど、怪我をしてしまうおそれがあります。とくにメタボリック・シンドロームで過体重の人は要注意です。自転車には着地時の衝撃がない点も大きな利点です。

さらに、自転車は、通勤や買い物など、自分の生活のなかに取り入れやすいという利点もあります。米国スポーツ医学会の指標では「週に3〜5回の運動」が推奨されています。ふだんの生活に習慣として取り入れやすい運動としておすすめする理由はここにもあります。

自転車を生活に取り入れるだけで

実際に、自転車通勤は健康づくりに効果があるのでしょうか。

日本では、欧米に比べて自転車専用道が少なく信号機が多いため、一定の速度を保った状態で自転車走行することが難しいという特徴があります。そのような交通事情の中で自転車通勤を続けている人たちが、どれくらいの走行速度・時間、運動強度で通勤を行い、その結果、どのような健康づくりの効果を得ているのかを調査した結果を紹介します。

この調査は、東海地方在住で自転車通勤を日常的に続けている平均年齢37歳の男性10名にご協力いただき行いました。北京オリンピックで日本のマウンテンバイク代表チームの監督を務められた西井匠さん(現「サイクリストの秘密ラボ・flasco」主宰)、自転車部品メーカーの株式会社シマノ、名古屋市立大学などの共同研究グループで行ったものです。

被験者10名はクロスバイクやロードバイク、マウンテンバイクなどのスポーツ自転車で通勤していましたが、自転車競技に定期的に参加するために、通勤を練習の一環にしている人はいませんでした。

自転車通勤の頻度は平均で週に3.6日、片道の距離は13.3キロメートル、走行時間は40分ほどです。また、自転車通勤以外の運動を日常的に行っている人は3名(水泳1名、週末のサイクリング2名)、それ以外の7名は自転車通勤だけが日常的に続けている運動です。

さて、この被験者たちの自転車通勤時の運動強度はどれくらいでしょうか。平均の運動強度を測定すると56%でしたが、そのなかには87%という高い運動強度が含まれていました。

平均時速は約20キロメートルとそれほど速くなかったのですが、詳しく分析すると停止・発進の繰り返しや、上り坂で心拍数が上昇して運動強度が高くなっていました。健康づくりで推奨される「50%以上の運動強度」を、往路の走行時間の76%、復路の65%で達成し、しかも70%以上の高強度が往路で22%、復路で13%含まれていました。

自転車通勤には、高強度の運動を間欠的に行うインターバル・トレーニングの要素が含まれている実態が明らかになりました。

それでは、肝心の健康状態はどうだったのでしょうか。血糖値やコレステロールの数値はいずれも正常の範囲内で良好でした。コレステロールには、動脈硬化を促進する悪玉のLDLと、逆に動脈硬化を抑制する善玉のHDLがあります。LDLとHDLの比が2.0以上は動脈硬化が進んでいるおそれがあります。

自転車通勤をしている被験者たちのLDLとHDLの比の平均値は1.68と2.0を下回り、エネルギーの余り具合を反映する中性脂肪もとても低い値でした(図1-3)。

図1-3

そして運動能力をあらわす「体重1キログラム当たりの1分間の最大酸素摂取量」は、55.9±8.4(ミリリットル)という値になり、これは同年齢層の男性の基準値を大きく上回り、持久力に優れているという結果が得られました。

このように、自転車を通勤に取り入れるだけで、持久力を高めることができ、さまざまな健康指標でもよい値を出すことができます。これが、生活のなかに自転車運動を無理なく取り入れることをおすすめする理由なのです。

屋外のサイクリングは
疲労感よりも爽快感が上回る!

さきほど紹介した10名の方は、週に3.6日ほどの自転車通勤を行っていました。往路と復路の間には仕事のため8時間以上の間隔があり、往路と復路は独立した運動と見なすことができます。そのため、この方たちは週に7回以上の高頻度で有酸素運動を行っていることになります。しかも自転車通勤には高強度の運動も含まれていました。

しかし、自転車通勤をしたことのない読者の方には、仕事の前後に運動をするのはつらいのではないか、と思う人が多いかもしれません。私たちは、この10名の方に自転車通勤についてのアンケート調査を行いました。すると、回答から「疲労感よりも爽快感が大きく上回る」ことがわかりました(図1-4)。

図1-4

さらに、さまざまな年齢層の男女の方々にご協力いただき、同様の運動強度と感覚テストを行いましたが、その結果からも、自転車では運動強度80%くらいまでの走行でも、「つらい」「疲れた」という声よりも「爽快」「楽しい」という肯定的な感想が上回ります。自転車では、80%くらいまでの運動強度では、心拍数が高い割にはつらさを感じにくいのです。

ただし、これには一つ重要な条件があります。それは、実際に屋外で走行することです。実は、室内に固定された「自転車エルゴメータ」を用いた実験では、運動強度の低い段階から「つらい」「暑い」「脚が疲れた」「嫌になった」など否定的な感想が多く聞かれるのです。

自転車エルゴメータは、ジムなどにあるフィットネス・バイクのようなものですが、ペダルをこぐさいの負荷を任意に変えることができます。

屋外と室内のこの違いは、屋外のサイクリングで味わえる風やスピード感が影響しているのではないかと私は推測しています。時速20キロメートル近い自転車走行に伴う風を受けて、身体が冷やされることで暑さや疲労感が和らぎます。

スピード感や景色が爽快感をもたらし、また、周囲の交通状況に対して意識を向ける必要があることにより疲労感が軽減されるのでしょう。そのため、スポーツジムなどに設置された「フィットネスバイク」などのトレーニングよりも、通勤などで、生活に自転車を取り入れることをすすめます。

運動で感じる疲労度を、「非常にらく」から「非常にきつい」までの言葉で表し、それを6〜20の等級で示したものを「主観的作業強度」と呼びます(図1-5)。これは英語で「Rating of Perceived Exertion」といい、被験者が感じている努力の度合いを数値として表現してもらう手法です。椅子などに座った安静状態を6、運動の限界状態を20としたとき、被験者に運動中の状態を答えてもらいます。

図1-5

私の研究室で大学生男女12名ずつを対象に行った調査では、主観的作業強度で「ややきつい」(等級13)と感じるレベルで自転車運動を行った場合、屋内のフィットネスバイクでは「仕事率」が平均60ワット(W)でしたが、屋外の実走行では平均80ワットに達しました。

仕事率は重いペダルを高速に回転させるほどその値が高くなり、運動強度に対応します。「ややきつい」という同じ疲労感でも、屋外でのサイクリングは、自転車エルゴメータよりも高い強度の運動ができることが明らかになりました。

図/書籍より
写真/shutterstock

自転車に乗る前に読む本 生理学データで読み解く「身体と自転車の科学」 (ブルーバックス)

髙石 鉄雄 (著)

2023年10月19日

1100円

192ページ

ISBN:

978-4065337110

キーワードは”疲れない”! 通勤・通学・買い物を「自転車」にかえるだけでいいんです! もちろん軽快車(ママチャリ)や電動アシスト付き自転車でも、体は変わります!

中年期から始まる筋力低下。そしてメタボリックシンドロームに起因する「糖尿病」「肥満」「循環器系のトラブル」……。体質を改善しながら、筋力を鍛えるための最高のアイテム「自転車」。

その乗り方のコツや体への影響を、運動生理学の専門家が、さまざまなデータとともにより運動効果を高めるための自転車の乗り方のコツ、そして体質を改善するための自転車活用の目安をレクチャーします。

ウォーキングやランニング、筋トレなど、さまざまな健康法が提唱されています。そのなかにあって、なぜ「自転車」なのか?

そのヒミツは、自転車の構造と体の使い方、そして道路事情にあります。

★信号待ちでとまる:無意識のうちに運動に緩急をつける「インターバルトレーニング」が行えています。

★交差点でとまる:交差点は中央部が高くなっています。そのためスタートで自然に脚に負荷がかかります。

★ツラくないから続く:被験者のフィードバックでは、ジムなどのエアロバイクよりも、野外を走る自転車は、同じ運動量であっても爽快感を感じており、運動を長く持続できます。

自転車に乗るまえに、必読の書です!

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