1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. スポーツ
  4. スポーツ総合

歩数にこだわっても、平地をただ歩いているだけではコレステロール値に与える影響は少ない 注目したい自転車の運動強度

集英社オンライン / 2023年12月15日 17時1分

成人は1日60分以上の歩行、筋トレは週2~3回――。先日厚生労働省が10年ぶりに身体活動・運動の目安となるガイド案をまとめたが、名古屋大学で運動生理学を研究する、髙石鉄雄氏曰く「ただ歩くだけではメタボリックシンドロームの予防効果はあまりない」という。氏の最新書籍『自転車に乗る前に読む本』から不都合な真実を、一部抜粋・再構成してお届けする。

#1

散歩では効果は出にくい

それでは、具体的にどのような有酸素運動ならば、メタボリック・シンドロームの予防につながるのでしょうか。

多くの日本人が取り組んでいる有酸素運動はウォーキングです。中高年の人ならば、健康づくりに「1日1万歩」が推奨されてきたことをご存じでしょう。



「1日1万歩」が提唱され始めたのは、肥満を原因とする血管系障害が目立ち始めた1960年代半ばのことです。1986年、週に約2000キロカロリー(1日約300キロカロリー)の運動が、さまざまな疾患による死亡率を低下させるという研究が発表され、「1日1万歩」というスローガンはさらに広まりました。

ウォーキングはメタボリック・シンドロームの予防に有効なのでしょうか。2003年に、私は大学近くの川沿いをウォーキングしている高齢者に協力していただき、ウォーキングの効果を測定しました。

調査対象は歩行習慣のある平均年齢が約70歳の男女それぞれ12名の計24名です。その平均BMIは約24で肥満とは判定されませんが、少しぽっちゃりした体型です。平均でみると歩行歴は約10年、1日に約8000歩、週5日の歩行習慣のある人たちです。

まず血液検査を行い、歩行習慣がどのくらい血液の状態に反映されているのかを調べました。空腹時の血糖値と中性脂肪の値は、エネルギーの余り具合を示しています。血糖値はメタボリック・シンドロームの基準値を2名がわずかに上回っていますが問題のないレベルで、そのほかの方たちは基準値以下です。また、中性脂肪の値は基準を大きく上回っている3名の方は問題がありますが、こちらも大半の人は基準値以下です(図3-9右上)。

図3-9

この2つの数値のデータからは、歩行習慣が健康づくり、メタボリック・シンドロームの予防に一定の効果を発揮しているといえます。

次にコレステロール値を見てみましょう(図3-9中)。まず血中のコレステロールの総量を示す総コレステロールは220(mg/dL)以下が正常値ですが、歩行習慣を持つ人の半数程度の人が基準を上回っています。

コレステロールで注目すべきは、動脈硬化の原因となる悪玉であるLDLコレステロールの値です。140(mg/dL)以上は脂質異常症と診断されます。24名のうち、男性6名・女性6名と男女の半数が基準値を超えていました。歩行習慣を持つ半数の人たちが脂質異常症と診断されるレベルなのです。

HDLコレステロールについても調べました。これは、血液の通り道である血管内腔から内皮細胞を通り抜けて血管内膜に入り込んで動脈硬化を引き起こすコレステロールを、血管内腔へ連れ戻し、コレステロールが合成される肝臓へ返す働きをします。HDLコレステロールは、動脈硬化を予防する効果を持つため「善玉コレステロール」と呼ばれます。こちらは40(mg/dL)以上が基準値で、数値が高い方が動脈硬化が起きにくくなります。

歩行習慣を持つ24名のHDLコレステロールの数値は、1名を除きすべて基準値をクリアしています。ただし、半数の人の数値は同年齢の平均値と同じレベルでした。平均値には運動習慣のない人たちの数値も反映されています。つまり、歩行習慣を持つ人の半数は、HDLコレステロールの数値が何も運動していない人と変わらないのです。

動脈硬化に関係するLDLやHDLのコレステロール値をみると、歩行習慣による健康づくり、メタボリック・シンドローム予防の効果が十分に認められない人が半数もいることになります。

心拍数を高める歩き方に変えたら

1日に平均8000歩、週5日もウォーキングを行っているのに、なぜ半数の人には、メタボリック・シンドロームの十分な予防効果があらわれないのでしょうか。

それを調べるために、歩行中の心拍数を測定しました。ある人の測定値を見ると、平均心拍数は約98で、ときどき100を超える程度でした。

24名それぞれについて、歩行中の心拍数の測定値から運動強度を導き出したところ、24名の平均値が37%となり、これは推奨される「50%以上の運動強度」を大きく下回っています(図3-10)。50%を超える方はわずかに2人だけという結果になり、さらに30%を下回る人が3割もいました。

図3-10

もう少し詳しく、ウォーキングの運動効果について見てみましょう。24名のうち、ほとんどの人は分速75〜85メートル程度、時速にすると4.5〜5.1キロメートル程度と歩行速度があまり速くないことがわかりました。

また、ほとんどの人が平地のコースを歩いていたため運動強度が低過ぎたのです。このような散歩程度の運動強度は、身体や脳にとっては定常状態であり、糖や脂質の代謝が促進されないため、LDLやHDLコレステロールの数値が運動をしていない人と変わらないのです。高齢者でも運動強度がもっと高くなる分速90〜110メートル(時速5.4〜6.6キロメートル)の歩行速度を目標にすべきです。

私は、24名の方たちひとりずつに、各人の測定データと必要な運動強度を示して、歩くコースや速度を変更する運動指導を行いました。

ある人には、100メートルあたり6〜7メートル高くなる傾斜(勾配率6〜7%)の坂道を、上ったり下ったりする経路に変更してもらいました。そのさい、上り坂と平地では歩く速度をいままでどおりに、下り坂ではひざに負担がかかるのでスピードを落とすように注意しました。

経路を変更する前後の心拍数を比較すると、指導前は運動開始15分後からの約40分間、毎分110〜120拍でほぼ一定していました(この方は、安静時心拍数が高いため、これでも50%HRRに達していません)。それに対して指導後は、心拍数が急激に増えて140を超えるところが2ヵ所ありました。それは坂道を上っているときのもので、運動強度が増してたくさんのエネルギーが必要なため心拍数が上昇したのです。

別の人には、経路の数ヵ所の区間で、速度を上げて歩くようにお願いしました。たとえば、川にかかる橋から次の橋の間の350メートルを、指導前は4分30秒で歩いていましたが、30秒縮めて4分で歩いてもらいました。歩行速度を分速78メートルから88メートルほどに上げるように指導したのです。すると運動時間の大部分で心拍数が毎分あたり20拍ほど増えました。

24名の参加者それぞれにこのような具体的な運動指導を行い、週5日歩いていたうち、1週間に平均で2.7日、8週間、実践していただきました。

24名の方の平均の運動時心拍数は、毎分約98拍から108拍へと、10拍分(10%)ほど上がり、最高心拍数は、毎分107拍から122拍へと、15拍上昇しました。

歩行速度の平均値は指導前の分速87メートルから指導後は92メートルと速くなり、先述の歩行速度の目標、分速90〜110メートルに達しました。そして、運動強度は、指導前の平均37%から指導後には48%へと11ポイントアップし、推奨されている50%に近い運動強度となりました。

運動方法を改善した結果は!

さて、推奨される運動強度を8週間続けた効果はあらわれたのでしょうか。

指導前と指導8週後の血液検査の数値で5%以上の有意な差が現れたのは、動脈硬化の原因となるLDLコレステロール値でした。指導前の平均139(mg/dL)という値が、124(mg/dL)まで低下しました。140(mg/dL)以上が脂質異常症と診断されるので、基準値ぎりぎりだった値が15(mg/dL)も下がったのです。

この調査は、8週後の血液検査でいったん終了しましたが、指導24週後に再び血液検査をさせていただきました。その間、指導どおりの運動を続けてくださいとはお願いしませんでしたが、みなさん、指導を反映したウォーキングを続けたそうです。

24週後の血液検査の結果、LDLコレステロールは低い値が維持され、さらに中性脂肪の値は、指導前の平均115(mg/dL)から90(mg/dL)へと25(mg/dL)も低下しました(図3-11)。

図3-11

この調査結果をまとめると、指導前の散歩程度の運動強度でも有酸素運動の習慣を持つことによって糖や脂質の消費量が増加し、血糖値や中性脂肪値というエネルギーの余り具合を示す数値は基準値以下を達成している人が大半でした。

動脈硬化に悪影響を及ぼす内臓脂肪の蓄積を防止する一定の効果があると考えられます。しかし、散歩程度の運動強度では、LDLコレステロールの数値は改善せず、動脈硬化を抑制する効果は不十分です。やはり、50%以上の運動強度の有酸素運動を行うことで、LDLコレステロール値の改善効果が多くの人に現れ、動脈硬化を抑制する効果が期待できます。

図/書籍より
写真/shutterstock

自転車に乗る前に読む本 生理学データで読み解く「身体と自転車の科学」 (ブルーバックス)

髙石 鉄雄 (著)

2023年10月19日

1100円

192ページ

ISBN:

978-4065337110

キーワードは”疲れない”! 通勤・通学・買い物を「自転車」にかえるだけでいいんです! もちろん軽快車(ママチャリ)や電動アシスト付き自転車でも、体は変わります!

中年期から始まる筋力低下。そしてメタボリックシンドロームに起因する「糖尿病」「肥満」「循環器系のトラブル」……。体質を改善しながら、筋力を鍛えるための最高のアイテム「自転車」。

その乗り方のコツや体への影響を、運動生理学の専門家が、さまざまなデータとともにより運動効果を高めるための自転車の乗り方のコツ、そして体質を改善するための自転車活用の目安をレクチャーします。

ウォーキングやランニング、筋トレなど、さまざまな健康法が提唱されています。そのなかにあって、なぜ「自転車」なのか?

そのヒミツは、自転車の構造と体の使い方、そして道路事情にあります。

★信号待ちでとまる:無意識のうちに運動に緩急をつける「インターバルトレーニング」が行えています。

★交差点でとまる:交差点は中央部が高くなっています。そのためスタートで自然に脚に負荷がかかります。

★ツラくないから続く:被験者のフィードバックでは、ジムなどのエアロバイクよりも、野外を走る自転車は、同じ運動量であっても爽快感を感じており、運動を長く持続できます。

自転車に乗るまえに、必読の書です!

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください