――「人間は愛するために生きている」と公言していた寂聴さんと、どんな恋バナをしていたのか気になります。
最後の3年くらいは、先生が過去に付き合っていた方のお話を突然されることが結構ありました。特に井上光晴さんの話が多かったかなあ。「あんなにおもしろい人はいなかった。でもあんなに嘘をつく人もいなかった」なんて言っていましたね。
小田仁二郎さんは本当に優しくていい人だったそう。同人誌で知り合った小田さんは小説の師匠のような存在だったのですが、「小説家というのは苦しいもの。できれば君にはそんな苦労はさせたくないんだ」と喫茶店で泣いたことがあるそうなんです。それを聞いて僕はすごく優しい人だと思ったんですが、「本当に優しかったら『君がやりたいようにしなさい。小説を書きなさい』と言うはずだ」なんて、妙に冷静なところもありました。
僕自身の話も随分しましたよ。何人か付き合った人を先生に紹介しましたが、ことごとくうまくいかなくて。「あなたに問題があるわよ」と言われましたね。実は別れた妻と再婚をしたのですが、結局、逃げられてしまいまして。たまたま寂庵にいるときに「家を出ます」と電話がかかってきて、びっくりした僕は反射的に先生に電話を代わってしまったんです。そこから2時間くらい説得してくれました。結局「意志が固くてダメだった。彼女は大したもんだ!」って(笑)。自分自身も出奔した人ですからね。先生が説得してダメなら、日本中誰が説得してもダメだったと思います。