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「被災地の現状よりも、そこで食べた550円のオムライスの写真のほうがバズるSNSの現状にモヤッとして…」選挙に憑りつかれたライター・畠山理仁が提唱する“選挙漫遊”の極意

集英社オンライン / 2023年12月7日 12時1分

マスメディアから「泡沫」と呼ばれてきた数々の選挙立候補者たちを25年間取材してきたノンフィクションライターを密着ドキュメントした映画『NO選挙,NO LIFE』(前田亜紀監督)が話題を呼んでいる。同作の主人公にして「コスパ、タイパ無視」ライター・畠山理仁と前田監督、旧知の仲である水道橋博士の3人で語ってもらった鼎談のスピンオフ。

#1と#2の鼎談の最後、水道橋博士に「博士がリスペクトするライター界のレジェンド竹中労と畠山理仁に共通すると思うものがあれば教えてほしい」とたずねたところ、こんな答えが返ってきた。

「“右翼でなく左翼でもない、みんな仲良く。”これを言ったのは喜納昌吉ですが、竹中労も、“左右を弁別せざる状況”を志向しつづけた人。その上をいくというか、左右もなければ上下もない、というのが畠山さんなんだね。ちがいは、竹中労はあまねく人を見て、批判をすることで状況を生もうとしてきたけれど、畠山さんは激烈な批判はしない。共通するのは、眼差し。とびきり弱者にやさしいことですね」



Zoomの画面を凝視していた畠山さんが「いやあ」と恐縮する。博士がフェイドアウトした後、監督と畠山氏、居合わせた編集者の座談となった。

ポレポレ東中野のロビーにて(撮影/朝山実)

──結局、畠山さんが「権力」を持ちたいと思われるようになったのはいつ頃からですか。

畠山理仁(以下、畠山) いよいよお金が尽き、(選挙取材からの)引退を考えはじめたあたりからですかねぇ。やめる前に一発花火をあげたいとか、もし自分がイチローだったら、もっとたくさんの人が興味をもってくれるんじゃないかとか。自分にもっと発信力があれば状況は違ってくるのかもしれないと思ったところから、権力志向に目覚めはじめるんですね。

前田亜紀(以下、前田) え、そうなんですか?

畠山 ただ、僕が望むものは「みんな自由に生きていいんじゃないの」。そういう世の中にするために影響力をもちたい。

前田 それはいつ頃からですか?

畠山 2017年に『黙殺』で開高健ノンフィクション賞をもらい、仕事を評価してもらえたことで気持ちの余裕ができてからですね。

前田 気持ちの余裕ができてから?

畠山 そうそう。評価はしてもらえたけれど、なかなか本は売れない。まだまだだなあ、と。同時に世の中がギスギスしはじめた。外国人に対するヘイトだとか、性的マイノリティに対して厳しいことを言いがちな世の中は嫌なので、なんとかしないといけない、どうしたらいいのかと考えるようになり……。

──いっそ、畠山さんご自身が選挙に立候補されるというのは?

畠山 アハハハハ。僕は向いてないです。得票が数字となって結果が出るのは耐えられないですから。それに僕ひとりが立候補するよりも、「選挙に出ませんか」とたくさんの人に声をかけつづけることのほうが大事だと思うんです。これは僕しかできない。自分が立候補するとなれば、その人たちがライバルになるのは嫌ですから。

前田 (じっと畠山を見る)

畠山 実際、声をかけていると、けっこう選挙に出てくれる人はいるんです。たまに「『黙殺』を読んで選挙に出ようと思いました」と言ってくれる人がいて。もしくは、出ようと思っていたときに『黙殺』を読んで意思を固めた人だとか。そうか。意外といいことをしている(笑)。そういうふうに自分で自分を褒めて励まさないと続けられない状況がこの何年かあって。

前田 畠山さんを褒めている人はたくさんいますよ。

畠山 ええ。とてもありがたいです。でも、もっともっと世の中に広げないと。

ドライブインの550円のオムライスから始まった「選挙漫遊」

──以前は見かけなかったことですが、そういえば最近、畠山さんは政治的な意見、考えをTwitterで発信することが増えているように思います。

畠山 これまでにもSNSはいろいろ試してきていて、いまは僕自身が言わないといけないと思うくらい、政治に危機感を抱いています。おそらく僕は、右寄りの人からは「左」に、リベラルな人には「右翼っぽい人と仲がいい」と見られるんですけど、僕自身は公平、フェアでありたい。

だから特定の候補を応援することはしません。「選挙に出てくれる人はみんな頑張って」と思っています。以前は僕が意見を発信しなくても、有権者のみなさんがしっかり判断してくれるだろうという気がしてたんです。

イベントには大川興業の大川豊総裁(右)も登場した(撮影/朝山実)

──SNSで試されてきたというのは?

畠山 自分が食べた料理の写真を載せて、内容は選挙にかかわるマジメなことを書いていたんです。そうすると食べ物の写真がフックになって、より見てもらえる。webメディアの人と話したときに「いまビュー数を稼げるのはネコ、オッパイ、ラーメンの三つだから」と言われたのがヒントになっています。オッパイはともかく、動物とラーメンの写真を載せて興味をもってもらう。それが後に「選挙漫遊」という概念を生み出すきっかけにもなりました。

前田 えー、そうなんですか?

畠山 たとえば福島県で被災して避難している人たちを取材したことを伝えたくて、記事を書くんです。だけど、これが届かなかった。「どうしたら読んでもらえるんだろうか?」と悩みながら、福島に向かう途中のドライブインで食べたオムライスの写真を載せたんです。「これを食べて取材に向かいます」と。そうしたら、ええっ!?というくらい多くの人に読まれた。550円のオムライスが、家を追われ避難している人についての文章の何百倍も見られるのかと愕然とするわけです。

前田 わかります。

畠山 それで次から食べ物の写真の下に一緒に伝えたい話を書くということを試すんです。「写真と本文は関係ありません」「避難している人たちの近くの名物の〇〇食堂の……」とやっていくと読んでくれる人が増える。そうか、政治は難しいと思われているけれど、「〇〇温泉に入りました」と写真を入れれば読まれる。「それなら今後は、選挙漫遊をしよう」と。

前田 なるほど。まんまと私も「漫遊」に引き込まれました(笑)。

畠山 2022年7月の参院選のときには、東京選挙区の立候補者「34人全員に会う」と決め、最後の一人で立憲民主党から出馬された蓮舫さんに会うために、長野まで車を運転していったんですよね。蓮舫さんから「ええっ、長野まで来てるの!?」と驚かれました。インタビュー時間は、わずか20秒でしたが。

前田 でも、「いい画が撮れましたねえ」とニコニコされていましたよね。

畠山 2時間半かけて行った甲斐がありました。漫遊ですから、そのあと道の駅に隣接した温泉に「20分だけ」と前田さんをお誘いし、さらに側にあった滑り台も「前田さん、滑りましょう」と提案しました。

「選挙」でダイエット効果あり?

前田 そうでした。そういえば私の兄が、畠山さんを取材しているというのを知って、最初はYahoo!の10分の映像(映画の出発点となった)を見て興味をもち、畠山さんのTwitterをフォローするようにもなったんです。その兄が「畠山さんはお金に困っているといっているわりに、ゴチソウを食べているよねえ」と素朴な疑問を口にしていたんです。

畠山 ああ、あれは……、やむなく美味しいものを食べているんです。そうそう。どうやったら、みなさんに活動を見てもらえるか。熟慮を重ねて、おいしい食事をSNSに載せるために、ステーキを頼んでいるんです。ですから、僕はもう仕方なく美味しいものを食べているわけです。見せるために。もう、仕方なく。

前田 (疑わしく目を細める)

畠山 いや、本当に。アハハハハ。だって、漫遊ですから。ただ、まだ動物はそんなに出せていないので、これからはそちらにもトライしてみたいですね。

──動物だと、いまはクマがヒットしているようですが。

前田 クマ、ですか。

畠山 それは恐ろしいということで?

クマのイメージ(Shutterstockより)

──最近人を襲ったというニュースが多いでしょう。畠山さん、取材してみませんか?

畠山 考えてみると、選挙取材は猟師のような側面もありますね。僕は車の窓を全開にして、耳をそばだてて選挙カーの音がするほうに近づいていく。山の中でクマの痕跡を見つけて、クマに迫っていくのに似ているかもしれない。

そういえば以前、「ツチノコを探して一攫千金を目指すのはどう?」とある知り合いから言われたことがあります。取材費をどうやって捻出しようという話をしたら、「岩手県の遠野で河童を捕獲して連れていけば1000万円もらえる」と教えていただいたこともありました。

前田 アドバイスされた人は本気で?

畠山 どうでしょうねえ(笑)。あるいは、「各地に友達をつくって選挙ごとに泊めてもらったら宿泊費はかからないだろう」とか。そうですか、クマねえ……。でも、出会うとよくないですよねえ。

──クマにも選挙を説いたというので人気もさらにアップするかもしれませんよ。

畠山 「選挙区をクマなく歩け」くらいしか言えない。でも、クマかぁ。選択肢のひとつかもしれませんねぇ(とメモする)。食べ物はどうですか?

──いちばんはラーメンですね、やはり。

畠山 ラーメンは選挙取材に向いているんですよね。サッと頼んで、サッっと出てきて、サッと食べられますから。ただ、行列するような店には無理。空いているところでないと。

前田 そういえば、取材中ゴハン抜きというのが何度かありましたよね。

畠山 お昼も、夕ご飯も、選挙取材スケジュールの中には入ってないですから。いつも朝早くに何か食べて出て、8時始まり、終了の20時までは食べないことが多いです。

前田 だから畠山さん、カメラ越しにも目に見えて痩せていくんですよね。

畠山 そう。痩せます。「選挙ダイエット」(笑)。参院選のときには10キロ痩せました。

──そういう本を書くのは?『さあ、センキョで痩せよう』とか。

畠山 選挙ダイエット本ですか(笑)。でも、痩せるのは本当なので、痩せたい人は試してみるのはありですよ。

構成/朝山実

『NO選挙,NO LIFE』(前田亜紀監督)は、東京・ポレポレ東中野、横浜・シネマ・ジャック&ベティほか全国ロードショーで絶賛公開中!

コロナ時代の選挙漫遊記

畠山 理仁

2021年10月5日発売

1,760円(税込)

四六判/304ページ

ISBN:

978-4-08-788067-0

選挙取材歴20年以上! 『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で第15回開高健ノンフィクション賞を受賞した著者による”楽しくてタメになる”選挙エッセイ。

2020年3月の熊本県知事選挙から2021年8月の横浜市長選挙まで、新型コロナウイルス禍に行われた全国15の選挙を、著者ならではの信念と視点をもって丹念に取材した現地ルポ。「NHKが出口調査をしない」「エア・ハイタッチ」「幻の選挙カー」など、コロナ禍だから生まれた選挙ワードから、「選挙モンスター河村たかし」「スーパークレイジー君」「ふたりの田中けん」など、多彩すぎる候補者たちも多数登場!

<掲載される選挙一覧>
熊本県知事選挙/衆議院静岡4区補欠選挙/東京都知事選挙/鹿児島県知事選挙/富山県知事選挙/大阪市住民投票/古河市長選挙/戸田市議会議員選挙/千葉県知事選挙/名古屋市長選挙/参議院広島県選出議員再選挙/静岡県知事選挙/東京都議会議員選挙/兵庫県知事選挙/横浜市長選挙

黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い

畠山 理仁

2019年11月20日発売

924円(税込)

文庫判/376ページ

ISBN:

978-4-08-744049-2

落選また落選! 供託金没収! それでもくじけずに再挑戦!
選挙の魔力に取り憑かれた泡沫候補(=無頼系独立候補)たちの「独自の戦い」を追い続けた20年間の記録。
候補者全員にドラマがある。各々が熱い思いで工夫をこらし、独自の選挙を戦っている。何度選挙に敗れても、また新たな戦いに挑む底抜けに明るい候補者たち。そんな彼・彼女らの人生を追いかけた記録である。

2017年 第15回 開高健ノンフィクション賞受賞作

【目次】
第一章/今、日本で最も有名な「無頼系独立候補」、スマイル党総裁・マック赤坂への10年に及ぶ密着取材報告。
第二章/公職選挙法の問題、大手メディアの姿勢など、〝平等"な選挙が行なわれない理由と、それに対して著者が実践したアイデアとは。
第三章/2016年東京都知事選挙における「主要3候補以外の18候補」の戦いをレポート。

【選考委員、大絶賛! 】
キワモノ扱いされる「無頼系独立候補」たちの、何と個性的で、ひたむきで、そして人間的なことか。――姜尚中氏(政治学者)
民主主義とメディアについて、今までとは別の観点で考えさせられる。何より、作品として実に面白い。――田中優子氏(法政大学総長)
ただただ、人であることの愛おしさと愚かさを描いた人間讃歌である。――藤沢 周氏(作家・法政大学教授)
著者の差し出した時代を映す「鏡」に、思わず身が引き締まる。――茂木健一郎氏(脳科学者)
日本の選挙報道が、まったくフェアではないことは同感。変えるべきとの意見も賛成。――森 達也氏(映画監督・作家)
(選評より・五十音順)

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