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〈2024パリ五輪〉7歳での“代役”ダンスバトルデビューから世界トップレベルに。ブレイキン日本代表・Shigekix「好きなブレイキンだけ頑張って、学校の勉強をおろそかにするわけにはいかなかった」
集英社オンライン / 2024年1月1日 9時1分
2024年7月よりフランスで開催されるパリ五輪。本大会で競技種目に追加されたブレイキン(ブレイクダンス)の頂点を目指すのが、B-Boy・Shigekixこと半井重之(なからい・しげゆき・21歳)さんだ。ブレイキンの日本一を決める大会「全日本ブレイキン選手権」では連覇を果たしたほか、国際大会では通算46回もの優勝経験を誇る実力の持ち主として知られている。パリ五輪でも金メダルが期待されるなか、ShigekixさんにこれまでのB-Boy人生や転機になったエピソード、日の丸を背負って大会に臨む意気込みを語ってもらった。(前後編の前編)
トランポリン選手からB-Boyへ。姉の影響で始めたブレイキン
北海道で生まれ、大阪で育ったShigekix。
「子どもが夢中になれるものを探したい」という親の思いがあり、スキーやテニス、水泳、英会話など、小さいころからさまざまな習い事に取り組んできた。
なかでも、 トランポリンはクラブチームに所属するほど本格的に練習していたという。並行してダンスも週1回、スタジオのレッスンに通っていたそうだが、トランポリンの活動が主であり、ダンスはあくまでほかの習い事のひとつに過ぎなかった。
そんなShigekixに契機が訪れたのは6歳のとある休日。
いつものように、体育館でトランポリンを練習しているときだった。
「クラブチームの練習場所だった体育館では、土日だけトランポリンを一般解放していました。そこに、偶然B-Boyがアクロバットの練習をしに遊びに来ていて、『よかったらブレイキンをやってみないか』と誘われたんです。そこから、まずはじめに姉のAYANEがB-Boyの練習場所に行って、ブレイクダンスを始めたんですよ」(Shigekix、以下同)
トランポリンに来ていたB-Boyがブレイキンを練習していた場所は、OCAT(大阪シティエアターミナル)の地下1階にあるポンテ広場。今でもストリートダンスの聖地として知られる定番スポットだ。
AYANEは、年上の大人に混じってブレイキンをやり始めると、いつしか熱が入ってきて、気づけばブレイキンのおもしろさにどっぷりと浸かっていた。
Shigekixさんも、姉の練習する姿やショーケース(発表会)に出て踊る様子を見ているうちに感化され、7歳でブレイキンを始めることになった。最初は父からタオルを借りて、チェアー(ブレイキンの基礎となる王道フリーズ)や三点倒立、ヘッドスピン(頭で回る技)など、先輩の動きを参考にしながら、見よう見まねでスキルを磨いていったという。
「その当時はダンススタジオの数も少なければ、ブレイキンをやっているキッズもほとんどいない状況でした。そのため、ブレイキンを始めてから最初の1年くらいはストリートに通って、ひたすら独学で練習漬けの日々を送っていましたね。
トップロック(立ち踊り)やフットワーク(床に手をついて足を動かす動き)、フリーズ(体の動きを止める決めポーズ)やパワームーブ(手や頭、背中などで回る大技)など、ひとつひとつの動きを覚えていくのが、まるでゲームをクリアしていくような感覚で。『もっといろいろな技ができるようになりたい』という好奇心が強かったので、できない技があれば習得するまで夢中で練習に励んでいたのを覚えています」
“代役”からデビューしたダンスバトル。「最初は何もできなかった」
ブレイキンの醍醐味は、ダンスバトルにある。DJのかける音楽に合わせ、日頃の練習で磨いた技やダンスを披露する。
まさにB-Boyにとっての晴れ舞台がダンスバトルと言えるが、Shigekixはブレイキンを始めてまだ間もない7歳でバトルデビューを果たしている。
「当時、大阪で開催されていた『グダグダナイト』というイベントで、2on2のキッズバトルに出ました。その経緯なんですが、とある2人組チームのキッズのひとりがバトルの緊張やたくさんの観衆が見ている怖さから急に泣き出しちゃって。とても踊れるような状態ではなく、その代役を探していたところ、姉が自分を指差して『ここに踊れる人います』と言ったんです。
もちろん最初は勝手がわからず、覚えたての技をちょっと披露しただけでした。でも、そこから少しずつ、バトルを意識して練習するようになりました」
バトルに出場することを視野に入れたことで、練習の内容がそれまでよりも濃くなったとShigekixは話す。
今でこそ世界トップレベルの腕前を持つB-Boyとして、数々の功績を打ち立てているが、バトルに出始めたころは予選落ちや初戦敗退もたびたび経験した。
「もちろん最初から勝てたわけではなく、1回戦で負けることもよくありました。だけど、何度もバトルに出ていくうちに、だんだん1回戦は突破することができ、あるときはベスト16まで残れたなど、本当にステップバイステップで少しずつ実力がついていきましたね。そしてやはり、成果が出ると達成感につながって、『もっと上を目指したい』と思うようになったんです」
学業も頑張らないと、好きなブレイキンをさせてもらえない
大阪府内で開催される初心者向けの大会で優勝できるようになると、その次は関西圏で行われるバトルに出場、さらには広島や北陸といった遠方のバトルにも参戦するなど、Shigekixはどんどん活動範囲を広げていく。
その勢いは国内にとどまらず、小学生のうちから海外の大会にも参加するようになる。中学校からはひとりで海外へ渡航し、B-Boyとしての活動を本格化。11歳のときに出場したフランスの世界大会ではキッズ部門で優勝を勝ち取り、以降もさまざまな世界大会のキッズ部門で優勝を果たしていく。
9歳のころのShigekixのムーブ
さらには、一般のソロ部門でも1位の座に輝くなど、名実ともに才能が開花し、一気に世界から注目されるB-Boyとして名を馳せるようになった。
その一方、親からは「どんなにブレイキンで有名になっていい成績を残しても、周りの学生と同じように勉強もしっかり頑張りなさい」と言われており、学業にも精を出していた。海外の大会へ出る際も、飛行機の移動中やホテルの滞在中は勉強を欠かさなかった。
「テストでいい点を取らないと、好きなブレイキンをさせてもらえない」
こうした思いを胸に、学業とB-Boyを両立させてきたと当時を振り返る。
「学校の勉強をおろそかにして好きなブレイキンだけ頑張る。これだと道理が通らないわけで、親からも『責任感を持て』とよく言われていました。文武両道を目指すというか、“自分が特別扱いされている”という勘違いをせず、人間として成長してもらいたいという親心があったんだと思います」
これまでShigekixさんは何十回も海外の大会へ招待されてきたが、幸いにも資金の工面を心配する必要はなかった。世界中のブレイキンバトルの大会主催者が渡航費や滞在費を負担してくれたうえでの招待選手として招かれることがほとんどだったからだ。
だが、「招待してもらう以上、旅行気分で浮かれている場合ではなく、結果にコミットすることを念頭に置いて、主催者の期待に応えようと必死だった」と吐露する。
海外で活躍するB-Boyの精鋭たちと交流を持つことは、そこでしか感じられないバイブス(踊るときのノリ)や自己表現などを学ぶ絶好のチャンスだった。日本に帰国してからも、海外で得たアイデアやインスピレーションをヒントに実践することを繰り返した。
こうして現在のオリジナリティあふれるダンススタイルが確立されていったのだ。
自分にとって思い入れのあるひとつの技
ブレイキンを踊るB-Boyには、人によって千差万別のダンススタイルがある。
持ち前のフィジカルを生かし、アクロバットなパワームーブ主体で組み立てる「パワームーバー」。立ち踊りやリズミカルなフットワークで魅了する「スタイラー」。両手や片手などで逆立ちしながら音楽に合わせて飛び跳ねる「縦系」など。こうしたスタイルに独自のムーブを編み出してオリジナリティを追求したり、技と技の“つなぎ方”を工夫するため、ブレイキンは誰ひとりとして同じ踊りにならない。
むしろ他人と同じ踊りであることをよしとしない文化があり、すべてのダンス競技のなかで最も自由で独創的なことが、ブレイキンの最大の魅力ともいえる。
Shigekixさんのダンススタイルは、パワフルなパワームーブから高速かつ華麗なフットワークまで、バラエティに富んだ表現や技のつなぎが軸となり、その独自性の高さが大きな特徴となっている。
「自分のダンスで象徴的なのが、音にハメる『フリーズ』と音楽とダンスの調和を意識した『ミュージカリティ(音楽性)』です。たくさんのバトルに出場して、練習を繰り返して、試行錯誤しながら『フリーズ×ミュージカリティ』というダンススタイルが確立されました。
特にフリーズに関しては、小さいころから『しゃちほこみたいなフリーズをするキッズだよね』と周囲から言われていたように、自分にとって思い入れのある技なんです。音にはめて、いろんな体勢から体を静止させるのがフリーズの基本ですが、ときには複数のフリーズ技をコンボさせてダイナミックに魅せたりと、創意工夫しながら表現することを心がけています」
一方、ミュージカリティは自身のブレイキンの概念や観点を表す要素になっている。
「動きにミュージカリティが表れているときは、自分の踊りが気持ちよくできていると感じられる。調子のバロメーターになる“エンジン”のようなものですね。そこさえ噛み合えば、一気に自分のよさが全面に出る。逆に噛み合わなければ、自分のよさが全然出ない。
バトル本番では、DJがどんな音楽をかけるかはわからないので、少なくとも音楽が体に自然と入ってきて、自分の動きを音に乗せることができているときは、自分らしさが出ているなと感じています」
ブレイキンとして表現する際に、ただハイレベルな技を見せても意味をなさない。
というのも、ブレイキンは体操のように技の難易度を競うものではないからである。
その場でかかる音楽の雰囲気に自分の動きを合わせ、いかに音に乗せていけるかがブレイキンでは肝になる。
取材・文/古田島大介 撮影/下城英悟
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