岸田政権「高校生扶養控除」と「児童手当支給」相殺した恩恵はいったいいくら残るというのか…子育て世帯の失望
集英社オンライン / 2023年12月9日 8時1分
高校生のいる世帯への扶養控除額見直しについて、控除額が所得税の場合で現行の年38万円から25万円へ削減される見通しであることがわかった。来年から高校生にも児童手当の支給が開始されることに伴う税制面での調整というが、控除の引き下げによって家計の負担はどのように変わるのだろうか。
所得税は年38→25万円、住民税は年33→12万円へ控除額引き下げ
今回明らかになったのは、16歳~18歳対象の扶養控除の引き下げ額だ。所得税は子ども1人あたり年38万円から25万円へ、住民税は年33万円から12万円へ引き下げられる。課税の対象となる所得から控除できる金額が減るため、高校生のいる世帯には増税となる。
これによる増税幅は、年収や子どもの人数などによって異なる。扶養控除以外の控除の適用状況によっても細かな税額は変わる可能性があるが、所得税20%、住民税10%の場合で概算すると、課税される所得が330万円~695万円の場合の負担増額は5万円弱となる。これは片働きで高校生の子どもが1人いる会社員家庭の場合で、年収約750万円~約1160万円のケースが該当する。
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岸田文雄首相 写真/共同通信
ちなみに、このうち住民税での所得に対する税率は10%と全国でほぼ一律のため、扶養控除額引き下げによる税負担増は所得にかかわらず+2.1万円だ。一方で所得税は累進課税のため、増税分は所得税率しだいで+約7千円~+6万円弱と差が生じる。高所得層ほど負担増は大きい。ただ、所得税の最高税率45%であっても、所得税と住民税合計での増税分は8万円弱にとどまる。所得にかかわらず、児童手当の受給額を増税分が上回ることは避けられそうだ。
児童手当支給と相殺した恩恵は約4~9万円
見直しの対象になった高校生世代には来年12月から児童手当支給が予定されているが、今回の扶養控除引き下げで受給額が相殺されると、実際にはどれくらいの恩恵が残るのだろうか。
予定されている児童手当の支給額年間12万円から、先ほど試算した増税額を差し引くと、課税所得330~695万円(所得税率20%)の世帯では約7.3万円が手元に残る計算になる。
内閣府の資料によると、所得税の納税者のうち約96%は所得税率20%以下の人が占めている。今回の見直し対象となる高校生のいる世帯の親たちは40~50代が中心とみられ、賃金構造から考えると就業者のなかでは比較的所得層が高めの可能性はあるが、それでも所得税率10~20%の世帯が大半と考えていいだろう。平均的な所得層で高校生1人の会社員家庭であれば、増税分を差し引いても児童手当による恩恵は7~9万円程度になるはずだ。
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※課税所得別。夫婦片働き、高校生の子ども1人、所得税・住民税(所得割)が課税される場合で試算(筆者作成)
また、高所得世帯でも相殺額がゼロやマイナスになることはなく、最低でも約4万円の恩恵が残ることがわかる。
恩恵以上に大きい、子育て世帯の失望感
今回の見直し案は与党での議論後、年内にまとめられる税制改正大綱で決定し、2026年から適用される見通しだ。現時点ではまだ確定した内容ではないが、例年の税制改正大綱の流れから考えれば、おそらく現状でほぼ決着するだろう。
首相はすでに「廃止を前提として検討している事実はない」とも述べており、少なくとも児童手当の支給以上の増税はなさそうだ。ただ支給と増税を相殺した結果、年間で約4~9万円という子育て支援策が、子育て中の世帯にとってどれほどのインパクトになるかには疑問が残る。
子育て支援策は目下、児童手当以外に住宅ローン減税や生命保険料控除での子育て世帯への税優遇、子ども3人以上世帯への大学授業料無償化なども同時検討されている。パッケージで支援するという方向性に異論はないが、とりわけ税に関して言えば、多方面からの優遇は当事者が自分にとって得なのかどうかを判断するのがかえって難しくなる可能性がある。年末調整や確定申告での書類準備や事務処理も煩雑になるはずだ。
またこれらの税制優遇が実現すれば、持ち家に住む人や生命保険に契約している人は対象になるものの、賃貸に住んでいる人や生命保険に加入していない人にはメリットがない。子育て世帯内の分断を招くような形で支援策が行われることにも、いささか首をかしげたくなる。
シンプルに、扶養控除を維持・拡充するわけにはいかないのかという声も聞く。子育て支援に対する国の歯切れの悪い姿勢は、子育て中の当事者たちにとっては、実質的な恩恵以上に心理的な失望感につながる懸念をぬぐいきれない。
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写真はイメージです
取材・文/加藤梨里
文/加藤梨里
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