「子育て世帯に寄り添わない政治」岸田政権2023年「異次元の少子化対策」の1年後。経済学者が唱える最も効果的な少子化対策は…
集英社オンライン / 2023年12月16日 11時1分
2023年の今年の漢字は「税」になった。その字があらわすとおり、増税をはじめとする国民負担の増大に日本各地からさまざまな悲鳴が上がった1年だった。特に今年頭に記者会見で岸田政権が表明した「異次元の少子化対策」の迷走ぶりは甚だしい。あれから1年、その成果は…。
“異次元の少子化対策”を掲げてから1年
2023年1月、岸田文雄首相は「異次元の少子化対策」を掲げ、その具体的施策として3本柱を据えた。
●児童手当など経済的支援の強化
●学童保育や病児保育、産後ケアなどのサービス拡充
●育休中の給付率や男性の育休取得率などをアップさせる働き方改革の推進
まもなく異次元の少子化対策を口にされてから1年が経とうとしているが、一向に子供を産みやすく、子育てしやすい社会になったという実感はわかない。結局のところ、異次元の少子化対策が打ちだされたことで民意はどう変化したのか。
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少子化対策の方針を記者会見で発表する岸田文雄首相 写真/共同通信
「子育て世帯に寄り添わない政治」
出版社勤務で結婚願望がある20代女性は「異次元の少子化対策として実際に何をやったのかイマイチわかりません」と答え、「『異次元の少子化対策を進めてくれるなら安心して結婚できる』とはならないと思います」と語った。
また、児童手当を高校生まで拡充することに伴い、高校生(16~18歳)がいる世帯に対して、高校生1人につき所得税から38万円、住民税から33万円控除される。いわゆる“扶養控除”の縮小を与党が検討していることがわかった。
小学3年生の子供を育てる清掃業の40代男性は「今後子どもが高校進学したら、予備校に通わせたりなどお金が今以上に必要になります。児童手当の拡充はありがたいですが、それで扶養控除を縮小しては本末転倒ではないですか」と憤る。そして、「現在子育てしている世帯に寄り添わない政治をしていては、『子供を持ちたい』という若い人は増えないのではないでしょうか」と疑問を口にした。
異次元の少子化対策に限らず、子育てに関する岸田政権の政策に首をかしげるどころか、怒り心頭になっている人は少なくない。こうした机上の空論のような異次元の少子化対策に対して経済学者はどのように評価しているのか。経済学に精通している京都大学大学院工学研究科教授の藤井聡氏に話を聞いた。
なんとなくのイメージで政策を決めている
大前提として、当初掲げられた3つの柱はそもそも適切だったのだろうか。藤井氏は「まったく適切ではありません。現在起きている少子化の主な原因は“出産最適齢期(35歳以下)の女性の婚姻率の低下”です。つまりは未婚化・晩婚化であり、3本の柱で緩和することは不十分です」と一蹴。
明らかに政府の戦略ミスと言えるが、なぜズレた柱を3本も用意してしまったのか。
「政府は『どうすれば結婚した女性が子供を作りたいと思ってもらえるのか?』ということに注力することが少子化対策になると思っています。そこから異次元の少子化対策の内容を決めているのです。
仮に3つの柱を首尾よく進められたところで、少子化問題の抜本的な改善ははかれないでしょう。ろくに原因も考えず『こうすれば少子化対策になるかも』くらいのイメージで政策を考えているからダメなのです」
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「こども家庭庁」の子ども政策に関する会議
こども家庭庁に対する評価
異次元の少子化対策を掲げて1年経過した。改めてその成果について、「話になりません」と回答。
「先述した通り、少子化の主な原因である“出産最適齢期の女性の婚姻率の低下”は、出産最適齢期の女性、ならびに出産最適齢期の女性の結婚対象者となる主に20~30代の男性の所得下落によって引き起こされています。実際、低所得者層と高所得者層では、婚姻率は仮に年齢が同じでも2倍前後も開いているのです。
若年層の経済的な負担・不安を緩和して、実質所得を増やすことが最大の少子化対策になります。にもかかわらず、“増税めがね”と揶揄されている通り、岸田首相は減税するどころか、増税を繰り返す始末。これでは実質所得が下落して少子化に歯止めはかけられません」
異次元の少子化対策がいかに期待できないのかがよくわかった。では、少子化だけでなく、児童虐待やいじめ問題など子供にかかわる問題を解決するため、2023年4月に発足された「こども家庭庁」についてはどのように見るのか。
藤井氏は「児童虐待やいじめ問題では成果を上げているのかなど、詳しくはわかりませんが」としつつ、「少子化対策としては若年層の賃上げが最も効果的であり、そこに対するアプローチは一切見せていません。こども家庭庁は適切な少子化対策はできていないと言えます」と続けた。
少子化推進としか思えない増税策
岸田首相は少子化対策どころか“少子化推進”と思えるような動きを頻繁に見せており、扶養控除縮小の検討はまさにその典型と言える。この動きに「岸田政権は本気で少子化対策をする気がないため、このようなことを検討できるのです」と藤井氏は呆れる。
「岸田首相は結局、政府の借金返済のためにさまざまな増税策を作り出している財務省の言いなりです。だからこそ、扶養控除縮小はもちろん、消費税減税をはじめとした減税策には見向きもせず、いかに国民から搾り取るための政策しか打ち出しません」
また、政府は12月上旬、3人以上の子供がいる多子世帯の大学授業料などの無償化を決めたが、この方針もまた少子化促進につながりかねないと危惧する。
「『それなら3人目を作ろうかな』と考える既婚者は一定数いるでしょう。しかし、大学無償化では若者の所得は増えません。また、未婚者が大学無償化の恩恵を受けられるのは20年後です。加えて、大学無償化が施行されたとしても今後改変される可能性は低く、未婚の若者が今まさに『大学無償化なら安心して結婚できる』と考えて婚活に励むとは思えません。
そもそも、岸田内閣は今後『大学無償化の財源確保のために増税します』と言い出しかねない。そうなればますます結婚する若者は減り、少子化は加速するでしょう」
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写真はイメージです
消費税減税こそ最善策
少子化対策として講じるべき政策は、はたして何なのか。
藤井氏は「これまで述べてきましたが、若年男女の所得増が最も効果的です。より詳細に言えば、若年男女が『今もお金が入ってきているし、将来的にもお金が入ってくるだろう』と思えるようになる必要があります」と答え、具体的に説明する。
「そのためにはデフレ脱却が必要不可欠。デフレになった最大の要因は消費増税です。1997年の消費増税によって、消費、投資、GDP、賃金、物価などあらゆる尺度が低迷を始めました。その後、8%、10%と消費税率が上がるごとにそれらの尺度は激しく悪化を見せています。
したがって、消費税減税こそが最大の少子化対策と言っていいです。加えて、必要なインフラ、研究開発、人材育成といった投資拡大も、デフレ脱却を促して持続的な賃上げ状態を導きます。
さらには、法人税増税も得策です。法人税は利益にかかるため、法人税増税が行われれば、企業は法人税の節税対策として利益を減らす努力を始めるでしょう。そのための最も手っ取り早い方法として、企業への投資を増やしたり賃金を上げたりなどが挙げられます。法人税増税も少子化対策として検討すべきです」
そして、「日本では結婚しない限りは子供を作りません。大学無償化や児童手当の拡充など子供を作ったときに発生する費用を政府が負担しても少子化対策にはあまり影響がない、ということを岸田政権はもちろん国民のみなさんが知っておかなければ少子化は改善されないでしょう」と締めくくった。
取材・文/望月悠木
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