本物のヒスイは簡単に拾えるものなのか!? 北陸車中泊旅の最中に繰り出した夢とロマンのお宝ハンティング
集英社オンライン / 2023年12月12日 17時1分
富山から新潟にかけて、ヒスイがとれることで有名な海岸が連なっているーー未知のエリア、北陸に宝探しの車中泊旅に出た身としては、トレジャーハンター気取りでヒスイ探しに繰り出してみたけれど……。
突如ひらめいた「そうだ、ヒスイを探しにいこう!」
北陸を中心とする日本海側は、自分にとってまったく未知のゾーンだ。
そこに行けば、きっと何かがある。
50代も半ばのおっさんながら、そんな蒼くさい予感にとらわれた僕は、自力カスタムしたオリジナルの車中泊専用カーに乗り、北陸“宝探しの旅”に出た。
東京の家を発ってから4日目の、11月某日早朝。
前夜遅くに到着した、富山県黒部市の道の駅“KOKOくろべ”で束の間の休息をとった僕は、そこからさらに車で30分ほど走った先にある、宮崎・境海岸を目指した。
ヒスイハンティングを実行するためである。
富山県から新潟県に至るこのあたりには、ヒスイの原石を拾えることで有名な海岸が点在している。
“ヒスイ海岸”と総称されるそこには、お宝ゲットを狙う“ヒスイハンター”が集まってくる。
海岸を擁する町の方も、ヒスイを観光資源として有効利用しているため、どこを見ても「ヒスイ、ヒスイ、ヒスイ」と盛り上がっているエリアなのだ。
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宮崎・境海岸の駐車場にて
富山県下新川郡朝日町の宮崎・境海岸駐車場に到着した僕は、車内に常備してある長靴に履き替え、おもむろに秘密道具の“ヒスイ棒”を取り出した。
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秘密道具“ヒスイ棒”
まあ本当は、秘密道具なんていうのは大袈裟で、ホームセンターで買った塩ビパイプの先に、ステンレス製ザルをテープ留めした簡易的な道具。
でも、総額400円弱でできるこの“ヒスイ棒”があるのとないのとでは、ヒスイ探しの効率に大きな差が生じるというので、あらかじめ用意しておいたのだ。
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車の中に常備している、日本野鳥の会製の長靴
なんて偉そうに言ってるけど、僕の車中泊旅は行き当たりばったりを信条としているので、「そうだ、ヒスイを探しにいこう!」と思いついたのは前日夕方のこと。
そこからネット検索を駆使して、さまざまな情報を急速取得した。
この“ヒスイ棒”のこともその時点で知り、ホームセンターへ急行。材料を買い込み、車内で作成したものである。
ヒスイが見つかる海岸は、基本的に砂浜ではなく、小石で埋め尽くされている。
膨大な小石群の中から、ヒスイの一粒を見つけ出すのはそんなに簡単なことではないらしい。
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この膨大な石ころ群の中からヒスイを見つけられるのか…。宮崎・境海岸
でもヒスイを見分けるコツも、昨晩YouTubeを見て学習済みなのでバッチリでしょう(多分)。
兎にも角にもいざ出陣!
日本の“国石”にも選定されている美しい鉱物・ヒスイ(翡翠)を探せ!
僕はなぜか根拠もなく、自分は必ずヒスイを見つけられると信じていた。
ヒスイを拾うための、大事な2つのコツ
急速取得したドロナワ的知識によると、だだっ広い海岸に、文字通り無数に散らばる小石軍団の中から、本物のヒスイちゃんを見つけ出すコツのうち、特に大事なのは2つ。
① 波打ち際ギリギリを歩き、波にさらされたばかりの石を注視すること
② 際立って白く、角張った石を探しだすこと
「波打ち際ギリギリを探すべし」の理由はすぐにわかった。
現場には僕のほかにもヒスイハンターが何人も来ていて、それぞれが足元に目を落としながらゆっくり歩き、ヒスイ探索をしている。
皆それぞれが真剣に目を凝らしているのだから、彼らが行った後にヒスイは残っていないと思うだろう。
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定石通り、波打ち際で探している人が多い。親不知海岸
でも波打ち際では、日本海から打ち寄せる強い波の力で、地面の石が常に動き続けている。
ひと波くるごとに「ザザザー」「カラカラカラー」「ジャワジャワジャワー」と、石同士がぶつかりながら転がる心地良い音が響く。
そして、ひと波去った後の地面の石の並びは、ついさっき前までとはガラリと変化しているのだ。
だから、波打ち際ギリギリを歩いていれば、新たに現れたばかりのヒスイと出逢える確率が上がるというわけだ。
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ひと波ごとに、小石が転がる音が響く。宮崎・境海岸
そして、ヒスイというと淡い緑色の石を思い浮かべるものだが、天然のヒスイ原石は真っ白に見えることが多いそうだ。
またヒスイは、他の石と比べて硬度が高いため、海岸に多い角の取れたスベスベの丸い形ではなく、カクカクした印象の石が多いという。
それらの、にわか知識を頭の中で反芻しながら、僕は一人、宮崎・境海岸の波打ち際を何往復もした。
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これとか、ヒスイじゃないかと思うのだが…
“ヒスイ棒”はなかなか優秀だった。
波打ち際を歩き、波の間に見え隠れしている石を拾い上げていくのだが、手で直接拾っていたら、たちまち服がびしょ濡れになっていただろう。
それに、これはと思う石をいちいちしゃがんで拾い上げていたとすると、腰や膝が音を上げるのも時間の問題だったと思う。
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これはと思う石を、周囲の石とまとめて掬い上げる
“ヒスイ棒”さえあれば、水の中だろうとどこだろうと、立ち姿勢のままヒョイと石を拾い上げられる。
長時間にわたってハンティング活動をしても、濡れることも体が痛くなることもなかった。
ヒスイハンターには女性が多い
その後のことは、あまり細かく書いても仕方がない。
結局僕は1日では飽き足らず、2日間にわたってヒスイ探しをしたが、ご想像の通り、とにかく単調かつ地味な作業なので、あまり特筆すべき展開がないのだ。
ヒスイを拾える可能性のある海岸は周辺にいくつもあり、僕は車で移動しながら3ヶ所を攻めた。
1日目は富山の宮崎・境海岸と、新潟県糸魚川市の親不知海岸。
翌日は同市の、その名もまんま「ヒスイ海岸」と名付けられているビーチである。
初日夜は糸魚川市内の「ひすいの湯」で温泉に浸かり、ヒスイ海岸最寄りの道の駅“マリンドリーム能生”RVパークで車中泊した。
その間も、頭の中はもうヒスイでいっぱい。
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温泉「ひすいの湯」
2日間に渡り、延べ8時間あまりヒスイ探しに没頭した。
時折、すれ違う他のヒスイハンターと「どうですか? いいのありました?」と話してお互いのブツを見せ合うくらいしか変化のない、非常に地味で静かな作業だったが、とにかく僕は夢中になって石を拾い続けたのである。
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他のヒスイハンターと情報交換もする。親不知海岸
ちなみに、他のヒスイハンターを見て気づいたことがある。
海岸で石拾いに没頭しているのは、女性が多いということだ。
どこの海岸にもヒスイハンターのほかに、長い竿を振るって投げ釣りをしている釣り人の姿がある。
ヒスイハンターも釣り人も、僕と同じくらいかもっと上の年配者が多いが、釣り人はほぼ100%男性単独行であるのに対し、ヒスイハントは単独男性に加え、夫婦連れ、それに女性単独も多かった。
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左から、釣り人、ヒスイハンター、釣り人。宮崎・堺海岸
この趣味は男向け、あの趣味は女向け、などというのは今どきっぽくないかもしれないが、釣りと比べてヒスイハンティングは、どうやら女性に好まれやすい趣味のようだ。
今回は男一匹車中泊の旅の途中だけど、よしわかった。
次は妻や娘も一緒に連れてこよう。きっと喜んでいただけるに違いない。
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絶対、ヒスイじゃないかと思うのだが…
連れてきた石たちの中に、本物のヒスイはあったのか?
ヒスイ海岸をあとにした後も、車中泊の旅を続けた。
そして数日後、山梨県・山中湖村にある我が山の家に帰り着いた僕は、ヒスイ海岸から連れてきた石たちを、改めてじっくり観察することにした。
ネット情報、それに初日のヒスイ拾い後に立ち寄った糸魚川市の自然博物館、フォッサマグナミュージアムで得た知識に従い、色や肌触り、形状、それに表面のキラキラとした結晶の有無などから、石を2つのグループに選り分けた。
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鉱物付きにはたまらないフォッサマグナミュージアム
片方は残念ながら、明らかにヒスイではない石。もう片方は、もしかしたらヒスイかもしれない石である。
素人が石の鑑別に使えるひとつの有効手段は、ライトの光を当てることだという。
すべてではないが多くのヒスイは、光を透過させるからだ。
僕が拾ってきた石の中にも、明らかに光を透過させ、表面あるいは内側に、ヒスイっぽい淡い緑を確認できるものが、いくつか含まれていた。
もちろん光を透過させる石はヒスイだけではなく、水晶を含む石英類などいろいろあるので、これだけでヒスイと断定できるものではない。
でも石にひとつひとつライトを当ててみて、光が透けて見えた瞬間には「おお!」と気分が上がった。
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光を透過させ、淡い緑に輝く石が次々と
数えてみると、初日の宮崎・堺海岸で拾った石は、23個中なんと12個が、多かれ少なかれ光を透過させた。そのうちいくつかの石は、表面に結晶状態のキラキラも見える。
つまり、ヒスイの可能性がかなり高いということだ。
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光を通し、エメラルドのような濃いグリーンに輝く石もあった
同様に光を透過させる特徴は、新潟・親不知海岸で拾った石30個中8個、ヒスイ海岸で拾った石21個中2個にも見られた。
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光を通し、ヒスイっぽい特徴を示した石たち
初日にまず訪れた、富山の宮崎・境海岸のヒット率が際立って高い。
場が荒れると困るから小さな声でしか言いませんが、鉱物に興味のある皆さん、ヒスイを拾うなら、富山の宮崎・堺海岸が熱いようですよー。
いずれにしても素人判断にすぎず、本物かどうかはいまだにはっきりしないが、とりあえず初心者の僕でも、準備さえしていけばしっかりヒスイである確率が高い石を拾うことができるとわかった。
いつかは鉱物のプロにちゃんと見てもらおうと思いつつ、拾ってきた可愛い石たちは、2023年の北陸車中泊旅の思い出として、ボトルに入れて大切に保管することにした。
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大事な旅の思い出
写真・文/佐藤誠二朗
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