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ラーメン業界の優等生「魁力屋」の新規上場で群雄割拠のラーメン業界白熱…先行する「一風堂」「山岡家」「町田商店」それぞれの戦略

集英社オンライン / 2023年12月15日 11時1分

12月15日、人気ラーメン店、京都北白川ラーメン「魁力屋」を展開する株式会社魁力屋がスタンダード市場に新規上場した。かねてより上場が噂されていた同社だが、コロナ禍を乗り超えて、満を持してのスタートをとなった。

ラーメン業界の優等生が満を持して上場

総務省統計局によると、ラーメン店の市場規模はおよそ6000億円。この市場は寡占化が進んでいないことが最大の特徴で、横浜家系ラーメン「町田商店」を運営する株式会社ギフトホールディングスは最大手でもシェアは5.7%程度だと分析する。特に売上高100億円から300億円前後の中堅ラーメン店運営会社は、ターゲットや戦略がひと味もふた味も異なり、興味深い戦いを繰り広げている。


撮影/集英社オンライン編集部

上場している伸び盛りの中堅ラーメン店運営会社には、「魁力屋」と町田商店などを運営するギフトホールディングスのほか、ラーメン「山岡家」の株式会社丸千代山岡家、ラーメン「 一風堂」の株式会社力の源ホールディングスがある。

魁力屋の2022年12月期の売上高は88億1500万円だった。4社の中では最も売上規模が小さい。ただし、魁力屋のように直営店が主体のラーメン店の場合、出店を重ねることによって規模拡大を図りやすいという特徴がある。飲食店は過剰出店でカニバリズムを起こすと致命的なダメージを受ける。かつての「いきなり!ステーキ」がそうだった。

魁力屋は成長余地があると見るべきだろう。

※各社決算短信より(筆者作成)

ファミリー層に向けた「魁力屋」の狙い

ロードサイドとイオンモールなどのフードコートに130店舗出店し、看板メニューは「背脂醤油ラーメン」。京都ラーメンとも呼ばれており、家系や二郎系のようなクセが少ない。コクがありつつ、飽きのこない醤油ラーメンを提供している。

そのため、ターゲットはファミリー層が中心になる。魁力屋は子供向けのメニューや定食メニューを充実させることで、顧客満足度を上げている。4社の中では山岡家がキッズメニューを設けているが、定食には力を入れていない。

ロードサイドやフードコートに出店しているのも、ターゲットとなるファミリー層を意識してのことだ。熱心なファンを獲得するのではなく、ファミリーという母数の多い層に狙いを定めた。魁力屋は他社だと「幸楽苑」に近い戦略をとっている。

魁力屋の社長である藤田宗氏は上場前に日本経済新聞のインタビューに応じ、上場の狙いについて、「衛生や労務管理がルーズだと思われている業界において、社員が胸を張れる会社にしたい」と回答している。

これは、顧客であるファミリー層に対して、クリーンなイメージを持たせたいという意図もあるだろう。飲食企業にとって上場は、ブランドイメージを高める手段の1つだからだ。

バランス感覚に優れた経営で優等生的な魁力屋がどこまでシェアを伸ばせるのか。上場後の楽しみな注目ポイントだ。

ファンを第一に考える稀有なラーメン店「山岡家」

魁力屋に近い経営をしている会社が丸千代山岡家だ。店舗数は150で、繁華街ではなくロードサイドが主体だ。ただし、店舗の作り方は大きく異なる。魁力屋のロードサイド店は敷地面積を150坪以上と定めているが、山岡家はその倍の300坪以上が基本だ。

2社の出店スタイルの違いはターゲットとなる層の違いにある。

山岡家は豚骨の濃厚なスープと、太ストレート麺が特徴。クセが強く、男性客を惹きつける魅力を持っている。「無性に食べたくなる」と言われる通り、リピーターや固定ファンが多いことが特徴だ。

写真はイメージです 写真/Shutterstock

店舗の敷地面積が広い理由は、トラックドライバーや建設作業員、タクシードライバーなど、日ごろから車を使って仕事をする人を立ち寄りやすくするため。山岡家のメインターゲットはガテン系と呼ばれる肉体労働者が主となっている。

山岡家は堅調に売上高を積み増しており、2024年1月期の業績が予想通りに着地すると、10期連続の増収を達成することになる。2023年2-10月の売上高が前年同期間比42.5%増となっていることから鑑みても、ほぼ確実に達成するだろう。

既存店売上高は19か月連続で対前年を上回り、2023年10月は過去最高の単月売上を記録している。飲食店は新規出店による集客効果が高く、オープンから一定の期間が経過した既存店は集客力を落とすのが一般的だ。

山岡家の既存店の調子がいいのは、ファンやリピーターから愛されている証拠だろう。上場企業にも関わらず、個人店が経営するかのような姿勢を崩さない、珍しい会社だ。

2割増のペースで増収を重ねる「町田商店」

下図のグラフはコロナ禍を迎える前の直近通期の売上高と、迎えた後の売上高の差を表している。ロードサイドが主体の魁力屋や山岡家は、落差が小さい。リモートワークや巣ごもり需要の受け皿となったからだ。

その一方で繁華街型の一風堂は大ダメージを受けている。

※各社決算短信より(筆者作成)

町田商店を展開するギフトホールディングス(以下、ギフト)は、逆風もお構いなしに圧倒的な成長力を見せた。

4社の中で現在、最も勢いに乗っているのがギフトだ。この会社は2018年10月に上場しているが、その後2割増のペースで増収を重ねている。上場時に売上高70億円規模だった会社が、今期は200億円オーバーを達成しようとしている。

町田商店は家系ラーメンと呼ばれる豚骨醤油と中太麺が特徴。18時まではライス食べ放題を基本としており、学生や若い会社員の男性客がメインターゲットだ。繁華街、住宅街、ロードサイドなど多様な店舗展開をしている。

出店スピードが速いのは、プロデュース店と呼ばれるフランチャイズ(FC)加盟店が多いためだ。741店舗のうち、548店舗がプロデュース店なのである。若者の胃袋をつかむ家系で圧倒的な知名度を獲得し、集客力もあるためにFC加盟するオーナーが絶えないのだろう。

ギフトはビジネスモデルの構築も見事だ。FC加盟店が多い会社の場合、食品卸の性格が強まるために原価率が上がる傾向がある。典型的な会社がFC主体で「コメダ珈琲」を運営するコメダホールディングスで、その原価率は6割を超えている。直営中心の「サンマルクカフェ」を運営するサンマルクホールディングスが2割ほどであることを考えると、その原価率の比重の大きさがわかる。

ギフトの原価率は3割程度。直営主体の山岡家などと数パーセントしか変わらない。実はギフトのフランチャイズシステムは、加盟店に保証金や加盟料、ロイヤリティを一切徴収していない。FC加盟店はビジネスを始めやすいのだ。

しかし、原価率を見ると他の会社と変わらないことから、加盟店への食材卸価格に付加価値をつけ、ギフトが儲けを出しやすいようにしているのだろう。

クールジャパン機構の後押しで海外出店に弾み

コロナ禍で一時売上高が4割減少した、一風堂を運営する力の源ホールディングスだが、回復が顕著になってきた。2024年3月期の売上高は2割の増収を見込んでいる。今期の売上高は300億円を突破する。

写真/Shutterstock

一風堂はとんこつの「極 白丸元味」と醤油の「極 赤丸新味」、スパイスを利かせた「極 からか麺」の3つがメインで、シンプルな構成が特徴だ。従来のラーメンファンよりも、女性客などの取り込みに熱心だった。東京駅周辺に出店するにしても、町田商店は「東京ラーメン横丁」だが、一風堂は「丸の内ブリックスクエア」だ。ハイソサエティーな層を狙っている姿勢がうかがえる。

現在、一風堂が注力しているのが海外出店だ。一風堂は279店舗出店しているが、そのうち海外は137。およそ半分が海外の店舗となった。アジア圏だけでなく、イギリスやフランス、アメリカにも出店している。

一風堂は2014年に海外需要開拓支援機構から10億円の出資を受けた。このファンドはクールジャパン機構とも呼ばれ、海外展開の芽を持つ会社に出資をし、その後押しをするという役割を持っていた。クールジャパン機構は失敗ばかりが取り沙汰されたが、力の源ホールディングスは数少ない成功事例となった。

インフレが進むアメリカでは、ラーメン1杯が2000円でも売れるといわれている。こうした状況では海外のほうが稼ぎやすくもなるだろう。グローバルな店舗展開という他社とはまったく違う戦略で勝負を賭けている。

取材・文/不破聡

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