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【オンライン授業は風俗の個室で】学費のためにカラダを売る学生が急増中。日本の貧困を本格化させた「2004年の分岐点」とは?

集英社オンライン / 2023年12月22日 17時1分

女性や若者を直撃する日本の貧困問題。これを深刻化させた要因として、貧困をフィールドワークに取材を続けるノンフィクションライター・中村淳彦氏は「2004年が分岐点」だと指摘する。なぜ未成年の犯罪やカラダを売る女性が増加の一途をたどるのか。『「今どき若者」のリアル』(PHP研究所)より、一部抜粋・再構成してお届けする。

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強盗に走る男、売春に陥る女

2023年1月に東京都狛江市で高齢女性が暴行されて死亡する強盗殺人事件、5月には銀座ロレックス強盗事件が起きた。狛江市の事件では21歳の土木作業員、19歳の大学生を含む4人の実行犯が逮捕され、銀座の事件は犯人全員が19歳以下の未成年だったことで戦慄が走った。



一方、歌舞伎町の大久保病院前では毎日、日本人の街娼たちがズラリと並んで売春行為が繰り広げられる。「たちんぼ」と呼ばれる違法行為をするのは、主にZ世代の女性たちで、カラダを売る理由は、昼間の仕事の給料が安い、大学の学費のため、「推し活」やホストクラブ代などなどさまざまだ。

女性や若者を直撃する日本の貧困問題、世代格差は行きつくところまで到達し、男の子は闇バイトで強盗、女の子は売春という異常な事態を生んでしまっている。戦後の混乱期に頻発した強盗は重罪であり、女性の街娼行為は売春防止法で厳しく禁止される。にもかかわらず、一線を越えてしまう若者たちがあとを絶たない末期的な状態となっている。

筆者は女性を中心に貧困問題の取材を続けるが、現在の日本の貧困化の分岐点となったのは2004年だ。深刻な少子化が進行し、国や自治体、親たちが大切に育てた男の子たちが強盗となり、女の子たちを売春婦にさせている凄惨な現状を見ると、政府は舵取りを圧倒的に間違ったとしか思えない。

日本の貧困を本格化させた年

さて、2004年に一体何があったのかを見ていこう。

2004年4月、独立行政法人日本学生支援機構が発足して大学奨学金の有利子融資を開始した。学費を続々と値上げしながら、受益者負担の名のもとに世帯年収が低いと認められた家庭の学生と貸借契約し、借金を抱えさせるというものだった。雇用の非正規化で学生の親世帯が貧しくなり、学生は多額の借金を背負うことが常識となった。

政府は1990年代半ばから雇用の自由化をめざして、労働者派遣法の改正を繰り返していた。そして2004年3月、製造業の派遣を認めたことで非正規雇用が本格化した。日本はジェンダー指数が低い国であり、地方を中心に男尊女卑、家父長制、長男文化が根深く浸透している。女性から続々と非正規雇用に移され、労働者の低賃金が常態化した。もう一つ、2003年に開始され、2004年に激化した歌舞伎町浄化作戦である。当時の石原慎太郎都知事が警察官僚竹花豊氏を招聘し、歌舞伎町の店舗型風俗店を立て続けに叩き潰つぶした。そして、その動きは関東全域に広まった。店舗型風俗店は昭和時代から貧困女性の最後のセーフティネットとして機能したが、女性の貧困が本格化する分岐点となった2004年に潰してしまったのである。

良質な雇用を奪い、未成年の大学生に有利子負債を抱えさせ、女性たちのセーフティネットまで奪ったことで深刻な貧困の時代が幕をあけた。この副作用として起こったのが、単身女性の3人に1人が該当する女性の貧困、7人に1人の子どもの貧困、そして深刻な学生の貧困であり、大切に育てた子どもたちを最終的に売春婦にさせてしまっているという状況だ。

歌舞伎町の売春婦は、「ホス狂い」と呼ばれるホストクラブに過度に没頭する女性客が多い。政策による貧困とは違うという意見があるが、じつはそうではない。2004年から本格化した雇用の非正規化で、企業は若い女性たちを部品やコマのように扱った。雇用に身分をもうけて、若い女性たちに非正規という代替が利く低賃金労働をさせたことで、多くの女性たちは希望を失った。

希望がなければ生きてはいけない。居場所や趣味すらない非正規の女性たちが、ホストや過剰な推し活にハマった。好きな人を応援するための資金を稼ぐために、非正規の一般女性たちが続々と風俗や街娼に走っている。よって、現在大流行する一般女性の売春は、女性から希望を奪った雇用の非正規化の副作用とも言えるのだ。犯罪の一線を悠々と越えてくる貧困の深刻な現状は、日本の貧困化が本格化した2004年の分岐点に、すべてつながってくるのである。

奨学金返済のためにパパ活

「奨学金の金額が大きすぎて、自分がどれだけの借金を抱えているのかわからない。いまの段階だと、とても返済できるとは思えない。お金が圧倒的に足りてないことだけはわかるので、稼がなきゃって意識はある。だからパパ活やってみようかなって」

茶飯(セックスなし)のみのパパ活をする藤井優花さん(仮名、21歳)は、都内の最難関私立大学3年生。誰が眺めても美人、美しいという風貌の女性で、彼女は戦略的にパパ活をする。自ら男性を検索し、自己紹介や職業、収入をチェック、自分から「お会いしたい」とメッセージを送る。お金をもらうことが目的なので、相手の年齢は重要視していない。お茶1(万円)、食事2(万円)の要求と肉体関係になることはしないことを徹底し、いまのところ月10万円程度を稼いでいる。

「パパ活は高校の友だちも、大学の友だちも、みんなやっています。高校の友だちから聞いたのがきっかけ。そのときは興味なかったけど、大学でも、何かいいバイトない?みたいな話題になると、冗談交じりでパパ活をしたいねってなる。周りの友だちがどんどん始めて、みんなやっているから私もやった。お茶するだけで1万円とか食事で2万円とか、すごく効率がいいと思った」

10数年前から入試難易度にかかわらず、大学は貧困の巣窟となっている。理由は学費の高騰と、親からの援助減少、授業優先のアルバイト収入減少で、大学昼間部の奨学金受給率は49.6%(「令和二年度学生生活調査」)、平均借入金額は324万3000円(労働者福祉中央協議会調べ)と深刻な状態となっている。

一方、現在70代の団塊の世代の国立大学授業料は当時1万2000円で、さらに彼らには消費税も携帯代も光熱費の上昇もなかった。壮絶な世代格差の側面が、安価な大学学費と税制だけで説明できる。このように貧困状態を強制するとパパ活、水商売は常識となり、性風俗や売春する女子学生も膨大に現れてくる。

学費のためにカラダを売る

「いま、大学は春休みなので、週5日〜6日で出勤しています。14時〜閉店24時まで、ほぼ毎日。稼いだ金額は先月75万円、先々月50万円くらい。でも、この前、風俗していることがお母さんにバレた。実家を出て、いまは一人暮らし。親とは絶縁状態なので、学費のほかに生活費が必要になった。もう休みの期間中は限界まで働くしかない。私立なので学費が年間110万円、残り2年間あって220万円必要で、時間があるときに働いて貯金したいってことでの鬼出勤です」

松本未來さん(仮名、20歳)は、地方にある中堅私立大学3年生だ。ほとんど休むことなくソープランドに出勤する。清楚な優等生風で、大学では体育会系の部活に所属(活動は土日のみ)し、グローバルビジネスの研究をしている。大学の授業期間中は土日を中心に、休み期間中はほぼすべての時間を店の個室で過ごしている。オンライン授業はソープランドの個室で受けた。

「最初は店舗型ヘルスで働きました。高校3年のとき、国立に落ちたら私立、私立に行ったら風俗やるって決めていました。それまでの男性経験は一人だけです。経験はほとんどないけど、なんとかなるって自信はありました。実際にやってみて、キツイけど、やっぱりお金もらえるのが嬉しかった。精神的にもダメージのある仕事でしたけど、お金もらえるっていうのと、お金が貯まる、大学に行くことができるっていうのがすごい、私にとって幸せだった。だから続けています」

国立大学に落ちたことで、母親に「奨学金で大学に行け」と言い渡されている。両親は正規雇用の県庁勤務で、世帯収入は1200万円を超える。しかし、両親が学費の援助を拒否したので、私立に進学先が決まった高校3年3学期に高校の教室で風俗嬢になる決意をしている。大学入学以降、中年男性に肉体を貪られる毎日だ。

「自分は何しているのだろう?って、よく思います。成人式の日は変なお客さんが多かったこともあって、すごく落ち込みました。学校の友だちとか部活の仲間とか、普通のレストランとか居酒屋とかのバイトで、なんとかやりくりしているわけじゃないですか。でも私はこうやって1日何時間も働いて、おじさんの相手して、いつも裸で全身を舐められて、何しているんだろうって。まともじゃないなーって悲しくなるときは、めっちゃあります」

彼女のような厳しい境遇は、大学生では珍しくない。両親は平均以上の所得があるのであらゆる給付奨学金、第一種奨学金は対象外であり、学生生活にかかるお金を肉体で稼がなければならない。団塊ジュニアの両親、団塊の世代の祖父母は、彼女に自分の学生時代の価値観で語る。未來さんの壮絶な苦境を何も理解していない。家族の無理解と高額な学費がのしかかり、欲望に飢えた中年男性を相手に性的サービスを提供し続ける、という悲惨な状況に陥っている。

「今どきの若者」のリアル

山田昌弘(編著)

2023年11月15日

1078円(税込)

新書判/248ページ
発行:PHP研究所

ISBN:

978-4-569-85607-0

「今どきの若者は〇〇だね」と自らの印象で語られがちだが、研究者やノンフィクション作家たちは若者をどう捉えているのか。

「承認欲求はあるが人前では褒められたくない」「『ゆるい職場』だと自分は成長できるのかと不安になる」「『SDGsに配慮したモノだと、堂々と胸を張れる』など『意味のある消費』を望む」……。Z世代の思考を知り、日本の今と将来を考える。

●10代から20代は人前で褒められたくない世代
●「推し」が出るならテレビを観る
●韓国人男性に惹かれる日本人女性
●「若者の本離れ」というウソ――近年の小中学生は1955年以降で最も平均読書冊数が多い
●困窮して身体を売る人たち
●誤解されるヤングケアラー
●「地方のいなか」の若者がもつ希望

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