「おもしろくないなら、時間もお金もかけたくない」倍速視聴・ネタバレ視聴を駆使するZ世代特有の「テレビ」との向き合い方
集英社オンライン / 2023年12月23日 16時1分
SNSや定額動画配信サービスの隆盛により、「テレビを見ない」と指摘されることが多いZ世代。だが彼らは倍速視聴やネタバレ視聴を駆使し、いわゆる「タイパ」を重視しながら戦略的にコンテンツを消費している。『「今どき若者」のリアル』(PHP研究所)より、Z世代特有の「テレビ」との向き合い方を、一部抜粋・再構成してお届けする。
韓国文化に触れる一環としての韓ドラ
昨今は定額動画配信サービスが充実し、誰もがいつでも、テレビやPC、スマホの画面で好きな動画を観られる時代になりました。読者の皆さんのなかにも、ドラマやアニメ、映画をテレビのリアルタイムのみならず、Amazonプライム・ビデオ(アマプラ)、Netflix(ネトフリ)、Hulu、Disney+といった定額動画配信サービスを登録して観ている方も多いのではないでしょうか。
私は、Z世代(1995年以降生まれの若年層)の研究メディア「Z総研」でトレンド分析を担当しながら、N.D.Promotionの取締役として、Z世代のプロモーションやインフルエンサーのキャスティングに関わっています。動画配信サービスにとって重要な視聴者であるZ世代はどんなコンテンツをどのように観ているのか、本稿では私が携わるZ総研ほかの各種調査やZ世代の「生の声」をもとに見ていきます。
まず、Z世代はどんな定額動画配信サービスを利用しているのでしょうか。
アプリ分析サービス「App Ape」による2022年7月の推計によると、10代と20代の定額動画配信サービスの月間利用者数上位3位はともに、①アマプラ、②TVer、③ネトフリの順でした。アマプラについては、Amazonプライムに登録することで動画を含む多分野のサービスの利用が可能となり、動画以外の目的の利用者も含まれるため人気が高いと考えられます。
一方で、同調査の50代の1位はTVer、2位はアマプラと順位が逆転しています。テレビ世代である50代には、テレビ番組の無料見逃し配信動画サービスであるTVerのほうがより多く利用されていると見られます。ただしTVerは無料のサービスであり、有料の月額サービスであるアマプラやネトフリよりも気軽に利用できる点も影響しているでしょう。
私がZ世代の当事者にヒアリングしたなかでは、アマプラは家族が会員登録していて利用する人が多く、ネトフリではコンテンツを観るために自身で契約している人が多い印象です。
人気の作品は、アマプラでは『HITOSHI MATSUMOTO presentsドキュメンタル』『ザ・マスクド・シンガー』といったバラエティ、また恋愛リアリティ番組『バチェラー・ジャパン』でした。
ネトフリでは韓国ドラマや映画・アニメの視聴者が多く、ネトフリオリジナル作品も人気です。韓国ドラマは物語の内容のみならず、出演女優のメイクやコスメ、服などファッションを真似するために観る人も少なくないようです。Z世代のとくに女性はK-POP好きが多く、韓国の文化全体に触れる一環として韓国ドラマを楽しんでいるのです。
作品を観るきっかけは切り抜き動画
では、Z世代は動画コンテンツをどのように観ているのでしょうか。ライターの稲田豊史さんの著書『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)が話題になったことで、若い世代の「倍速視聴」(動画の再生速度を早くする視聴方法)や「ネタバレ視聴」(物語の結末を知ったうえで観ること)について聞いたことがある方、実践している方もいるかもしれません。
損保ジャパンの2022年9月の調査によれば、倍速で動画を視聴するZ世代は70%に及び、上の世代と比べて最も倍速視聴をする世代です。私がヒアリングした限りでは、「倍速視聴」や「ネタバレ視聴」、さらに「ながら視聴」(別の作業をしながら動画を観ること)も含めれば、Z世代のほとんど全員が、いずれかの視聴方法を経験したことがありました。
「倍速視聴」をする理由としては、「時間がもったいないから」「早く結末が知りたいから」などが挙げられ、いわゆる「タイパ」(タイムパフォーマンス)を重視する傾向が見られます。
「ネタバレ視聴」については、「先に結末を知って良い作品か判断したうえで、観るかどうかを決めたい」ようです。Z世代は膨大な情報やコンテンツがあふれる環境で育ってきたからこそ、その取捨選択に敏感です。面白いコンテンツなら全部観たいけれど、面白くないのなら時間もお金もかけたくない。だから「ネタバレ視聴」することで、リスクヘッジをしているとも言えます。彼ら彼女らは時間に追われているというよりも、「自分の時間をできるだけ目一杯楽しみたい」というポジティブな気持ちからタイパを重視しているのです。
作品を知るきっかけとして多いのは、Instagram(インスタ)やTikTokにアップされている切り抜き動画です。切り抜きは本来違法な動画ですが、最近はその反響の大きさもあって、ドラマや映画の公式アカウントが活用する場合も少なくありません。
Z世代は、ドラマやバラエティのキュンキュンするシーン・面白い場面が数10秒だけ抜粋された動画を観て、気になったらアマプラやネトフリでの視聴に至るのです。ただしここでも、作品を最初からちゃんとすべて観るのではなく、「倍速視聴」「ネタバレ視聴」「ながら視聴」を駆使しながら作品に触れていきます。
Z世代はテレビを観なくなっているのか?
こうしてZ世代のコンテンツへの接し方を見ていくと、「倍速視聴やネタバレ視聴で作品を十分に堪能できるはずがない」と思われる方もいるかもしれません。ただ、Z世代は何もすべてのコンテンツでこうした観方をしているわけではありません。お気に入りの作品は何度も繰り返し視聴するなど、コンテンツを目的に応じて「戦略的」に観ています。
なかでもZ世代が多くの時間を費やすのが、「推し」(アイドルやアニメのキャラクターなどイチオシのメンバー・人物)が出演している作品です。SNSや定額動画配信サービスの発達によって「テレビを観なくなっている」と言われるZ世代ですが、推しが出ている番組が見逃し配信されていない場合もあるため、テレビをリアルタイムで観ることも珍しくありません。
Z総研が2021年8月にZ世代を対象に行なった調査では、「現在放送しているドラマを観るときはリアルタイムで観ますか」という質問に対し、「テレビでリアルタイムで観る」と答えた割合が38.9%と最も高く、続いて「無料見逃し配信で観る」が24.9%、「サブスクリプションサービスで観る」は10.0%でした(図1)。Z世代はSNSを通じて情報を収集し、推しが出ている番組を入念にチェックしてテレビを観ています。
推しが出ているドラマや映画は「ネタバレ」されないようにリアルタイムで視聴し、出演シーンを見逃し配信や録画で何度も観返します。推しが番組の一部に登場する場合は、出演時間をファン同士でSNS上で共有し、そのタイミングのみ視聴することもあります。SNSでは「推し活」(推しを応援する活動)専用のアカウントをつくり、推しが登場する場面で実況中継のように感想を投稿してファン同士で盛り上がります。推し活をきっかけに、リアルの友人に発展することもあります。
かつては、SNSのリプライやDM(ダイレクトメッセージ)などから知り合うのは危ないという風潮がありました。ただ、Z世代はネット媒体とともに成長してきた「デジタルネイティブ」ですから、ネットリテラシーにはかなり敏感です。インスタやX(旧Twitter)でやり取りをするなかで相手の性質を観察し、アカウントもチェックして、怪しい人ではないか入念に見極めます。Z世代はSNSの使い方に十分配慮したうえで、推しをきっかけに人びととつながっています。
このように「推し活」によってファン同士がつながることは、素晴らしいことだと私は捉えています。一昔前はアイドルやアニメが好きだと言うと、「一部のヲタク」「暗い」といったネガティブな印象がもたれる空気がありました。でもいまは好きなものを、自信をもって「推す」ことができる。Z世代にとって「推し」が存在することはいまや当たり前であり、そこから交流が生まれることも少なくありません。Z世代は「好きなものを好きと言える社会」を後押ししているのです。
またZ世代は、好きな作品を自身の学習にも活かしています。ネトフリでは外国語字幕と日本語字幕を同時に表示することができるため、語学力向上に使っている人もいます。お気に入りの韓国ドラマを流し、ハングル字幕と日本語字幕を画面に同時に表示する。再生速度を調整することで、習熟度に応じて学習することができます。「推し」が出演している作品なら自然と関心も高まりますから、語学の習得も早まるはずです。Z世代は作品の新たな活用法を生む可能性も秘めているのです。
「今どきの若者」のリアル
山田昌弘(編著)
2023年11月15日
1078円(税込)
新書判/248ページ
発行:PHP研究所
978-4-569-85607-0
「今どきの若者は〇〇だね」と自らの印象で語られがちだが、研究者やノンフィクション作家たちは若者をどう捉えているのか。
「承認欲求はあるが人前では褒められたくない」「『ゆるい職場』だと自分は成長できるのかと不安になる」「『SDGsに配慮したモノだと、堂々と胸を張れる』など『意味のある消費』を望む」……。Z世代の思考を知り、日本の今と将来を考える。
●10代から20代は人前で褒められたくない世代
●「推し」が出るならテレビを観る
●韓国人男性に惹かれる日本人女性
●「若者の本離れ」というウソ――近年の小中学生は1955年以降で最も平均読書冊数が多い
●困窮して身体を売る人たち
●誤解されるヤングケアラー
●「地方のいなか」の若者がもつ希望
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