〈教育困難校の実態〉同級生へのストーカー、食事を与えられず校庭の草を食べる…教師も対処に困惑する発達障害と家庭問題を抱える生徒
集英社オンライン / 2023年12月16日 17時1分
日本の高校には、「教育困難校」と呼ばれる学校がある。教育困難校は、偏差値30台の学校がほとんどであり、多くの学校で定員割れしているので基本的には誰でも入学できる。現在、こうした学校が抱えている課題に、発達障害の特性を持つ生徒たちへの対応がある。
昭和、平成とは異なる教育困難校の現在
これは東北のある教育困難校の教師の言葉である。
「うちの学校は定員の半数しか生徒が入ってこなくて、廃校になることが決定しています。生徒たちの7割は発達障害と診断されているか、明らかにその特性がある子たちです。彼らが一緒になってトラブルを起こすので、教員もどう対応していいかわからないといった状況に陥っているのです」
この学校では、授業中のトラブルとして次のようなことが起こるという。
・教室の床に寝そべって動かなくなる。あるいは、ハイハイする
・独り言をつぶやきつづける、鼻歌をうたいつづける
・突然、前の席の人をシャープペンシルで刺したり、服に落書きしたりする
・飲み物をいきなり吐き出す
これでは授業が成立しなくなるのは明らかだ。教育困難校と聞けば、1980年時代によく見られたヤンキーのような不良が多くいる学校をイメージするが、今はまったく違うという。いったいそこで何が起きているのか。その最前線を取材した。
まず、教育困難校で発生したトラブルの事例を2つ紹介しよう。
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写真はイメージです 写真/Shutterstock
■CASE1:落書き事件
有馬優美香(仮名)は、小学生のころに軽度の発達障害と診断されていた。高校に入学早々、彼女は男子生徒とトイレに立てこもったり、保健室にあった消毒用のアルコールを飲んで倒れるなど問題行動が目立った。教員もその都度注意するなり、処分をチラつかせるなどしたが、優美香には問題行動を起こしたという意識すらなかった。
高校2年になって間もなく、優美香は1学年下の男子生徒である蓮田勝(仮名)に恋心を抱くようになる。勝には他校に恋人がいたが、優美香は構うことなく勝に付きまとい、毎日のように教室に遊びに行ったり、家の前で待ち伏せしたりした。家の中に無断で入り込んで問題になったこともあった。
これに業を煮やしたのが、勝の恋人だった。彼女はわざわざ学校まで来て優美香に「二度とうちの彼氏に近づくな」と言った。優美香はケロッと「わかった」と答えた。
数日後、警察から学校に電話がかかってきた。優美香が、この恋人の学校へ行き、校舎の壁にスプレーで「勝!!!」と大きく書いたという。落書きは学校内だけで7か所、さらに近所の民家の塀や車にも及んでいたという。
学校は優美香を呼び出し、事実関係を確かめた。優美香は「勝のことをみんなに知ってほしいと思って書いただけ」という意味不明の主張を繰り返した。学校は彼女を退学処分にした。
クラス全員にSNSで包丁の写真を送りつけ…
CASE2:駆け落ち事件
高校2年の宇野結衣(仮名)は、同級生の男子生徒と付き合っていた。2人とも発達障害のある者同士で、たびたび小さな問題を起こしていた。
ある日、2人は話し合って、「駆け落ちしよう」と決めた。駆け落ちしなければならない理由があるわけではなかったが、2人の間ではそう決まったらしい。
放課後、2人は新幹線の停まる県内の駅まで行ったものの、電車賃がなくチケットを買うことができなかった。渋々家に戻った後、結衣はSNSでクラスメイト全員に包丁の写真と一緒に「金をよこせ」というメッセージを送った。そうすれば、クラスメイトが駆け落ちに必要な金をくれると思ったらしい。
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写真はイメージです 写真/Shutterstock
翌日、学校にこのことが発覚。恐喝事件として警察まで駆けつける事態となり、結衣のみが退学処分になった。
この2件のトラブルからわかるように、これら生徒たちが示す思考の飛躍はなかなか想像しづらいものがある。高校の教員がいくら真摯に生徒に向き合っても、生徒が消毒用アルコールを飲む、好きな男子の名前を校舎や車に書きまくる、駆け落ちのための新幹線代をSNSを使って恐喝で集めようとする、といったことは理解できないだろう。しかも、生徒本人に罪悪感がない。これが教育困難校の現状なのだ。
前提として念頭に置いておきたいのが、発達障害だからといって、すべての生徒がこのようなトラブルを起こすわけではないということだ。発達障害のある人全体の中のほんの一握りである。
しかし、教育困難校では特にこうしたトラブルを起こす生徒の割合が高いという。
関西の教育困難校に勤務する教員は次のように話す。
「うちの学校では9割の生徒が貧困家庭で、6割がひとり親家庭、半分くらいが小中学校時代に不登校経験のある子たちです。つまり、発達障害だけでなく、家庭にも問題があり、小中学校時代から何かしらの困難を抱えてうちの学校に来る。そういう意味では、発達障害のある子の中でも特殊な子が多い印象があります」
先生側にも対処法がわからない
たとえ低所得だとしても、両親がしっかりと子どもの特性を認識し、愛情を注ぎ、手を差しのべれば、子どもはできることを少しずつ広げていけるし、学力を向上させることもできる。
だが、親が生活や精神に余裕がなく、虐待などといった不適切な接し方をすれば、子どもの特性は大きくゆがんでしまうことになる。実際に児童自立支援施設の子供の9割が「発達障害+家庭問題」を抱えているという統計もある。実は、このような子どもたちが教育困難校に集まる傾向にあるのだ。退学にならないようなケースでも、次のようなことが頻繁にあるそうだ。
・生徒が同級生に対するストーカーになる
・学校の中で性非行(性行為、脱衣、痴漢、盗撮)をする
・ゲーム、ネット依存による不登校
・教員や生徒への思い込みによる言いがかり
学校の外でも、性や詐欺の被害に遭う(加害も)、ネットで誹謗中傷や個人情報漏洩をする、といったことも起きているそうだ。これでは健全な学校運営は望むべくもない。
首都圏の教育困難校の校長はこう述べる。
「学校だけでは生徒の行動をコントロールできません。親にも指導を頼みたいのですが、こういう生徒の親は往々にして、親自身も問題を抱えていることがしばしばです。子供と似たような、あるいはもっとひどいタイプが多い。学校が何を言っても聞く耳を持ってくれないどころか、反発してくることあります」
この校長の学校でも、生徒が「お腹がすいた」という理由で文化祭のために用意していたカレーライス用の米を生のままバリバリと食べてしまったり、「運動会に出たくない」という理由で体育館にあったバスケットボールを彫刻刀で刺して、10個以上のボールの空気を抜いたりしたことがあったそうだ。これらも通常では考えにくい行為だ。
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写真はイメージです 写真/Shutterstock
前述した東北の教育困難校で司書をしていた女性は言う。
「県の研修で発達障害について学ぶ機会はありますが、その知識が学校で実際に役に立つことはあまりありません。生徒たちの問題行動は、研修で教わる知識を超えてしまっているんです。そういうレベルじゃない。なので教育困難校に来た先生は、転勤になるまで何もせずおとなしくしているか、やめてしまうかどちらかです」
閉鎖、合併で教育困難校はなくなっていくが…
発達障害に家庭問題が加わって困難を抱えた子どもたちへの対応は、医療や心理の専門家でも難しい。それを教員がすることは、現実的ではないだろう。だが、教育困難校では、それが実際に起きているのだ。
司書の女性はこう語る。
「地方では、少子化もあって教育困難校は閉鎖や合併に追い込まれています。都会では定時制や通信制といった受け皿があるかもしれませんが、地方ではそうした子どもたちは定員割れしているワンランク上の学校に行くことになる。そうなると、それまでは教育困難校とまではいかなかった学校にまで混乱が生じる可能性があると思います」
地方では偏差値50前後の学校であっても定員割れして受験生をほぼ全員受け入れているという現実がある。特に私立高校はそうだ。そういう意味では、彼女の懸念は現実になりかねない。
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写真はイメージです 写真/Shutterstock
前出の校長は次のように話していた。
「教育困難校では、オーバードーズしてフラフラになって登校してきたとか、親にまったく食事をもらっていないので校庭の草を引っこ抜いて食べたという子もいます。そうした現実を踏まえた上で、心理の専門家を2クラスに1人くらい入れるとか、放課後の支援までできるNPOを複数介入させるといったことをしないと、運営していくのは難しい。その負担をすべて教員が背負うのは不可能ですから」
教育困難校の生徒たちは、卒業すれば一人で生きていかなければならなくなる。そうした人たちが社会でつまずいたり、トラブルを起こしたりする可能性は少なくない。
そう考えれば、高校に在籍している最中に、専門家による手厚い取り組みをしていく必要があるのではないだろうか。
取材・文/石井光太
取材・文/石井光太
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シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。
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