2023年度(1月~12月)に反響の大きかった記事をジャンル別でお届けする。今回は「ビジネス記事ベスト5」第5位の、北海道のラーメンチェーン店事情がうまくいかないワケを解説した記事だ。(初公開日:2023年3月27日。記事は公開日の状況。ご注意ください)
「幸楽苑」「天下一品」も撤退…「チェーン系ラーメンはまずい」という先入観が“北海道進出”を阻んでいる!? 本州の人気チェーン店が北海道で失敗する深いワケ【2023ビジネス記事 5位】
集英社オンライン / 2023年12月25日 11時1分
2023年度(1月~12月)に反響の大きかったビジネス記事ベスト5をお届けする。第5位は、北海道のラーメンチェーン店事情を解説した記事だった(初公開日:2023年3月27日)。北海道では本州発のラーメンチェーン店がなかなか根付かない。有名な「幸楽苑」も「天下一品」も撤退しているのが事実だ。2022年末、そこに「丸源ラーメン」が新たに進出したが、道内での勝算はあるのか。札幌ラーメンコンシェルジュとして活動する大石敬氏に見解をうかがった。
強豪チェーン店も撤退してきた歴史
熟成醤油ラーメン「肉そば」を売りに、全国170店舗以上を構える「丸源ラーメン」。昨年12月28日、北海道札幌市白石区の菊水元町に出店し、北海道進出を果たした。オープン直後からにぎわいを見せていると話題だ。
しかし、北海道は全国屈指のラーメン激戦区。今や知名度が全国区となった北海道の人気店「すみれ」や「えびそば一幻」をはじめ、数多の有名店が軒を連ねている。
また「味の時計台」「ラーメンさんぱち」といった道内のローカルラーメンチェーン店の存在感も強く、既存の有名店や人気チェーン店がしのぎを削り合っている状況だ。
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そんな北海道のラーメン業界は、札幌は味噌、旭川は醤油、函館は塩と主に3派にわかれているが、札幌ラーメンコンシェルジュ・大石敬氏いわく、「道民の味の好みが必ずしもこの3派に即しているわけでもない」という。
「たしかに一昔前は黄色いちぢれ麺でスープが味噌、醤油じゃないと食べたくない人、いわゆる札幌ラーメンを愛する層がまだまだ顕著でした。けれど現在はほかの地域からラーメン文化がどんどん入ってきているので、若者を中心に多種多様なラーメンを楽しむ土壌ができ始めています」
となると、丸源ラーメンにも勝機はありそうだが、実は本州発のラーメンチェーンが北海道に進出するも、撤退を余儀なくされたという過去がある。
2012年に札幌市厚別区厚別東に1号店を出店した「幸楽苑」は、最盛期には道内11店舗にまで増やしたものの、2017年の業績不振を機に道内から完全撤退。また京都発のこってりラーメン「天下一品」も2014年に札幌市中央区すすきのにオープンしたが、その後思うように店舗展開を進めることができず、2021年に営業を終了した。
なお、この2チェーンに撤退の要因などをうかがおうと取材申請をしたが、回答は得られなかった。
そのほかにも、主に関東で店舗を広げる「くるまやラーメン」もかつては札幌市などで店を構えていたが、現在は閉店。
また現状、「一蘭」や「らあめん花月嵐」は、札幌市内に1店舗のみで営業を続けているが、ほかの強力なライバル店のなかでイマイチ存在感を示せていない印象だ。
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それでも北海道以外が発祥のラーメンチェーンにも勝算はある、と大石氏は言う。
「万人ウケするラーメンの味に求められるレベルが高まっていますし、もしくはよっぽどほかとは異なる特徴的な個性を持つラーメンなどでないと、道内でどんどんチェーン展開していくのは難しいかもしれません。ただそう考えると、本州発チェーンは個性的で特徴のある味が多いので、道内でヒットする素質はあるはずだと私は考えております」
コスト増、立地など要因はさまざま
だが現実的には、まだまだ北海道以外が発祥のチェーン店の道内シェアは高くない。味の好みの問題もそうだが、それ以上に参入障壁の高さが一因としてあるようだ。
「北海道に向けて原料を運ぶ物流コストが最大のネックとなっていますね。チェーン店の営業となると、スープや具材をセントラルキッチン方式(メニューをひとつの工場で作り各店舗まで届ける方式)で作り、各店舗まで運送するやり方が一般的ですが、本州にある工場から北海道へ運ぶとなると運送費が跳ね上がってしまいます。かといって道内で工場を作ろうとしても、複数の店舗を出店させないと採算が合わないですし、何より1店舗目がコケてしまうとその後の道内展開がしづらいという側面があるのです」
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道内シェア獲得のためには、出店場所も間違ってはいけないという。
「利用者の多い駅前で店を構える場合は、客足の多い繁華街や一等地への出店が成功の条件なのですが、札幌市の駅前の場合、いい立地はだいたい地元の有力店がすでに出店してしまっている状況です。現に撤退してしまった天下一品は、すすきのの繁華街から少し離れた場所に出店してしまったので、上手く客を誘導できなかったのでしょう。物流コストと出店場所というこの2つの問題で、本州発のチェーンは初手からつまずいてしまい、苦戦している印象です」
ちなみにラーメン激戦区で知られる札幌市だが、市民ひとりあたりのラーメン消費量は意外にもそこまで高くない。
総務省実施の2020~2022年平均の家計調査を見ると、札幌市の「中華そば」消費量は21位と微妙な順位だ。
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「札幌のラーメンは専門店ではなく食堂ベースで提供され、普及していった歴史があるので、道民の若者においてはチェーン系ラーメンへの『美味しくない』という先入観は大きいかと思われます。そういったチェーン店に対して否定的な捉え方をする人の割合が多めなのも本州発のラーメンチェーンが苦戦する理由かもしれないですね」
北海道はラーメン店舗数のわりに消費量は少ないこと、チェーン忌避の空気感があることを踏まえると、本州発チェーンは想像以上に厳しいように思えるが……。
「先ほどお伝えしたように駅周辺の一等地は既存の人気店が陣取ってしまっていますので、本州発のチェーン店が活路を見い出すとしたら交通量の多いロードサイドへの出店でしょう。北海道は本州以上の車社会。車で気軽にラーメンを食べに行きたいと思う道民は多いので、ロードサイドのいい立地に出店するというのが、進出成功のカギを握っているでしょうね」
味のカスタマイズがカギとなる?
やはり北海道以外のラーメンチェーン店が道内に出店するのは一筋縄ではいかないようだが、実は道内で絶大なシェア獲得に成功している本州発チェーン店もある。
「それは『山岡家』です。現在道内で約50店舗も展開しています。パンチのある豚骨スープに中太麺が絡み合う山岡家のラーメンは、北海道っぽくない味わいだったことから一部の道民に刺さり、熱狂的な支持を得ることができました。またロードサイド店舗への出店も積極的であり、広い駐車場も完備している店も多く、友人、家族で行きやすいこともヒットの秘訣だったのではないかと思います。
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そして昨年末に進出してきた丸源ラーメンも、ロードサイドの好立地を確保しているのです。丸源ラーメンが出店した菊水元町店は、十字路の交差点沿いに位置し、駐車場も広めですので、集客力は申し分ありません。また、看板メニューの肉そばはあっさりとしつつも、パンチのある味わいとなっており、札幌民にとっては新鮮な味。
これも特筆すべき点として、卓上調味料の豊富さにも驚きました。どろだれラー油、揚げにんにく、酢など味変できる卓上調味料が丸源ラーメンにはありますが、札幌のラーメン店にはそういったものはほとんどありません。ラーメンをカスタマイズできることは、エンタメ性があるので物好きな道民はハマるんじゃないですかね」
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味をカスタマイズできるというポイントは、札幌において肝になってくるかもしれない。
たとえば、道内有力チェーンである味の時計台は、近年「魂心家」という家系ラーメンブランドを展開しており、家系ラーメン店らしく卓上調味料が並ぶ光景が印象的であった。提供されたラーメンをそのまま食べるのではなく、味変しながら自分好みに仕上げるという文化は道民には目新しく映る可能性も充分ありそうだ。
「多くの人がやみつきになる味わいで、かつ気軽に来店できる立地にあれば、本州のチェーン店でもちゃんと勝算はあるはずです。ゆくゆくはさまざまなラーメン店が参入して、札幌の、ひいては北海道のラーメン業界を盛り上げていってほしいですね」
取材・文/文月/A4studio
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