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【ヒグマ猟に密着】「倒れていても襲ってくるから絶対油断するな」ベテラン猟師も驚く今年のクマの異常な多さ。クマの驚きの生命力と習性とは【2023クマ記事 5位】

集英社オンライン / 2023年12月27日 11時1分

2023年度(1月~12月)に反響の大きかったクマ記事ベスト5をお届けする。第5位は、ヒグマ猟に密着したルポ記事だった(初公開日:2023年11月4日)。今年度の熊による被害総数は10月末時点で過去最悪の180人と報道されている。「熊なんて滅多に会わなかったのに、今年は熊によく出会う」という北海道・十勝地区のベテラン猟師。一体なぜ今年はこんなにも熊の出没が多いのか? ヒグマとエゾシカ猟が解禁される10月の北海道でヒグマ猟に密着した。

2023年度(1月~12月)に反響の大きかった記事をジャンル別でお届けする。今回は「クマ記事ベスト5」第5位の、10月の北海道でのヒグマ猟に密着したルポ記事だ。(初公開日:2023年11月4日。記事は公開日の状況。ご注意ください)


ベテラン猟師も驚く今年の熊の異常な多さ

私が猟銃と狩猟の免許を取得して15年が過ぎた。

ヒグマとの遭遇を願い、毎年欠かさず北海道の猟場へ通い、山梨県では有害駆除に従事しているのだが、未だに一度も熊に遭遇したことがない。これだけ熊が出没しているにも関わらず、片想いが成就しないのは世の常か、はたまた私の殺気が強すぎるのか。

10月21日は北海道の十勝地区におけるエゾシカ猟の解禁日。(ヒグマは10月1日解禁)

私は10年以上お世話になっている十勝在住のハンター仲間と一緒に猟場へと向かった。グループのリーダーで68歳の光雄さんは猟歴40年のベテランだ。毎年、冬眠前のヒグマを仕留めていて、つい先日も2頭のヒグマを獲っている。

ベテラン猟師の光雄さん

今日の猟は光雄さんをリーダーに20〜50代のハンターたちで猟場へと向かう。光雄さんと私が向かったのはヒグマが多く生息する鹿追町で、つい3週間前に光雄さんが2頭のヒグマを獲ったのもこの山だ。早朝5時、鹿の繁殖期ということもあり、立派な角を持つ雄鹿を何度も見かける。ふだんならチャンスとばかりに撃つのだが、今日の狩りの目的はヒグマなので鹿を横目に先を進む。

「ここは十勝でも熊がたくさんいるよ。強い熊の縄張りから追い出された熊が山のふもとのほうに追い出されるんだ。今までは車で林道を走っていて熊に出会うことなんて滅多になかったのに、今年は1日で熊に2回も遭遇して2頭獲れた。そんなこと、これまでにありえなかった」

山に隣接している飼料用のデントコーンの畑には夏から秋にかけてヒグマが入り、作物を食い荒らすので困っているという農家の人の話を聞いたことがある。先日、光雄さんが仕留めたという場所を通りかかるが、ヒグマの姿はない。

牧草地に隣接する林道を車でゆっくり走っていると、地面の所々に黒い山盛りの糞が落ちていた。車を降りて確認しに行くとヒグマの足跡がある。糞の大きさからして親のヒグマだ。やはりこの一帯にはヒグマが潜んでいる。

狩りの途中で見つけた熊の足跡

「今年の夏は北海道でも記録的な暑さだったから、ドングリやコクワの木の実が不作だったのが影響してるみたいだな。強い熊が餌場を独占するから、餌にありつけなかった熊が人里に降りてくるんだよ」

熊に遭遇して命拾いした人が咄嗟にとった行動

そんな光雄さんの話とは裏腹に、3時間ほど森の中を車で走ってみたがヒグマには遭遇しなかった。ヒグマから鹿に狙いを変えて歩き、山の斜面から50mほどの位置に大きな牝鹿が立っているのを見つけたので私がライフルで仕留めた。草むらに倒れているのは丸々と太った牝鹿だ。光雄さんと一緒にその場で血抜きの作業をしているときに、猟仲間に起きたというヒグマにまつわる話をしてくれた。

「銃声がしたらハンターが鹿を仕留めてその場には解体した残滓があることを熊はわかっている。だから、鹿を撃って解体中に熊が出るということもあるんだ。数年前、ハンター仲間のひとりが鹿の解体中にヒグマが近づいてきたことがあってね。ライフルを構える間もなかったけど、手にナイフを持っていたんだ。これはもう戦うしかないと思って大きな声で叫んで、ナイフで立ち向かったらヒグマがたじろいで逃げて行ったそうだよ。

その後、また熊が来ることを予想して手元にライフルを置いて解体を再開していたら、うしろからゴソゴソと音がして、また熊が現れたので今度は仕留めたんだ。山に入ったらいつでもどこでも熊が出るという感覚で猟をしていないといけないよ」

熊の出没が多発する秋の十勝平野

山梨県の山中で山荘を経営している友人は森でキノコを探していたときに木の上からツキノワグマの親子が落ちてきて、親熊は興奮して威嚇してきたという。武器になるナイフは背中のバックパックの中に入っていたので、バックパックを熊の顔面に叩きつけて大声で叫んだら熊は驚いて逃げたそうだ。

他にも熊に襲われて命拾いしたという人たちは咄嗟に同じような行動をしていた。

増加する獣害と減少する猟師

鹿の解体をしていると、光雄さんの携帯電話が鳴った。

グループ最年少の27歳の晢太と30代で猟歴9年目の塚ちゃんが上足寄町の林道でヒグマの親子に遭遇して撃ったという。12番のハーフライフルを使って200mの距離で獲物を仕留めるベテランの域に達している晢太だが、初めて対峙したヒグマを仕留めそこねて、深手を与えたまま逃がしてしまったという。

「撃たれているなら30分から1時間ほどしたら、どこかに倒れていると思うから血痕や足跡をたどって山に登って探してみろ。倒れていても襲ってくるかもしれないから、いつでも撃てるように銃を腰だめにして気をつけて探せよ」

そう晢太にアドバイスをする光雄さん。我々は素早く鹿の解体を終わらせて肉を車に乗せるとヒグマを撃ったという現場に急行した。

40分後に上足寄町の林道の入り口で晢太と塚ちゃんに合流し、そこから5分ほどで現場に到着した。晢太の弾は親熊の腹を撃ち抜き、塚ちゃんは1発で木によじ登った子グマを倒したという。親熊は腹を撃ち抜かれながらも山を駆け上がったそうだ。光雄さんと私は山の麓から捜索する。見晴らしがいいとはいえ、手負いのヒグマを探すというのは恐ろしい。

しばらくすると上のほうから「見つけた!」という晢太の声が聞こえた。私は声のほうに向かって走って行くと山の中腹に大きな黒いヒグマが横たわっていた。初めてヒグマを仕留めた興奮と恐怖をないまぜに顔に浮かべた晢太が腰だめで銃を構える。恐る恐る倒れた熊に近づくとまだ息があり手足を動かしている。人間が近づいてきた気配を感じるとさらに手足をばたつかせて最後の抵抗を見せている。自然に生きるヒグマをこの距離で見ると、なんともいえない恐怖心に襲われる。

光雄さんが晢太に止め刺しを命じ急所に弾を撃ち込む。至近距離で12番の3インチのマグナム弾を急所に受けても、まだ息が絶えないことに驚いた。ヒグマの生命力の強さには驚かされる。光雄さんが話していた通り、倒れていても絶対に油断してはいけないということを実感した。

エゾヒグマと哲太さん

ヒグマを仕留めた2日後、ハンター仲間が集まって獲ったヒグマを料理して食べることになった。自然の中で育った野生の鳥獣の肉を仕留めて初めて食べたときの感動を家族や友人にも食べさせてあげたい。そんな理由で狩猟を始めて20年が経った。そのなかでも、今まで食べたあらゆる肉の中でヒグマの肉が一番美味しい。口に入れた肉を噛みしめる度にヒグマに怯えて山を探したこと、弾が当たった瞬間を思い出す。野生の恵を仲間と共に美味しくいただけることに感謝する。

熊肉は臭みがあると思われているが、適切に処理すれば臭みはまったくない

取材で地方に行くたびに地元の人たちから熊、鹿、猪による獣害に悩まされているという声を多く聞く。ハンターが高齢化し、年々その数は減少しているのだ。コロナ禍、ウクライナ戦争、円安の影響で弾薬の値段が高騰していることもハンター減少に拍車をかけている。これから狩猟を始めたいと思っている若者にとっても状況はなかなか厳しい。

狩猟という自然との対峙に命の大切さを感じる身としては一抹の寂しさを感じる。

取材・撮影・文/横田徹

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