なぜか有名観光地を訪れる気にならない男一匹車中泊の旅で、見つけてしまった福井のマニアックな名所
集英社オンライン / 2023年12月16日 17時1分
50代男一匹車中泊のモットーであり、醍醐味は“行き当たりばったり”。福井を巡った収穫は東尋坊の絶景ではなく……
こじらせおじさんが行くべき、
福井県内のマニアックな名所はどこですか?
有名な観光地を巡る一般的な旅も、僕は基本的には大好きなのだが、車中泊をしながらの男一人旅ではなぜか、そうしたメジャーなところに立ち寄る気分にならない。
北陸地方を巡る今回の旅でも、やはりそうだった。
とはいえ旅の2日目に訪れた福井県の東尋坊は、日本有数の超有名な景勝地だ。
初訪問の場所だったし、実際に目の当たりにするとそのスケールに圧倒され、「すげー」とも思った。
だが正直なところ、心震えるほどの感動に到達することはなく、「やっぱり有名観光地は、行かなくていいかな」と再認識するのだった。
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東尋坊は確かに「すげー」だったけど
有名な場所ほど、これまでの人生で知らず知らずのうちに多くの予備知識を吸収していて、どんなところなのかおおよその見当がついているからなのかもしれない。
東尋坊のような素晴らしい名所でさえ、なんとなく「ああ、予想していたとおりだな」とか「前に行ったあそこに似ているな」などと思ってしまうのは、僕のような50代も半ばの、すっかり仕上がったこじらせおじさんのつまらぬところだろう。
もちろん家族旅行だったら、まだ人生経験の浅い娘も一緒なので、まずは教科書に載っているような有名な場所へ連れていきたいと思う。
でも、僕一人だけの旅の場合は、なるべくそんな“予備知識の実地確認”ではなく、まったく予想だにしなかったところを訪れ、まったく新鮮な驚きを味わいたい。
僕が車中泊一人旅で、無計画の行き当たりばったりにこだわるのは、そんなことを求めているからなのである。
朝に東尋坊を観光した日の午後、福井市内にある田中眼鏡本舗に行き、鯖江産メガネを購入した。
そこで僕は、いろいろお話をして打ち解けた店主ご夫妻に、
「福井で行くべき場所はどこですか? 東尋坊へは行きました。永平寺は『ゆく年くる年』で見るから大丈夫です。恐竜博物館は興味あるけど、大人の男一人で行くのはきついです。なるべくマニアックなところが希望です。さあ、どこですか? さあさあ」と詰め寄った。
まったく面倒な客だ。
優しいご夫妻をずいぶん悩ませてしまったようだが、出てきた答えは、“丹厳洞”と“大瀧神社”というものだった。
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iPadで福井の見どころを教えてくれた
どちらもまったく知らないところであり、まさしく予想だにしない回答だったので、僕は「それですよ、それ! 求めていたのはそれ! ありがとうございます!」とやや興奮気味に礼を言い、すぐさまカーナビに“丹厳洞”と打ち込んだ。
日本にはまだこんなところがあるんだな……と感動した丹厳洞
以降はネット情報の受け売りだが、福井市加茂河原にある丹厳洞とは、江戸時代後期の弘化3年(1846)に、福井藩医山本瑞庵が別荘として建てた草庵。
徳川家慶の従弟で、幕末四賢侯の一人と謳われた福井藩16代藩主・松平春嶽をはじめ、横井小楠(熊本藩士)、橋本左内(福井藩士)、中根雪江(福井藩士)など幕末の有力な志士がここを訪れ、密議を凝らしたのだそうだ。
坂本龍馬と由利公正(福井藩士)の会見記録もあるという。
現在、丹厳洞は料亭となっていて、歴史を感じながら食事を楽しみ、敷地内に残る草庵なども見学できるようになっている。
また敷地内には、福井が誇る石材である笏谷石(しゃくだにいし)の石切り場跡が残っているほか、敷石や橋にもふんだんに笏谷石が使われていて、そこも見どころなのだとか。
そんな前情報を到着した現場の駐車場で緊急取得してから、僕は丹厳洞の入り口に赴いた。
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丹厳洞に到着
しかし、チケット売り場的なものが見当たらない。
開いた門から中を見通すことはできるが、チェーンがかかっていて中に入ることは許されていないようだ。
観光シーズンでもない11月の平日午後。見物客のために一般開放はされておらず、料亭利用客のみしか入れないようになっているのかもしれない。
がっくりきた僕が諦めきれずに入り口付近をうろうろしていたら、奥のほうから一人の男性が歩み出てきた。
ダメ元で「今日は開いてないのですか?」と尋ねると、「ええ、そうです」とつれない返事。
これは仕方がないと諦め、車のほうに向かおうとすると、その方は僕を呼び止め、「もしかして、見学したいんですか?」と聞いてきた。
「はい」と答えると、なんと「じゃあ、いいですよ。どうぞ」と、おもむろに門のチェーンを外し、僕を中に招き入れてくれたのだ。
入場料は不要らしい。
あえて尋ねなかったが、その方はどうやら現在の丹厳洞の持ち主かご親族のようだった。
暗い石切り場や草庵に電気をつけてくれたうえ、敷地内の見どころを一通り解説してくれた。
そして「あとはどうぞご自由に見ていってください」と去っていったのだ。
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門から入ってすぐのところに佇む草庵
なんという幸運だろう。
その後の僕は丹厳洞を独占し、ゆっくりと見学させてもらった。
そしてここは、掛け値なしで本当に素晴らしい場所だということを知った。
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笏谷石が敷かれた道
通り道に重厚な笏谷石が敷き詰められ、苔むした庭園は、上がったばかりの雨でしっとりと濡れ、とても美しかった。
石切り場の中に入ると、庭園の一角とは思えないような重々しい雰囲気で、ちょっとした冒険気分を味わえた。
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庭園の一角にある石切場
そして草庵の中に入り、行燈の光に照らされた客間で座布団に座ったら、ここで日本の行く末を討議したであろう、幕末志士の気持ちの一端に触れたような気がした。
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草庵の中の客間
日本には、まだこんなところがあるんだな……。
これほど素晴らしい古刹が、ひっそりと存在していることが奇跡のように思えた。
もちろん丹厳洞は、ガイドブックにも載らないないような無名な場所ではないが、少なくとも全国規模で知られる観光地ではない。
関東住みの僕のような人間にとってはまさしく、何も予備知識がない穴場。
僕が求めているのは、こういうところなのだ。
大瀧神社で出会った二人のおじさん
そしてもう一ヶ所、福井県越前市大滝町の大瀧神社にも行ってみた。
またまたネット情報の丸写しで恐縮だが、ここ大滝町は和紙の伝統と暮らす町。
1500年前、村人に紙漉きの技を伝えた女神・川上御前を祀る大瀧神社は、“紙の神様”として崇められている。
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越前市大滝町の大瀧神社
大滝町で生産される越前和紙は日本初の全国紙幣「太政官札」に使われ、お札の透かし技法などもこの町で開発されたという。
紙幣の歴史に縁が深いため、大瀧神社はお金(紙幣)の神様としても敬われているのだとか。
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大瀧神社の社殿
天保14年(1843)に建立された社殿は、昭和59年(1984年)に国の重要文化財の指定を受けた名建築。
拝殿と本殿が一体となった複合社殿の屋根は日本一複雑な構造とされ、4層重なった檜皮葺きの屋根が不思議な曲面を見せている。
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波打つような4層構造の屋根
到着したのは日没間近な夕暮れどきだったので、こちらも僕の他には誰もおらず、この名建築を独り占めして堪能……と思っていたらそうではなかった。
60〜70代と思しき2人の男性がいて、地元民らしい一人が、もう片方の人にこの神社のことをしきりに説明していた。
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真横から見ると、かなり特殊な作り
「子供の頃はなーんとも思ってなくて、ただの遊び場だったんだけどね。この歳になって、やっと良さがわかったよ」などと言いながら。
その二人と付かず離れずの距離を保ちながら、見事な彫刻が施された社殿を見学。
ほかには誰もいなかったので、二人の話はしっかり耳に入ってきて、まるでガイド付きの観光をしているようだった。
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複雑で優美な彫刻が随所に施され、紙漉きで豊かだった町の誇りであることがわかる
そしていつしか僕も、おじさんたちと会話を交わしていた。
聞いたところによると、おじさんAは大滝町でずっと営業をしてきたお餅屋さん。
おじさんBは僕に、「この町は紙漉きで有名だけど、お餅の文化も素晴らしくてね。その餅を作っているのが、この人のお店なの」と紹介してくれた。
町を支えてきた紙漉き職人を、さらに下支えしたのがお餅の力なのだということだった。
すっかり感心した僕は、ぜひそのおじさんの店でお餅を買おうと思ったのだが、「今、小売りはしてないんだよね」とあっさりお断りされてしまった。
ざ、残念。
だけど、ほっこりした雰囲気のおじさんたちと楽しいひと時を過ごせて、僕は満足なのだった。
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いい笑顔のおじさんたち。ありがとうございました
ね。これですよ、これ。
丹厳洞と大瀧神社の見学で、すっかり福井を満喫した気分になった僕は、迷わず車を飛ばして次の目的地である石川県に入った。
兼六園をはじめ、それこそ有名観光地が満載であるはずの金沢をあっさりとスルーし、一気に能登半島の先端を目指すロングドライブを始めたのだが、その話はまた別の機会に。
金沢も行ってみたかったけどね。
今は北陸新幹線が整備され、東京から行きやすくなったから、そのうちまた違う形の旅で必ず来るぜ! と心の中で言い残しながら。
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僕の車中泊専用カー
写真・文/佐藤誠二朗
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