2023年度(1月~12月)に反響の大きかった記事をジャンル別でお届けする。今回は「記事ベスト10」第3位の、フジテレビアナウンサー渡邊渚氏によるエッセイ記事だ。(初公開日:2023年2月19日。記事は公開日の状況。ご注意ください)
「中越地震に被災した7歳の頃から、毎年10月に遺書を書いています」フジテレビ渡邊渚アナウンサーの死生観とは【2023記事 3位】
集英社オンライン / 2023年12月29日 8時1分
2023年度(1月~12月)に反響の大きかった記事ベスト10をお届けする。第3位は、渡邊渚氏によるエッセイvol.2だった(初公開日:2023年2月19日)。フジテレビアナウンサー渡邊渚さんは、7歳の頃から毎年遺書を書いているという。被災の記憶や、自身の死生観について語ってもらった。
自分より小さな子が土砂崩れに巻き込まれて
人生や考え方が変わった日はありますか? 私にとってそれはとても明確で、2004年10月23日です。
この日の17時56分、新潟県中越地震が起きました。
私は当時7歳。父は単身赴任で新潟を出て暮らしており、母と妹と3人暮らし。夕方だったので、いつものように3人で楽しくお風呂に入っていたタイミングでした。翌日が妹の4歳の誕生日だったこともあり、「今日が3歳最後のお風呂だね〜」なんて言いながら、明日の夕食に何を食べたいか話し合っていました。
そんな普段よりちょっとワクワクしながら過ごしていたお風呂の時間が、あの地震で一変しました。
人生で初めての大きな地震。とはいえ私が住んでいた地域の揺れはそれほどではなく、大きな被害はありませんでした。
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ただ問題は、母方の祖父母が震源地の中越に住んでいたことです。
お風呂から慌てて出て髪も濡れたままの母が、電話を片手に今にも泣き出しそうな不安な表情でテレビからの情報を見ていました。普段肝っ玉母さん的な人で、こんな母の姿を初めて見たので、これは只事ではないと理解しました。
地震の翌日、まだ祖父母の安否がわからない中、母は妹の誕生日ケーキを作りました。そんな気になれないだろうに。
きっと母なりに、この日が悪い思い出にならないように、涙をこらえて必死に取り繕っていたのだと思います。母にだけ頑張らせてしまっている気がして胸が苦しくなった記憶があります。
そしてテレビから連日流れてくる地震のニュースにも心を打たれました。自分より小さな子が土砂崩れに巻き込まれて生き埋めになっている。
新潟ではよく見る山間の道、たまたまあの日あの時間に私はそういう場所にいなかっただけ。今生きているということが当たり前じゃないということを子どもながらに認識させられました。
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母、妹と共に父が暮らす東京へ
「いつ死ぬかわからない、みんながみんな天寿を全うできるわけではない」と中越地震から学び、それを機に、家族がバラバラであることの怖さを感じました。
もし父が一人で被災したら、誰も助けてあげられない。悩んでも近くにいないから話もしづらい。小さな不安が徐々に大きくなって、私は家族一緒に生活したいという思いを両親に伝えました。そして新潟を出ることになったのです。
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あの時、新潟を出る決断をしていなければ出会わなかった人たちがいて、おそらくこの職業にも就いていなかったと思います。逆もしかり、新潟にいればもっと違う生き方が広がっていたでしょう。
この決断が自分の人生においての大きな分岐点になったことは間違いありません。たまに辛いことがあってこの分岐点を思い出し、弱気になりそうな時もあるのですが、「この人生を選んだのは自分なのだから責任を持て!」と自分を奮い起こします。
そして何より、7歳のわがままなお願いを聞いてくれた両親にはとても感謝しています。
あの日を境に、始めたことが2つあります。一つは『毎日寝る前に必ずお祈りをする』ことです。お祈りといっても、宗教的なものではなく、「家族や大切な人たちが、理不尽に苦しみを与えられることなく、明日を笑って過ごせますように」と心の中で唱えるというもの。
これは25歳になった今も、ベッドに入ると必ず空に向かって言います。効果があるかないかはわかりませんが、習慣の一つになっています。
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渡邊アナの遺書の中身
もう一つは『毎年10月に遺書を書く』ということです。7歳の時から遺書を書いているなんて変ですよね。
小学生の頃は日記帳の最後の方のページに、もし自分が死んだら読んでほしい文章を書き残していましたが、最近はちゃんとしたレポート用紙10枚くらいを封筒に入れて残しています。
内容は家族や友達にどうしても伝えたいことやお金に関すること、自分のお葬式はこんな感じにしてほしいという希望から、デジタルデータとSNSの後処理についてなど、多岐にわたります。
なぜ遺書を書き始めたのかというと、何せ私はカタツムリなので思ったことを素直に言葉にすることが苦手。顔を見るとなかなか本音で話せないので、きっと死んだ後に「あれもこれも伝えておけばよかった」と、私は空の上から後悔するような気がしているからです。
そんな後悔をせずに成仏できるように、遺された家族がちょっとでも明るく上を向いて過ごせるように書いた前向きな遺書です。
一年に一度この遺書に向き合い、何がしたくて、どんなことをやり残しているのか、なんで生きているのか考える。そうすることで、自分にとって今本当に大切なものが見えてきて、生きる目標に向かって全力で進むことができます。
もし明日死んでも、たぶん私は気持ちを伝えなかったということ以外は何の後悔もありません。
遺書を書くって、意外と効果的に自分の人生を見つめなおすきっかけになるのかもしれませんね。
ということで、今回はこれまで心の奥底に留めていた、人生や考え方、そして死生観を変えた1日についてお話ししました。ちょっとだけ殻から胴体が長めに出たカタツムリになった気分です。
次回は「私カタツムリだなー」と思う趣味についてお話ししようと思います!
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「新潟に住んでいた頃、3歳下の妹と」
文/渡邊渚 写真/峠雄三 スタイリング/真壁いずみ ヘア&メイク/久保フユミ
洋服クレジット
レザーブルゾン/A boutique(A LEATHER)
シアーブラウス・スカート/08book(08sircus)
シューズ/アシックスジャパン お客様相談室(PEDALA)
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