2023年度(1月~12月)に反響の大きかった記事をジャンル別でお届けする。今回は「記事ベスト10」第9位の、近年高値で取引されているオートバイの魅力を、コレクターにインタビューした記事だ。(初公開日:2023年4月24日。記事は公開日の状況。ご注意ください)
異常高騰の旧車バイク…「仕入れてそのまま売っちゃう悪徳業者も」と専門店が警鐘。総額2000万円超えのバイクオーナーは「ツーリング中、盗難怖い」【2023記事 9位】
集英社オンライン / 2023年12月29日 8時1分
2023年度(1月~12月)に反響の大きかった記事ベスト10をお届けする。第9位は、コレクターがクラシックバイク愛を語る記事だった(初公開日:2023年4月24日)。近年、オートバイの旧車が異常な高値をつけている。発売当時約50万円のモデルが1000万円以上の価格で販売されているケースも。高騰の背景を解説した前編に続き、後編では旧車オーナーと業者にクラシックバイクの魅力と購入時の注意点などを聞く。
旧車高騰で「盗まれるのが心配」
1964年生まれで東京都内に住む会社員・福地竹虎さんは、オートバイの人気が高かった1980年代に青春時代を過ごし、若い頃からさまざまな車種に乗ってきたという。無類の自動車好きでもあり、学生時代からレースにも出場している。
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福地竹虎さんと愛車のカワサキZ1
「趣味はバイクとクルマ」と断言する福地さんは、古い国産バイクを5台所有している。旧車の中で最も価格が高騰し1000万円超えの車両もある1972年のカワサキZ1をはじめ、1977年のカワサキKH400、1979年のマークⅡ(Z1000MKⅡ)、1980年のホンダCBX1000。
この他、ヨーロッパのワンメイクレース用のレプリカモデルとして2000年代前半に発売されたBMWのR1100Sボクサーカップレプリカも持っているそうだ。
合計5台の現在の中古車市場価格は軽く2000万円オーバー! 福地さんは旧車価格が高騰する以前に、「若い頃に憧れていた」というこれらのバイクを購入している。
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1972年のカワサキZ1。900ccのエンジンを搭載し、正式名称は900SUPER4。750ccのZ2とともに中古車市場で最高1000万円以上の値をつける
「趣味で乗っているので、バイクを売って儲けるつもりは一切ありません」と語る福地さん。
「実は古いバイク以外に新しいモデルを2台持っています。新しいのはツーリング用です。旧車はセキュリティが甘いですし、仲間とツーリングに行っても、道の駅でトイレに行ったり、お店でゆっくりとご飯を食べたりするなんて怖くてできません。
これでだけ旧車が高くなってしまうと盗まれる心配があるので、誰かが交代で見ていないといけませんから」
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そう話し、苦笑いを浮かべる福地さん。今の、古いバイクブームを見据えて、自らの経験をもとに旧車購入の際に注意すべきポイントを説明してくれた。
「オリジナルにこだわるのか、走りにこだわるのか、それぞれの楽しみ方によって異なると思いますが、車両取扱い説明書と純正工具がついている車両は素性がまともだと思います。まずは、ここが大きなポイントになります。
難しいですが、さらに1オーナー車がベストです。あと、フレームとエンジンに刻印されたシリアルナンバーのマッチングを最低でも調べたほうがいいです。番号が離れていると、エンジンを載せ替えていることになりますので、そういう車両は買い叩いていいと思います。
購入前には、ある程度の勉強が必要です。私はカワサキZ系の世界中のカタログをほぼすべて持っています。そこまで集める必要はないですが、当時のバイク雑誌をインターネットのオークションで落としたりして、試乗記や特徴などを事前に調べたほうがいいと思います。
これだけ高騰していると、知識を持ってから売る側と接しないとダメですね。高騰前は失敗しても『まあ授業料だ』で済みました。今は高すぎるので……」
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カタログを手にバイク愛を語る福地さん
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いい旧車を見つけるポイントとして「純正工具と取扱い説明書が付いていること」と福地さんは語る
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福地さんが所有する1977年のカワサキKH400。愛称は「ケッチ」。発売当時は暴走族に人気のマシンで、国内できれいな状態で残っている台数は少ないという
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「ケッチ」のカタログも所有している
仕入れてそのまま売る悪徳業者も
憧れの旧車を高い金額で購入してみたけど、すぐに壊れて大失敗した……。そんな内容の動画がYouTubeには数多く上がっている。
埼玉県で3店舗のオートバイショップを展開する「MotoUP(モトアップ)」岩槻本店には、そんなバイクが何台も持ち込まれているという。
店長の渡部晋さんが語る。
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「MotoUP」岩槻店・店長の渡部晋さん(右)とメカニックの田邉宣人さん
「最近は旧車の知識を持たないショップが増えましたし、商売になるので仕入れてそのまま売っちゃうブローカーのような業者もいます。
だから旧車を買って1〜2カ月で調子が悪くなってしまったと、うちに持ってくる人がいます。それで、『本当にちゃんと整備をしたの?』というひどい車両をたくさん見てきました。
でも一方で、僕たちがどんなに手を入れてもノントラブルではない。『こんなに高いのに』と言う方もいますが、全ての部品を新しくするわけにはいかないんです。
最近、メーカーが古いバイクのパーツを再販していますが、まだまだ一部に過ぎません。僕たちは当然できる限りのことをしますが、どうしても30〜40年経った部分が壊れることもあります。
そういうことを理解してもらえるお客さんにしか、今は旧車を売らないようにしています。ただ、『古いですが、このバイクは頑丈なので大丈夫です』と僕らとは真逆のことを言うバイク屋も多いのは事実。気をつけないといけないですね」
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カワサキZシリーズの系譜を受け継ぐ1979年のマークⅡ(KZ1000MKII)。福地さん所有。北米仕様車で、アメリカ人の知り合いを通じて購入したという
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ホンダが北米やヨーロッパの市場に向けて発売した輸出モデルのCBX1000F。福地さん所有。世界初のDOHC並列6気筒エンジンを搭載した量産車として知られる
長く旧車に乗り続けてきた福地さんは「日本の工業製品は優秀ですが、旧車が現代のバイクと同じように動くわけがないんです」と強調する。
「旧車は手間暇がかかるんですよ。乗り続けるためには信頼できるショップを見つけることが大事だと思います。一度お店に行って、話をしてみる。
セールスやメカニックの方がどういう知識を持って、どういう形で販売をしたいのかというのをしっかりと聞いたほうがいい。
あとはショップとは長く付き合っていかなければなりませんので、僕はスタッフの人柄をすごく重視しています」
近年、海外の愛好家が乗っていた車両が日本に戻ってきくるケースが増えているようだ。また、昨今の旧車ブームによって国内外のガレージや倉庫で眠っていた車両がオークションサイトに出品され、驚くような価格がつけられることもある。
では今後、旧車の価格はどうなっていくのだろうか?
投資マネーで愛好家が置き去り
東京都内で2店舗を運営する「BIG FUN(ビッグ・ファン)」高円寺店の河田祥さんは「古いバイクの価格は少し落ち着いてきたように感じます」と語る一方、「人気車種はこれからも高値をキープしていくのではないか」と予想している。
「旧車の絶版車を扱っているショップで1000万円をつけている車両もありますが、そういう高額なバイクが頻繁に流通しているかといえば、それは疑問ですね。
ときどき掘り出しものがオークションに出てくるので、最高値は伸びていると思いますが、うちの店に関しては、中央値はそれほど変わっていません。でもカワサキZ1やZ2などの人気車種は高値が続いていくと思います。
あと、映画『トップガン マーヴェリック』(2022年)でトム・クルーズが乗っていたカワサキGPZ900R(1984年)とニンジャH2カーボン(2015年)などもこれから高くなるでしょうね」
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福地さんが愛車のレストアやメンテナンスを依頼している「BIG FUN」の河田祥さん(右)らスタッフたち
「MotoUP」岩槻店でメカニックを務める田邉さんも、河田さんと同じ意見だった。
では今後はどんな車種が値上がりしていくのだろうか。田邉さんが話す。
「メーカーを問わず、2ストロークバイクは全般的に上がっていくと思います。ホンダではCB系はカワサキのZ系に比べるとまだ安いので上がるでしょう。
ホンダは排ガス規制に適応するために4ストローク4気筒エンジンの生産中止を決めました。1992年に登場したCB400スーパーフォアは教習車としてゴロゴロあったのですが、今後、値上がりしていくと思います。
ヤマハRZは現在も部品が供給されていますし、同じ空冷の2ストロークエンジンを搭載したカワサキのマッハに比べるとまだ安い。もっと上がると思っています。
あとはリターンライダーが若い頃に読んだ『湘南爆走族』や『特攻の拓』などの漫画に登場したバイクは価格が下がることはないでしょう」
旧車オーナーの福地さんは「古いバイクは現存する台数が少ないのである程度、高くなるのは仕方ない」と言いながらも、今の異常な高騰に対しては複雑な思いを抱いている。
「旧車は、乗りたい人がちょっと背伸びすると手が届くくらいの価格が理想だと思いますが、今は投機マネーが入り込んで異常な価格をつけ、本来ほしい人がまったく手の届かない状態になっています。
古いバイクは音や振動が心地よく、乗っていても本当に楽しいんです。オートバイは愛でるものであり、乗って楽しむものです。投資の目的にすべきではありません」
バイク愛好家を置き去りにした旧車高騰の波は、しばらく続いていくのかもしれない。
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取材・文/川原田 剛
撮影/五十嵐和博、村上庄吾
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