人口1億2千500万人の国と、わずか550万人の国とを比べるのは無理がある。だがこの本を読めば、日本社会で生きるあなたが漠然と感じている不安や不信の正体がわかるかもしれない。なぜ他人に寛容になれないのか、なぜ自分は大事にされていないと感じるのか。
本書によると、フィンランドは世界で最も幸福度が高く、コロナ禍においても最もポジティブで暮らしの満足度が高い国の一つだという。人口が少ないため「人は資源」という考え方が浸透している。と言っても、人間を単に労働力に換算するのではない。ジェンダーや家族構成などがさまざまに異なる人々が、それぞれに力を発揮し、より良い社会を作る主体となることで、国を豊かにしようという発想だ。
幼児の頃から自分の意見を言う教育をし、学校で政治について教え、10代からコミュニティの意思決定に関与する機会を与える。人生のモデルコースは一つではなく、時間をかけて長く学び続ける。起業しやすく失敗に寛容な社会だ。2019年に34歳で首相となったサンナ・マリン氏は10代から政治に関わっていた。
連立与党の5党全ての党首が女性であることも話題になった。ジェンダー平等先進国でもある。税金は高いが納得して納税している人が多い。しかし桃源郷ではない。失業率は高く、ロシアによる侵攻リスクや兵役もある。極右政党の台頭も懸念されている。
日本の教育レベルは世界屈指だ。勤勉な労働者が多い。ただ、従順で均質な人材を大量に生み出す教育は、もはや限界に達している。教育面では、近年アクティブ・ラーニングが導入され変化を見せているが、夕方には帰宅できるような働き方はまだ実現していない。ジェンダー格差も極めて大きい。それはなにゆえか。
あなたはこの社会を信用して、喜んで納税しているだろうか。人間らしい暮らしを送れているだろうか。社会から期待され、歓迎されていると感じるだろうか。不安なときほど、幸福な他者から学ぶことは多い。