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「ふたりだけの秘密だよ」日本の子どもの4人に1人がなんらかの性被害にあっているという事実をどう受け止めるか。気づけない幼い心理につけ込む悪質の実態

集英社オンライン / 2023年12月18日 17時1分

2022年に内閣府に行われた調査によると、なんと日本の子どもの4人に1人がなんらかの性被害を受けたことがあると答えたという。今年世間を騒がせた子どもたちへの性的なグルーミングは、決して他人事ではないと認識すべきだろう。被害の実態と、悪質なグルーミングの手口を、『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬社新書)より一部抜粋・再構成してお届けする。

子どもの4人に1人が性被害にあっている

まずは、子どもの性被害の実態をデータからみていきましょう。

内閣府が2022年に行った若年層(16〜24歳)の性暴力被害の実態に関するオンラインアンケートでは、回答者数6224人のうち、26.4%に相当する1644人が「被害にあった」と回答しています。つまり4人に1人以上がなんらかの性暴力被害にあっていた、というわけです。



このデータでは、性暴力の種類別でも被害にあった割合が示されています。言葉による性暴力被害を受けたと答えた人は17.8%ともっとも高く、次に身体接触を伴う性暴力被害が12.4%、インターネットやスマホなどの情報ツールを用いた性暴力被害が9.7%と続きます。性交を伴う性暴力被害は4.1%となっています。

また、性交を伴う性暴力被害の特徴としては、社会的立場が上位の者による加害が多いことが挙げられます。加害者として学校の関係者(教職員、先輩、同級生など)、交際相手(元交際相手も含む)やインターネット上で知り合った人を挙げるケースが多くなりました。

被害届を出したのはわずか14%

警察庁が発表する「犯罪統計*1」によれば、2022年に性加害が事件化し、加害者が逮捕・起訴された「強制性交等罪の認知件数」は1655件でした。そのうち被害者が20代以下のケースが8割以上、10代以下に限っても4割以上を占めていることが明らかになっています。さらに子どもが被害者となる強制性交等罪の認知件数は増加傾向で、0〜12歳に関しては、2018年に比べると1.4倍以上にも増えているそうです。

性犯罪は暗数が多い犯罪です。暗数とは、統計に表れている数字と、実際の数字との差のことです。法務省「第5回犯罪被害実態(暗数)調査*2」(2019年)によると、過去5年間の性的事件において警察に被害届を出した人はわずか14.3%でした。つまり8割強の人が性被害を認識していながら、自主的かそうでないかはわかりませんが、被害届を出さずにいるということです。被害届が出されない限り、統計上は被害があったとはカウントされないのです。

前述の「犯罪統計」によると、2022年の0〜12歳の子どもの強制性交等の認知件数は216人、強制わいせつは769人で合わせて985人ですが、これもあくまでも氷山の一角と考えるのが妥当だと思われます。

子どもへの性加害においては、加害者が巧妙にグルーミングを行い、「ふたりだけの秘密だよ」などと被害者に口止めをすることは、これまで述べてきたとおりです。また、子どもは自分が何をされたのかを正確に理解できないことも多く、親など周囲の大人に被害を訴えたり、しかるべき機関につながるまでに時間がかかるケースがとても多いからです。

被害者への深刻な心理的影響

この調査では、性加害を受けたのち、被害者は「異性と会うのが怖くなった」「誰のことも信じられなくなった」「夜眠れなくなった」「自分に自信がなくなった」などさまざまな心理的変化を経験していることも示されています。4人に1人は「生きているのが嫌になった・死にたくなった」と回答していることも見逃せません。

医学的には、性暴力を受けた被害者への心理的影響としてPTSD(心的外傷後ストレス障害)や解離性障害、うつ病などの精神疾患、不安症状、神経症やパニック障害などの神経症全般、強迫性障害、自傷行為などがあります。また、とくに女性では摂食障害(拒食・過食)も見られます。

なかでもPTSDや解離性障害は、性被害後によく見られる症状です*3。

PTSDは、強烈なショック体験や精神的ストレスにより引き起こされる障害です。性被害だけでなく、戦争や震災、台風や火事、事故で重傷を負う、非業の死を目撃する……などといった、日常とはかけ離れた命の危険を感じるような状況に遭遇した後に起こります。代表的な症状に不眠や集中困難、恐怖を感じたときの記憶や感覚が突然よみがえる「フラッシュバック」などがあります。

また、安全な場所にいても常に緊張して神経が過剰に研ぎ澄まされてしまい、平常時なら気にならないようなことが気になって、イライラして落ち着きがない「過覚醒」に陥るのも代表的な症状です。子どもの頃に性被害を受けた場合、PTSDは10〜20年という年月を経て発症するケースも珍しくありません。

解離性障害の「解離」とは、「解いて離れる」と書くように、自分の感覚や感情・知覚・アイデンティティが切り離されるという現象です。つらい体験から自分を守るため、性被害者は一時的に記憶をなくしたり、外から自分の体を見ているような感覚になったりすることがあるのです。

現実にはありえないような不思議なものが見える、声が聞こえる、周りの景色がすべてモノクロにしか認識できない、香りを感じられなくなる……などのさまざまな症状が出る人もいます。いわゆる多重人格(解離性同一性障害)とも呼ばれるように、複数の人格を持つこともあります。

さらに過去の性被害によるトラウマが原因で、不特定多数との性的逸脱行為など、さまざまな問題行動を引き起こすことも珍しくありません。とくにこれは女性に多いのですが、性被害にあったのちに「自分には価値がない」「こんな私は汚らしい」と自暴自棄になり、自傷行為的に不特定多数と肉体関係を持ってしまうパターンです。

男性でも、子どもの頃の性的虐待によって性依存症に陥ることもあります。私が監修として携わっている漫画『セックス依存症になりました。』(集英社)の作者である津島隆太さんは、幼少期に父親から性的虐待を受けたことから性に対する認知が歪み、成人になってからも、強迫的にセックスにのめりこむセックス依存症になった自身の経験を作品の題材にしています。

子どもは被害を認識できない

ここまで、心理学的な観点からグルーミングを含めた性暴力が被害者に及ぼす影響を述べてきました。しかし、成人への痴漢やレイプなどの性暴力と違い、子どもへの性暴力においてもっとも特徴的なのが、「被害者である子どもは被害をすぐに認識できない」という点です。

グルーミングの被害者である子どもが語る言葉でよく耳にするのが、「何が起こっているのか、わからなかった」というものです。性交に関する知識や、男女の体の仕組みの違いについてもまだ知識のない子どもにとっては、自分の体を性的に消費される、加害者の性器を見せられる、裸の写真を撮影される……などの出来事に直面しても、何が起こっているのか状況を即座に把握できません。これは男女ともにいえることです。

ジャニーズ事務所の性加害問題が取り沙汰されていますが、そのうち中学校1年生のときに被害にあった男性は、それまで性体験がなかったため当時はとても困惑し、自分の身に何が起こっているか理解できなかったことや、体が硬直してどう反応をしたらよいのかわからず、とりあえず寝たふりをしたという趣旨の発言をしています*4。

さらに子どもの場合、知らないうちに被害にあっていることもあります。

2017年2月、自然体験ツアーなどを主催するキャンプ教室の添乗員が、子どもが寝ている間を狙ったり、薬を塗るふりをしたりしてわいせつな行為をし、その一部始終を動画撮影したことで、男児ポルノ撮影グループが摘発される事件がありました。

このグループメンバーの所持品からは、児童ポルノ画像や動画が10万点以上も押収され、被害児童は4〜13歳の168人にものぼったという報道もあります。これによれば、そのほとんどが被害に気づかず、たとえ性被害にあった自覚があっても「恥ずかしくて親に言えなかった」と話す男児もいたそうです。

被害者が自分の身に起きたことを「性被害だ」と認識しづらいことは、アンケート調査からも明らかになっています。性被害者支援に取り組む一般社団法人Springが2020年に公表した「性被害の実態調査アンケート*5」では、被害後すぐに「被害」だと認識できなかった人は6割に及び、被害の認識までにかかる年数は平均7.48年だったそうです。

約7年半というのは、小学校1年生の児童が中学校2年生になるほどの長い年月です。幼い頃の経験を「あれは性暴力だったんだ」と思春期になってようやく認識する、というわけです。

この調査を分析した上智大学准教授の齋藤梓さんは、「顔見知りの人からの被害だと、『見知らぬ人から突然襲われる』というイメージと合致せず時間がかかることもある」と朝日新聞の取材記事*6でコメントしています。それまでゲームを一緒にしていたやさしいお兄さんから突然性的な被害を受けた子どもは激しく混乱し、被害を被害と認識するまでにとてつもない年月がかかる……これもグルーミングのおぞましさといえるでしょう。

写真/shutterstock


参考文献

*1 警察庁「犯罪統計資料(令和4年1〜12月分【確定値】)」
https://www.npa.go.jp/toukei/keiji35/new_hanzai04.htm

*2 法務省「第5回犯罪被害実態(暗数)調査」第2編犯罪被害状況
https://www.moj.go.jp/content/001316209.pdf

*3「現実感がない、記憶が飛んでしまう…『解離』の症状とのつきあい方は?」NHK「みんなでプラス」、2023年2月17日
https://www.nhk.or.jp/minplus/0026/topic097.html

*4「【性加害問題】〝実態を知ってほしい〞ジャニーズ事務所元所属タレントたちの声」NHK「クローズアップ現代」、2023年5月17日
https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/R7Y6NGLJ6G/blog/bl/pkEldmVQ6R/bp/pVyKAXLR0P/

*5「性被害の実態調査アンケート結果報告書①〜量的分析結果〜」一般社団法人Spring、2020年12月24日
http://spring-voice.org/wp-content/uploads/2020/12/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%83%88%E5%88%86%E6%9E%90%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8%EF%BC%91.pdf

*6「性暴力、被害と認識するまで平均7年半調査で明らかに」朝日新聞デジタル、2020年11月20日
https://www.asahi.com/articles/ASNCN6WCQNCNUTIL045.html

『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎)

斉藤章佳

2023/11/29

1078円

221ページ

ISBN:

978-4344987135

「熱心な先生」「やさしいお兄さん」の“裏の顔”をどう見抜いたらいいのか?

学校、塾、公園、トイレ、SNS……
危険な環境から子どもを守る!

子どもへの性加害は、心身に深い傷を残す卑劣な行為だ。なかでも問題なのが、顔見知りやSNS上にいる“普通の大人”が子どもと信頼関係を築き、優位な立場を利用して性的な接触をする性的グルーミング(性的懐柔)である。「かわいいね」「君は特別だ」などと言葉巧みに近づく性的グルーミングでは、子ども本人が性暴力だと思わず、周囲も気づきにくいため、被害はより深刻になる。加害者は何を考え、どんな手口で迫るのか。子どもの異変やSOSをいかに察知するか。性犯罪者治療の専門家が、子どもを守るために大人や社会がすべきことを提言。

「かわいいね」から始まる性的グルーミングの実態……

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