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あなたの子どもが性被害者になってしまったら「なんでやめてと言わなかったの?」は絶対NG。指導熱心な先生に面倒見のいいシッターさん…加害者には社会的評価の高い人も

集英社オンライン / 2023年12月19日 17時1分

子どもから性被害にあったことを打ち明けられたとき、動揺しない大人はいないはずだ。性加害者は、社会的な評価が高いことも多く、にわかには子どもの話を信じられないこともあるだろう。しかしそのとき、子どもを責めてしまったらセカンドレイプにも繋がりかねない。親として必要な心得を『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)より一部抜粋・再構成して紹介する。

#1

セカンドレイプを防ぐのも大人の責任

性暴力にあった被害者のこころを深く傷つけるのが、二次加害(セカンドレイプ)です。セカンドレイプは、性犯罪発生の原因を被害者に求める、いわゆる自己責任論的な考えです。なんらかの性被害にあった人に「そんなところにいたあなたが悪い」「そんな露出の多い服装をしているからだ」など、被害者の落ち度をあげつらい、被害者は被害そのものだけでなく、周囲の無理解によって深く傷つき追い込まれ、孤立することもあります。



#MeTooやジャニーズ事務所の性暴力問題で、インターネットを中心に「売名行為だ」「告発されて人生を台無しにされた加害者のことも考えろ」などといった心ない言葉が告発者に投げかけられている現状は、由々しき事態です。

子どもの性被害においては、さすがに「売名行為だろ」と言う人はいないと思います。しかし、まだまだその実態が理解されていないことから、大人の発した不用意な言葉が子どもを深く傷つけ、結果的にセカンドレイプになることも少なくありません。

繰り返しますが、性被害を受けた子どもは自分で被害を認識することが極めて困難なうえ、被害にあったこと自体を「恥ずかしい」と感じていること、さらに加害者に口止めされている場合は「人に知られてはいけないのではないか」と罪悪感を抱えていることから、自分から被害を打ち明けられないものです。

また、もしこの秘密をカミングアウトしたら、自分がいまいる世界がすべて崩壊するのではないかといった恐れを抱くこともあります。そんな彼らが大人たちに相談するということは、ハードルが高く、並大抵のことではないという点をまずは心得ておきたいものです。

そのうえで肝心なのは、性被害を打ち明けられた大人は、子どもの言葉を絶対に否定しないことです。「何かの誤解なんじゃないの?」「あんなにいい先生がそんなことするわけないじゃない」と親から言われてしまうと、子どもは被害についてそれ以上話そうとは思えなくなります。

また「なんで『やめて!』とちゃんと言わなかったの?」「大きな声を出さなかったあんたが悪い」など、被害にあった子どもを責めるような発言は絶対に避けましょう。

たしかに性被害を打ち明けられた大人の立場からすると、被害者支援の専門家でもない限り、やはり動揺してしまうものです。また第1章の事例でも挙げたように、加害者は周囲の評判がよく、大人たちもすっかり加害者を信用しきっているなかでグルーミングをするのが特徴です。

写真はイメージです

指導熱心な先生、人当たりのいい近所のお兄さん、面倒見のよいシッターさん……信頼していた人が実は小児性犯罪者なのかもしれない――大人にとっても、まさに青天の霹靂です。たとえ親といえども、子どもの告白に混乱と驚きを覚えるのは無理のない話です。

しかし、どうかその言葉はぐっとこらえてください。そしてまずは子どもの話を否定せず、「よく話してくれたね」「話してくれてありがとう」「本当に大変だったんだね」と全面的に受け止めてあげてください。

そのうえで、「あなたは絶対に悪くない」と被害を打ち明けられた大人が子どもにしっかりと伝えること、そして「あなたの受けた加害行為は絶対に許されない犯罪行為である」と伝えることが大切です。

さらに被害の詳細については、深追いしないことです。親は心配のあまり、「こんなことされなかった?」「あんなことはなかった?」など、事細かに聴き取りをしたくなると思いますが、子どもは記憶の変容が起きやすく、誘導尋問のように何度も繰り返し聞くと、そのような事実はなかったにもかかわらず、あたかも自分が本当に経験したように記憶してしまうことがあるともいわれています。これをフォールスメモリー(偽りの記憶)と呼びます。

あなたが受けたのは性暴力で、あなたは一切悪くない。悪いのは加害者だ――そうやって被害を認めてもらうことで、子どもは初めて「被害者」になるのです。そして、こうやって「加害者」の輪郭も明らかになっていきます。すべての加害や被害からの立ち直りの道筋は、ここから始まります。

子どもからのSOSを見逃さない

ここまで読み進めてきた方のなかには、「うちの子は被害にあわないだろうか」と心配になる方もいるでしょう。前述のとおり、子どもは被害を被害と認識するまでに時間がかかります。

またグルーミングをされた場合、加害者から巧みに口止めをされたり、加害者に「嫌われたくない」と子どもが思っていたり、「自分が悪いのではないか」と罪悪感や自責感を抱いていることから、被害を言い出せずにいます。そのため、被害の実態を保護者や周囲の大人がすぐに気づくのは難しい場合も多いです。

ここでは、子どものどのような変化に親や周囲の大人たちは気を配っておけばよいか、子どもの生活面における兆候やサインについて述べていきます。

まだ子どもが被害に対して無自覚な段階では、スマホを閲覧する時間が長くなる、寝るまでパソコン操作をしている、オンラインゲームに耽溺している、家族と一緒にごはんを食べなくなる……など、日常のささいな違和感にまずは注意したいところです。

しかし、いくら心配だからといって、親が子どものスマホやパソコンの履歴をチェックするのは、子どもとの信頼関係を壊すおそれもあり、注意が必要です。思春期が近づくにつれて、子どもが性的な興味関心を抱くこと自体は性別問わず当たり前のことです。自分が子どもの頃を振り返っても、親から日記やノートを勝手に見られたら、反省よりも反発心や反抗心が先に立つのは、想像に難くないでしょう。

子どもの学年が上がれば上がるほど、親が「最近何かあったの?」「変わったことない?」と聞いても、子どもからは「別に」「さぁ」とはぐらかす答えしか返ってこないことも多々あると思います。しかし、子どもの異変やSOSをいち早く察知するためにも、日常での親子間のコミュニケーションを確保しておくことが前提です。

具体的には、普段から「オンライン上には子どもを巧妙に誘う悪意のある大人がいる」ということを子どもに話しておくのも良策です。SNSなら「見知らぬ人からのメッセージには返信しない」、オンラインゲームなら「知らない人からの有料アイテムやギフトは受け取らない」、さらに「いくら仲良くなってもひとりで直接会わない」など親子間でルールを決めておくことで、より具体的な防犯にもつながります。

また、「男の子が被害にあうことも少なくない」「ネットでは皆がターゲットになりうる」という点も親御さんの口から伝えられるとよいでしょう。

さらにグルーミングだけでなく、違法薬物や自殺、最近では詐欺や強盗の「闇バイト」などの違法行為を含めた有害な情報から子どもを守るためにも、スマホのフィルタリング機能は必須です。またご家庭によっては、閲覧時間の制限をかける、親の前以外ではスマホには触らないなど、物理的な制限をかけるのも有効です。

子どもを被害者にも加害者にもしない
「包括的性教育」

子どもを性暴力の被害者にも加害者にもしないためには、家庭での性教育も視野に入れたいところです。性教育と聞くと、「赤ちゃんはどこからくるの?」といった妊娠・出産や性交など生殖メカニズムについて教えるものだと思われがちですが、ここでいうのは、人間関係や性の多様性、ジェンダー平等、そして性暴力の防止、性的同意、情報リテラシーなどを含めた「包括的性教育」です。人権を基盤に幅広く性を学んでいくものです。

日本でも2023年から、性暴力根絶を目指して文部科学省が推進する「生命(いのち)の安全教育」が全国の学校で本格的に実施されています。

たとえば、小学校低学年向けの教材では「水着でかくれる部分は、自分だけの大切なところで、ほかの人に見せたり、さわらせたりしないようにしよう」「同じように、ほかの人の水着でかくれる部分も大切で、見たり、さわったりしないようにしよう」など、プライベートゾーンの概念が取り上げられています。

中学生になれば、自分と相手を守る「距離感」や、デートDV、さらにSNSを通じた性暴力についても触れられています。さらに高校生向けの教材では、性的同意やセクシュアルハラスメントの例や二次被害について言及されているほか、「避妊についても、相手の意思を確認・尊重しないことは性暴力にあたります」など明記されているのも画期的です。

もちろん、この「生命(いのち)の安全教育」には、性交についての記述がないことや、時間数や教える内容も現場に委ねられていることから有識者からの一定の指摘があります。しかし、これらの知識を子どもたちが幼少期から段階的に学んでいけば、将来的には性暴力を減らせることが期待できます。教材や動画は、文科省のウェブサイトで公開されているので、ぜひご家庭でも活用してみることをおすすめします。

「生命(いのち)の安全教育」は、正しい性教育を受ける機会がないまま大人になってしまった、私を含めた中高年にとってもいい「学び直し」の機会にもなるはずです。

「キスをしたから性交もしてよいわけではありません」「アルコール等により相手の意識がない状況では、同意を確認したことになりません」などの記述には、「嫌よ嫌よも好きのうち」の価値観を刷り込まれ、AVを性行為の教科書代わりにしてきた世代にとっては、ハッとするものだと思います。第4章の川本弁護士との対談でも、親と子の関わり方や具体的な対処法について詳しく取り上げていきます。

写真/shutterstock


参考文献

*7「性犯罪の時効5年延長は『短すぎる』審議中の刑法改正案、子どもの被害『実態に即して』」東京新聞TOKYOWeb、2023年5月28日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/252861

*8 内閣府「若年層の性暴力被害の実態に関するオンラインアンケート及びヒアリング結果報告書」
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/r04_houkoku/01.pdf

*9 内閣府「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターを対象とした支援状況等調査報告書」
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/r02_houkoku.pdf

『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎)

斉藤章佳

2023/11/29

1078円

221ページ

ISBN:

978-4344987135

「熱心な先生」「やさしいお兄さん」の“裏の顔”をどう見抜いたらいいのか?

学校、塾、公園、トイレ、SNS……
危険な環境から子どもを守る!

子どもへの性加害は、心身に深い傷を残す卑劣な行為だ。なかでも問題なのが、顔見知りやSNS上にいる“普通の大人”が子どもと信頼関係を築き、優位な立場を利用して性的な接触をする性的グルーミング(性的懐柔)である。「かわいいね」「君は特別だ」などと言葉巧みに近づく性的グルーミングでは、子ども本人が性暴力だと思わず、周囲も気づきにくいため、被害はより深刻になる。加害者は何を考え、どんな手口で迫るのか。子どもの異変やSOSをいかに察知するか。性犯罪者治療の専門家が、子どもを守るために大人や社会がすべきことを提言。

「かわいいね」から始まる性的グルーミングの実態……

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