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「男か? 男と連絡を取り合っているのか?」祖母が母親を罵倒…学歴至上主義の毒母の独りよがりな愛情は祖母からの連鎖だったのか

集英社オンライン / 2023年12月19日 16時1分

毒親から受けた「毒」は、強い意志を持って己の過去や毒親自身と向き合わない限り、自分の子どもにも連鎖してしまう傾向があるという。今回は「学歴至上主義」の親を持つ女性の例を紹介しよう。『毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち』 (光文社新書)より、一部抜粋、再構成してお届けする。

〝愛情〞に培われた学歴至上主義という毒

中学校受験や小学校受験をさせる家庭はいまや珍しくない。子どもの将来を考え、少しでもよい教育を、よい学歴をと願う親の気持ちは誰も否定できないだろう。しかし、それが親のエゴとなってしまっているとしたらどうだろう。

「勉強こそが世の中を見返せる術」という強烈な学歴至上主義の母親を持つ30代の女性の青山さんの事例を紹介する。



小学生の頃から家庭教師や塾に月100万円ほどつぎ込まれていた彼女は、自分が母親になったとき、勉強をしない3歳の娘に怒りが湧く自分にはっとした。

毒親は自分が正しいと思った道を突き進んでしまう…

毒親の多くは自分が間違っているとは思わないため、心から謝れない人が多い。

子どもに謝ることができるということは、子どもを自分の所有物扱いをしていないという意味でとても重要なことだ。青山さんの母親も、「子どもに心から謝れない」親の一人だった。

青山さんの中学の同級生で医師になった友人は、青山さんの母親のこともよく知っている。
その友人は、「お母さんは境界性パーソナリティ障害ではないか」と言い、青山さん自身も、「母は境界知能かつ発達障害ではないか」と考えているという。

「でも、毒親=発達障害というわけではなくて、メタ認知というんでしょうか。普通の人は自分をこう、俯瞰して、客観的に見るじゃないですか。子育ての場合も、初めてのことで不安だったら、他のご家庭はどうしているんだろうとか考えて、ママ友を作ったりとか、本を読んだり調べたりとかしますよね?

けど、母もそうですが、毒親にはそれがなくて、自分が正しいと思った道で、自分が持ってる古い情報のまま突き進んでしまう。

だから、男女交際の場合も、母は自分の母親に教えられたままアップデートされていなくて、『何かあったらお嫁に行けない』みたいなそういう田舎の古い考えのままでお見合いをさせたりする。それって多分、母に仲の良い友だちがいて、情報がアップデートされていたら、また違ったと思うんです」

母親は青山さんが知る限り、青山さんが物心ついたときから今日まで、1人も友だちがいない。

「私が成人してから母に、『私は田舎で生まれて、封建的な価値観で育ったから、男女交際についてわかってあげられなかった。ごめん』みたいな感じで謝られたことがあるんですが、基本的には多分、母は自分が悪いと思っていなくて、間接的に祖母のせいにしてるんですよね」

青山さんの祖母と母親が大喧嘩…

青山さんは娘を出産した2年後、夫と母親と一緒に、関西の田舎で暮らす母方の祖母に会いに行った。

祖父は10年ほど前、がんにより80代で亡くなっているが、祖母は相変わらずテレビもなく、隙間風が吹くようなボロボロの広い屋敷で、たった1人で暮らしていた。

祖母は母親のように家事能力が低くはなく、家の中はきれいに掃除され、整理整頓されている。しかし度を越したケチのため、十数年ぶりに訪れた青山さんは、まだ祖母が古いペラペラの布団を使っていることに驚愕し、布団を新調するよう提案。だが、祖母は頑なに首を縦に振らない。

青山さんは、「それなら仕方ないね。近くに宿もないし、娘はまだ小さいし、こんな隙間風が吹いて寒い家にはもう連れてこられない」と言ったが、祖母はそれで構わない様子だった。

しばらくして、説得を諦めた青山さんと夫が、祖母からあてがわれた部屋に入り、30年以上使っているであろう薄くペラペラの布団を敷いていると、祖母の怒鳴り声が聞こえてきた。

何事だろうと思った青山さんと夫が見に行くと、祖母と母親が大喧嘩を繰り広げている。

母親がスマホをいじっていたところ、それを不快に感じた祖母が、「男か? 男と連絡を取り合っているのか?」と騒ぎ始め、母親が必死に弁解しているのだ。

友だちのいない母親は、学生時代も英語教師として働き始めた後も、どこにも寄らずまっすぐ家に帰ってきていた。

しかし、たまたま忘年会で帰りが遅くなったことがあったらしく、祖母は30年以上前の話を掘り返し、それだけでは飽き足らず、10年以上前に亡くなっている青山さんの父親の話まで持ち出して、「あんたは未亡人なんだから、喪に服さんとあかん!」「死んだ夫に申し訳ないと思え!」などと言って母親を罵倒していた。

毒母の連鎖は祖母から続いていた

「私は子どもの頃から祖母のことが嫌いだったんですけど、それを見て、ちょっともう、『祖母は無理だな、絶縁しよう』って思いました。うちの母はもう60代ですし、太っているし、全然男性受けするような容姿ではないんですよ。なのに祖母に責め立てられた母親が泣き出して、ものすごいカオスな状況で……。

夫と2人で『吉本新喜劇か!』って笑ってしまいました。『ああ、この人のせいなんだろうな』と悟りましたよね。なので、母が毒親だったのは、障害ではないかと思っている部分と、あの祖母のせいだなと思っている部分がありますね」

まさに毒親の連鎖だ。だとしたら祖母の親、青山さんにとっての曾祖父母はどんな人だったのだろう。

「やっぱり地主で、すごいお金持ちだったと聞いています。祖母は何人かのきょうだいの一番下だったらしいんですけど、お姉さんのうちの1人が結核だったそうで、親が、『病気で亡くなる人生ではかわいそうなので、せめて結婚させてやろう』と言って結婚相手を探し、相手には持参金で工場を建ててあげたといいます。その後お姉さんが結核で亡くなると、工場が結婚相手のものになってしまって揉めたとか……」

あげるつもりで建てたのではなかったのか。

「あと、一番上のお姉さんは上場企業の創業者一族のお金持ちの人と結婚して、その後愛人ができたらしく、遺産相続で揉めたとか……。とにかくお金で揉めることが多い家だったみたいですが、末っ子の祖母はあまり可愛がられなかったようです。

結婚相手として選ばれた祖父は小作人の出で、祖母は祖父を見下していました。でも、祖父は頭がいい人だったようですし、祖母は自分の両親が、『子どもたちに教育をろくに受けさせなかったから、落ちぶれていったんだ』と思っていて、母や伯父(母の兄)の教育にはめちゃくちゃお金をかけたようです。

だから当時としては莫大なお金がかかるし、『女に学はいらん』みたいな時代ですけど、母にアメリカ留学までさせることができたのですよね」

青山さんの母親は、幼い頃からこうした話を自分の母親(青山さんの祖母)から何度も聞かされて育ったのだという。青山さんの母親の、「他人に対する疑り深さや学歴至上主義は、こうして培われたのか」と合点がいった。

複雑な母娘関係

取材中、青山さんは何度も、「母のことは嫌いです」ときっぱり言った。しかし現在も交流はあり、時々一緒に旅行に行ったり、外食に行ったりしている。

旅行に行けば、待ち合わせ場所に2時間以上遅れてきたり、「今どこにいるの?」と電話をすれば、全然とんちんかんな場所にいたりしてイライラさせられることも多い。外食をしても会話が噛み合わず、怒りを覚えることも少なくない。

そのため青山さんは、母親と一緒にいる間はスマホをいじっていて、全く会話をしないことも珍しくないという。それでも不思議なことに、青山さんの言葉の端々からは、母親に対する〝愛情〟が感じられた。

「相変わらず学歴至上主義者なので、孫の教育にもすごい関心があって、娘の私立小の学費とかお教室代金とか、年間300万ぐらいかかるんですが、『もっといい教室行きなさい』って言って出してくれるんですよ。

食事に行っても、旅行に行っても、全部払ってくれるし、父方の祖母が施設に入っているんですが、その施設の費用も母が出しています。お金を出すだけじゃなくて、時々会いに行ってあげる優しさもあって……。母を憎みきれないのは、そうした優しさを感じることや、〝愛情〟をかけて育ててくれたことが分かるからですね」

学歴至上主義の母親は、青山さんが宝物だったが故に、教育面や異性との交際面で激しい過干渉になった。青山さんが思春期を迎えると、衝突することが増え、時にひどいことも言われたが、それでも青山さんには、母親の〝愛情〟は伝わっていたのだ。

青山さんが娘を妊娠したとき、こんなことがあった。

自身に甲状腺関係の疾患があることが判明し、不安になった青山さんは、検査結果が出る前にネットで『甲状腺 妊娠』などと調べては、正確なソースも確認せずに、「障害児が生まれる可能性がある!」と動揺し、泣いて過ごしていた。

すると母親から、「どんな障害があっても私は愛する。大丈夫だから安心して産みなさい」と言われ、とても心強かったという。

「夫も、『本当に優しくていい人だけど、不器用なんだよね。不器用だから、やり方が全然間違っているんだよね』ってよく言っています。夫からすると、私もそうらしいんですよね、娘に対して。『すごく愛情はあるけど、不器用だよね』って言われます」

青山さん母娘の、複雑な信頼関係が伝わるだろうか。

母親の独りよがりの〝愛情〟は「子どもは親の所有物」と思い込んでいるから

私(著者)の母は青山さんの母親ほどではなかったが、過干渉だった。成長してから気付いたが、小学校1〜2年の頃の私は母から教育虐待を受けていた。

それでも私は青山さん同様、母と距離を置こうとは思わず、現在も交流を続けている。

なぜかと問われれば、青山さん同様、母からの〝愛情〟が伝わっていたため、信頼関係が構築できていたからではないかと分析している。

多くの場合、親から受ける愛情が子どもが求めているものとは違ったり、多すぎたり少なすぎたりした場合に、子どもや周囲に過干渉や虐待と評価される。

青山さんや私の場合、母親の〝愛情〟は豊かだった。だが、その中の何割かは子どもが求めていた愛情だったが、大半は母親の独りよがりだった。

母親が独りよがりの〝愛情〟を子どもに注いだのは、「子どもは親の所有物」と思い込んでいたからだろう。私の母の場合は小学校低学年まで。青山さんの母親の場合は、大学受験時までは強固に思い込んでいたが、以降は徐々に緩んでいったように感じる。

「たぶん母は、私が大学受験に失敗しても、『女子大や三流の共学に行くくらいなら、お金は出すからアメリカの大学に行きなさい』と助言したと思います。

結婚相手にしても、反社会的な人だったり、あまりにも非常識な人だったら母は拒絶したと思いますが、子どもの頃から母に洗脳され、母の価値観を植え込まれていたせいもあるかと思いますが、私自身がそんな人は選びませんでした」

青山さんには、少なくとも大学受験時にはすでに、「母は私を絶対に見捨てない」という確固たる自信があった。

母親の過干渉は青山さんが結婚相手を連れてくるまでは続いたが、青山さんが自分のお眼鏡に叶うような結婚相手を連れてきた時点で、母親の激しい過干渉は鳴りを潜めた。

このことは、母親が「子どもは親の所有物」という思い込みから脱したこと。そして、青山さんが母親からの揺るぎない信頼を得たことを意味する。

ちょうど、母親の過干渉が緩んでいくのに反比例する形で、青山さんと母親の信頼関係が強固になっていったのだ。

それは、子どもの頃から長年の間、幾度となく母親が課してきた期待に、娘である青山さんがある程度応え続けてきたことによって勝ち獲った信頼とも言えるかもしれない。

おそらく他人に対して疑り深い青山さんの母親にとっては、青山さんの父親に続き、人生で二番めに信頼できる人間が娘である青山さんとなったのだろう。

意識して他の人の意見に耳を傾け、アップデートしていかないといけない

現在は、母親が娘の教育に口を出しすぎると、青山さんが「もう娘に会わせないよ!」と注意する。すると孫に会えないのは辛いらしく、母親は口出ししたいのを懸命に我慢しているようだ。

「今でも母は、小学校受験の模試の結果とか、ものすごく気にしています。でも昔と違って、今はプロセス重視の子育てに変わってきているということもわかっていません。情報をアップデートさせるために、母に『読んでみて』って育児本を渡したんですが、読まないんですよ……。

結局母も祖母も、人の話を聞かないんですよね。他の人の意見を聞くことってすごく大事なことで、私も毒親の素質があるから、意識して他の人の意見に耳を傾け、アップデートしていかないといけないなと思っています」

子どもに対する愛情を全く感じられない毒親が多い中、青山さんの母親は、〝愛情〟があるがゆえに教育虐待や過干渉に陥ってしまったケースだといえる。

幸いなことは、それでも娘である青山さんが、母親の〝愛情〟をちゃんと感じ取っていたことだ。

「母は、孫が可愛い。私は、お金を出してもらえる。だからお互いに付き合うメリットがある。でも、それだけじゃなくて、私も、母に対して情があるんだと思います。だから娘も私に情を感じてくれたら良いなと思って子育てしています」

子どもを持ってから親の気持ちがわかるようになったという人は少なくない。

青山さんが母親との関係を冷静に分析できるようになったのも、子どもと親ではなく、親と親という立場で母親を見られるようになったためではないだろうか。

母親を反面教師に、娘とは適切な愛情を注ぎ合う、健全な関係を築いてほしい。

文/旦木瑞穂 写真/shutterstock

『毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち』 (光文社新書)

旦木 瑞穂 (著)

2023/12/13

¥1,100

344ページ

ISBN:

978-4334101695

理不尽な仕打ち、教育虐待、ネグレクト……。子どもを自らの所有物のように扱い、生きづらさなどの負の影響を与える「毒親」。その中でも目に見える形ではなく、精神的で不可視なケースが多い「毒母と娘」の関係にフォーカスし、その毒への向き合い方とヒントを探る。毒母に育てられ、自らもまた毒母になってしまった事例など、現代社会が強いる「家庭という密室」の闇に、8人の取材から迫る。

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