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「マンスプは射精だ!」屋根のない家に住む漫画家の叫び…「おもしろいおじさんになれば若い子から話を聞かれると思ってたのに、いざ自分がおじさんになったら…」

集英社オンライン / 2023年12月18日 19時1分

なぜおじさんはマンスプをやめられないのか? 新宿ゴールデン街で、週一で店に立つ作家・山下素童があるバーで出会ったのは、「マンスプが気持ちよすぎてやめられない」と語る漫画家の座二郎。そんな彼に取材を申し込むと……。

「射精よりもマンスプのほうが気持ちいい」

「マンスプしたいな~っ! あ~、マンスプしたいなぁ~っ!」

深夜3時。新宿5丁目のとあるバーで飲んでいると、隣に座っていた50歳ほどの男性が急に嘆きはじめた。

マンスプとは、「男(man)」と「説明する(explain)」を掛け合わせた造語である「マンスプレイニング(mansplaining)」の略称だ。男性が若者になにかを偉そうに説明したりアドバイスしたりすることを批判する意味合いが込められていて、2008年頃からアメリカのフェミニスト・ブロガーを中心に広まってきた言葉だ。



酒場に行くと急に無自覚にマンスプしてくる男性に絡まれることはよくあるのだが、自ら「マンスプしたいなぁ~っ!」と嘆く人に出会ったのは初めてのことだった。

マンスプする男性のイメージ(shutterstockより)

「もうね、最近はセックスしたいという気も薄れてきた。年取ったせいか、射精よりもマンスプのほうが気持ちいいと思うようになったからね。Yahoo!ニュースとか読んでても、モノをわかってない人に何か教えてあげたくてコメント書きたくなっちゃうもん。あ~、マンスプしたいなぁ~っ!」

バーテンの女性に向かって「マンスプしたい」と嘆き続ける男性が何者か気になり、話を聞いてみることに。

その男性の名は「座二郎」。職業は漫画家で、かつては建築士として建築会社に勤めながら通勤電車内で漫画を描く"通勤漫画家"として話題になり、その漫画が文化庁の主催する芸術祭の推薦作品にも選ばれたことがあるそうだ。

「いま僕が住んでる家は自分で設計して造ったんだけど、屋根がない家でね。新聞やテレビで何度も取り上げられたことがあるんだよ」

屋根のない家なんてあり得るだろうか。後日、杉並区にある"屋根のない家"を訪問することに。

“マンスプ射精おじさん”の正体とは

──すごい! 本当に家に屋根がないんですね。家の中の空気がすごくきれいですが、冬なのでちょっと寒いです。

座二郎 そうだね。夏は暑いし、冬は寒いよ。今の時期だと青梅街道から枯葉が飛んできて、上から家に入ってくるよ。

──なるほど。本題に入りますが、座二郎さんはマンスプしたくて仕方ない状態になるまでどんな人生を歩んで来られたのでしょうか?

座二郎 早稲田大学建築学科の修士課程を卒業して、25歳から大手ゼネコンで建築の設計の仕事をしてたんだけど、2年前、47歳のときにその会社をやめたんだよね。

建築の設計って複数人でやるんだけど、世に名前が出るのは中心となる一人の建築家の名前だけでね。設計に携わっていても自分の名前は世に出ないし、年齢的にもこのままだと社内における出世もないなってことがだんだんと見えてきて。自分の人生の可能性がひらける感触がなくなっちゃったから、会社をやめたんだよね。

マンスプがしたくて仕方がない座二郎さん。屋根のない自宅のリビングにて

──なるほど。その建築会社で働くかたわら、通勤電車内で漫画を描いていて“通勤漫画家"と呼ばれていたんですね。

座二郎 うん。もともと若いころはモテたくてバンドをやってたんだけど、全然売れなくて。その時はまだ僕が片想い中だった今の妻から「声がいいからラジオやりなよ」って言われて、インターネットでラジオを始めて。その時のラジオネームが「座二郎」。

ラジオの企画で会社帰りの電車の中で漫画を書くというのをやったら、思いのほか上手く描けちゃって。手ごたえがあったから賞に応募してみたら、31歳のときに「週刊モーニング」の新人賞を取って漫画家になった。その後は自分の子どものためだけに描いた絵本が、賞をもらったりして。

──すごいですね。賞を取ったタイミングでサラリーマンをやめることは考えなかったんですか?

座二郎 建築の仕事で社宅に入っていたから、仕事をやめるなら同時に新居探しもしなくちゃいけない状態になってしまってなかなかやめられなくて。その間に子どもが3人できて余裕もなくなって。4年前、45歳のときにこの屋根のない家を造ってやっと社宅から解放されて、それも独立できた要因の1つだね。

──なるほど。この家は屋根がないこと以外にも、特徴のある家ですよね。

座二郎 普通、建築家ってなるべく外から物が見えなくなるスッキリとした収納をよしとするんだけど。僕は基本的に収納は外から見えるようにしたほうがいいと思っていて。自分の持ち物はどんどん他人に見せたほうがおもしろいからね。

ガラス張りの収納の中に棚があり、コレクションや生活用品が見えるようになっている

座二郎 棚の一番下にある本は完全に他人に見せたいものでさ。ブノワ・ペータースとフランソワ・スクイテンの『闇の国々』って漫画があるんだけど。これ、僕の漫画も推薦してもらった文化庁メディア芸術祭に彼らも招待されていたから、そのときに僕がサインをもらったやつで。『闇の国々』みたいなヨーロッパの漫画って、日本の漫画とは違って空間的なものが多くて実に建築的でさ…(※筆者注記 : 聞いてもないことを説明しはじめるマンスプがしばらく続いたので割愛します)。

──話を戻しますが、今は独立して「座二郎」というペンネーム1本で仕事をしてるんですよね。どんな仕事をしてるんですか?

座二郎 今はイラストを描いたり、漫画を描いたり、文章を書いたり。頼まれれば個人で家の設計をすることもある。あと早稲田大学の建築学科で非常勤講師もやってる。

もしかして普通にいい人生なのでは?

──座二郎さんって、自分で造った素敵な家に住んで、パートナーもお子さんもいて、大学で学生に教える仕事もして、漫画やイラストのようなクリエイティブな仕事もして、なんだかすごくいい人生を送ってるように見えますね。本当に人生に不満とかあるんですか…?

座二郎 不満しかないよ!家がちょっときれいなのが悪いんだろうな。今はリビングにクリスマスツリーもあるからやたら幸せそうに見えるし…。でも、本当はそんなの関係ないんだよ。自分が弱者とまではいえないけど、昔いじめられたことは今でも引きずっていて。

妻にお願いして造らせてもらった1.5畳の書斎で仕事をする座二郎さん

小学生のときに一時期アメリカに住んでいたんだけど、日本の中学校に入学したら、自分では馴染めてると思ってるのになぜかいじめられちゃって。その後の人生に“背骨があると感じられるかどうか”って人生の初期の段階で決まると思ってるんだけど、僕は背骨がない側の人生で。今は外面こそ幸せそうな人生に見えるかもしれないけど、自分の感覚としてはそうは思えない。

──なるほど。

座二郎 この前も小学生の息子が学校を遅刻してね。遅刻すると家族と一緒じゃないと教室に入れないルールなんだけど。息子と一緒に教室に入ったら友達が「いぇーいっ!」って息子のことを迎え入れてくれて。そのとき、自分にもこんな風に友達に恵まれた人生もあったのかな、って考えちゃったな。

僕にはそういう友達がずっといなくて。通勤漫画家として話題になってた時期が一番周りからチヤホヤされてうれしかった。なんでもいいから、もっと売れたいし、人気者になりたい! それこそ、マンスプもしたいよ!

──そこでマンスプに繋がってくるんですね。


座二郎 うん。だって、おかしくない? なんのために漫画とか描いてきたかっていうと、いろいろ勉強してモノを知って、偉そうにしたかったからなんだよ。漫画家とか作家って「俺がわかったことを皆に教えてやる」って姿勢が基本じゃん。

視野を広げておもしろいおじさんになれば若い子から話を聞かれると思ってたのに、いざ自分がおじさんになったら急に「マンスプ」とか言われちゃう世界になっちゃった。去年くらいに「マンスプ」って言葉を知ったときはびっくりしたよ。これ、普通に自分がしてることだ!って。したいよ、マンスプ。そのためにいろいろ勉強して今まで頑張ってきたんだもん。

いつもは屋根を覆っているシートを取材前に外してくれた座二郎さん。
突き抜ける青空は、座二郎さんの天井のないマンスプ欲を象徴してるのかもしれない

──マンスプしたい人って、これまでの人生もずっとマンスプ欲があったんですかね…?

座二郎 うーん。オタク寄りの人って、昔からずっと何か説明したいことを早口で説明するでしょ。それがある年齢を超えると、急にマンスプ呼ばわりされちゃうみたいな感じじゃないかな。

──なるほど。この人みたいにマンスプしたい!って憧れの人とかっていたりします?

座二郎 荒俣宏みたいになりたい! 僕くらいの年代の人はね、みんな心の中に荒俣宏を飼ってると思うよ。やっぱ荒俣宏みたいにいろんなことを偉そうにしゃべりたいもん。

──偉そうにしゃべりたいけどマンスプといわれてしまう世の中で、今後はどう生きていきたいですか?

座二郎 なんでもいいから、人気者になりたいね。

──座二郎さんはできることがいっぱいありますよね。家の設計でも、漫画でも、絵でも、文章でも、人気になれればなんでもいいのでしょうか?

座二郎 うん、なんでもいい。とにかく人気者になって、マンスプしたい!

写真・文/山下素童

彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった

山下素童

2023年7月26日

1650円(税込)

四六判/192ページ

ISBN:

978-4-08-788090-8


どうしたら正しいセックスができるのだろう——

風俗通いが趣味だったシステムエンジニアの著者が、ふとしたきっかけで通い始めた新宿ゴールデン街。
老若男女がつどう歴史ある飲み屋街での多様な出会いが、彼の人生を変えてしまう。

ユーモアと思索で心揺さぶる、新世代の私小説。

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