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クマに襲われ、右目を失明「両腕をつかまれ争ううちに一気に視界がぼやけ…」島根県の農村で起きた78歳男性の恐怖クマ体験

集英社オンライン / 2023年12月18日 17時16分

2023年はクマによる人的被害の報道や、北海道で牛を次々と襲っていた最凶ヒグマ「OSO18」の駆除などクマ被害のニュースが日本全国で相次いだ。今年6月にも島根県で78歳男性がツキノワグマに襲われ、右目を損傷し摘出するという重傷を負っていた…集英社オンラインでは被害者の男性の壮絶なクマ話をお届けする。

頭に噛みつく、爪を立てられる・・・壮絶なクマとの戦い

2023年6月16日午前5時30分ごろ、島根県・邑智郡邑南町宇都井(おおちぐんおおなんちょううづい)での出来事。

「邑南町は山が高いけいね、まだ日が当たっていない時間だったんよ」(高橋さん、以下同)

被害を受けた高橋さん(仮名・78歳)は、つい昨日起きた出来事かのような口ぶりでそう語り始めた。



高橋さんの住む邑南町宇都井は、自然豊かな山々に囲まれた農村地域。田んぼを囲うように民家が建ち並んでおり、牧歌的な雰囲気が漂う。

写真はイメージです

そんなのどかな場所で凄惨な事件は起きた。

朝5時台はまだ薄暗く、周囲の様子が克明にはわからなかったそうだが、玄関を出てキュウリを獲ろうと畑に向かった高橋さんは、異変に気付く。

「畑のそばにある山の藪でね、コツン、コツンいう音がしたんよ。何の音かな、鳥でもいるんかなと思って藪の前まで行きよったんですが、そしたら急にクマが飛びかかってきよって……。

暗かったからかもしれんけど、藪の中から殺気はなかったし、クマがいるんかなんてわからんかった。1メートルぐらいあったかなあ。小柄だったけど、ものすごい力で抱きついてきて、頭に噛みつこうとしてきた」

クマが立ち上がると、ひるんでいた高橋さんとほぼ同じ目線の高さになったという。そして、鋭い爪が伸びた両手で高橋さんの両腕をホールドし、頭に噛みつこうと牙をちらつかせたそうだ。

写真はイメージです

一方の高橋さんは、畑を見るだけの用事で外に出たため手ぶらで、クマを相手にするにはあまりにも心許ない状態だった。しかし、不思議とクマから攻撃性は感じなかったという。

「喰ってやるという感じはなくて、威嚇している雰囲気もなく、ただ抱き寄せて噛もうとするだけ。傍から見ていれば、じゃれているように見えたかもしれん。けど力は強かったから、このままではやられるとは思ったね」

高橋さんはクマの手を払うべく、必死に腕の力を振り絞り、拘束から逃れようと試みた。だが奮闘むなしく、クマはなかなか離れず、抵抗する反動で身体にはクマの爪によるひっかき傷が付いていく……。

「抵抗するうちに動きも激しくなってきて、ガーッとクマの左手が自分の右目にきて。もう目がエグれてしまって、一気に視界がぼやけたんよ。あたふたしとるうちに、気が付いたらクマはいなくなっとったわ」

その後、すぐに病院へと向かった高橋さん。10日間入院し、右目の摘出手術を受け、片目の視力を失ってしまったという。なお事故後、自宅付近で2つの罠を設置したが、いずれも成果は出ず、クマの行方は現在もわかっていない。

距離感覚がわからない後遺症…昔はクマとは無縁の生活だった

現在の高橋さんは体調は回復し、歩行もできるようになったが、右目を失ったことで日常生活に支障をきたすようになってしまった。

「距離感覚が掴めなくて、歯ブラシに歯磨き粉を付けるのにも苦労しています。上からチューブを押し出しても、歯ブラシの横にスーッと落ちちゃう。あと自動車のドアのガラスを横目で確認することもできないので運転も厳しい」

高橋さんの口調は明るくフランクだったが、それでも従来できていたことが急にできなくなる事実は、なかなか受け入れがたいに違いない。

写真はイメージです

高橋さんは生まれてから78年、ずっとこの地に住み続けている。30年以上猟師としても活動しており、イノシシなどの害獣を狩猟していたが、これを機に銃砲所持許可証を返納することにしたという。

しかし、今回のように自宅付近でのクマの目撃はおろか、猟師をしているときもクマを見かけることは非常に稀だったんだとか。

「子どものころは、クマが人里に出没したなんて話は聞いたこともなかった。猟師をしているときに山で数える程度だけど、見かけたことがあったぐらい。

それが変わり始めたのは15年くらい前から。クマは柿が大好物だからね、柿の木に爪跡が残っていると『今年も出てきたな』とわかるんですよ。それでも3~4年に1回とかそんなペースで、頻繁に出るワケじゃないです。

時期も夏から秋にかけての時期が一番多かったんで、今回みたいに6月はちょっと早い気もする。早めに冬眠から覚めて、餌を求めて歩いているのかもしれんな」

生息数の急増…身を守るための術を身につけてほしい

今年に入って日本のあちこちでクマが大量に出没したのには、山の中にある餌の減少が理由として考察されているが、自然豊かな宇都井の土地ではそういったことは考えにくいという。

「山の中に柿はいっぱい実っているけど、取り尽くされている様子はないから、食べ物に困っているということはなさそう。それよりも純粋にクマの数が増えすぎているだけだろうな。今は猟師の数もめっきり減っていて、増え続けるクマに対処しきれない。すでに人間の手には負えなくなっている」

数が増えた結果、生息域を伸ばしたクマたちは、はるばる人里に下ってきたということなのだろうか。高橋さんは「人間のほうが押し込まれている」と現状を嘆く。

「8月には歩いているときに道の真ん中に小さいクマが現れました。本当に小さくて、こちらを見るなりすぐに踵を返したけど、こうやって1年で2度も間近でクマを見るなんて経験はなかった。つくづく昔とは状況がまったく違っているんだと気付かされます」

写真はイメージです

クマ被害者のなかにはクマへの恐怖心を抱えたまま過ごす人も少なくない。けれど、高橋さんの態度はいたって気丈であった。

「クマは怖いけど、自分の身は自分で守らなくちゃいけない。これからは不用意に藪や茂みに入らない、夜は外出を控える、出歩くときは数人で、っていうことを覚えておかないと危険な目に遭う。

クマは50メートルぐらい離れていようが平気で走ってくるんで、簡単に命を取られると知りました。身の安全を守るためにも、不用心は避けるべき」

これまで身近な存在ではなかったクマの危険にさらされ、自分や家族の身を案じる必要がある地域は着実に増えている。実際にクマの被害を受けるとはどういうことなのか、被害に遭わないためにはどうすべきか。

全国各地の山間で暮らす人々や登山やキャンプを趣味とする人たちのクマへの悲鳴が止まなかった2023年。誰しもが年の瀬に今一度考えてみる必要があるはずだ。

取材・文/文月/A4studio

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