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「なぜガキどもの捜査をしなければならない」と警視庁が甘く見ていた半グレと暴力団の「持ちつ持たれつ」の関係

集英社オンライン / 2023年12月19日 18時1分

ヤクザ取材歴25年以上、暴力団組員、幹部、組長に取材を重ねる尾島正洋氏。現代ヤクザと半グレとの関係について迫った尾島氏の渾身のルポルタージュ『俺たちはどう生きるか 現代ヤクザのカネ、女、辞め時』(講談社)より一部抜粋してお届けする。

#1

暴力団と半グレ「持ちつ持たれつ」の関係

警察当局が半グレという存在を強く意識したのは2010年11月に発生した「海老蔵殴打事件」からだろう。人気歌舞伎役者、市川海老蔵(現・市川團十郎)がこの日、泥酔状態で東京・西麻布のバーに立ち寄り、アルコール度数の高いテキーラを灰皿に入れて周囲に飲ませた。

居合わせた客がその振る舞いを制止し、逆上した海老蔵がつかみかかったところ、暴行を受け重傷を負うことになった。顔は腫れあがりシャツには血痕が付着したままタクシーで帰宅。人気絶頂の歌舞伎役者が「死ぬかと思った」と恐怖を語った。後に逮捕されたのは暴走族関東連合OBの男だった。



一部の半グレの資金源は振り込め詐欺などの特殊詐欺が中心と見られる。暴力団が半グレの活動のスポンサーになっていることもあるという。

●関西地方に拠点を構える指定暴力団の幹部
自分のところにあいさつに来る半グレの連中もいる。当初は、何かしらのシノギをやってほかのヤクザとトラブルになったときにいわゆる「ケツ持ち」として、つまり後ろ盾になってほしいということなのかと思ったら、そうではなかった。「仕事を始めたいので出資してほしい」と言うので、都合してやった。

振り込め詐欺などのアジトとする、マンションの費用などだろうと思うが、詳しくは聞かないことにしている。後々になって、あいつらがマズいことになると、こちらの都合も悪くなるから。仕事がうまく軌道に乗ったのか、その後は定期的にカネを持ってくるようになった。

首都圏で活動する指定暴力団幹部

半グレの若いヤツが「資金を出してほしい」というので、それなりの額を出してやった。すると、それからせっせとカネを持ってくる。どうせヤバイ仕事だろうから内容は聞かなかった。もし、この若いヤツが警察に逮捕された際に、取り調べで「仕事を始めたときの資金はどうした」となり、こちらが事情を知って資金を出していたとなったら自分にも捜査が及ぶかもしれない。余計なことは知らないほうがいい。

半グレの連中をかわいがっておく必要もある。一生懸命仕事して毎月のように必ずカネを持ってくる。真面目でかわいい連中だ。

持ちつ持たれつの関係が一部ではあるとしても、他方では暴力行使の専門集団である暴力団に対して腕力で対抗する半グレグループもいて、街中で事件が発生すれば一般市民の巻き添えの可能性もあり危険な存在であるのは間違いない。
半グレとヤクザの決定的な違いはどこにあるのか

2022年10月、東京・池袋の「サンシャイン60」58階のフレンチレストランで乱闘騒ぎが発生した。乱闘騒ぎを起こしたのは半グレグループ「チャイニーズドラゴン」で、レストランには約100人のメンバーが集まり貸し切りパーティをしていた。

パーティが始まって間もなく怒声が響き渡り、「理由は分からないが、客同士がケンカをしている」と店から110番通報が入った。警察官が駆け付けると、頭部をけがして出血していた者数人を残して多くはすでに現場を立ち去っていた。

会場のあちこちでテーブルがひっくり返り、皿やグラスなどが割れた状態で散乱し放置されていた。パーティは刑務所に服役していたチャイニーズドラゴンの元リーダーの「出所祝い」だったという。そこに情報を聞きつけた別のグループが押しかけ、乱闘となった。

チャイニーズドラゴンとは中国残留孤児2世、3世たちを中心にして結成された暴走族グループ「怒羅権」(ドラゴン)が源流とされている。1990年代に暴走行為を繰り返していただけでなく、暴力事件も引き起こしていた。次第に日本人も加わり組織が大きくなっていた。警察当局によると、チャイニーズドラゴンは全国で約1500人が確認されており、東京都内では約400人となっている。

全国の組織犯罪対策を担当している警察庁幹部

暴排条項があるため、ヤクザは飲食店やホテルなどで宴会を開けないことになっている。いまのヤクザはこの点をよく理解していて、目立つような宴会はまずやらない。暴対法の「賞揚等禁止」の規定で、暴力団同士の対立抗争で敵対する組織の組員を相手に暴力事件を起こし、服役した指定暴力団の組員については、出所祝いや慰労などの名目での金品の授受が禁じられている。

半グレはヤクザと違い、グループのメンバーの出入りが自由だ。暴力団は組織性があるが、半グレはつかみどころがない。暴力団組員は所属する組織を出たり、入ったりすることを「恥」と考えているが、半グレはまったく違う。ただ、暴力団と同様の粗暴性、資金獲得での知能性を備えており、重要捜査対象であることは間違いない。

警視庁組対四課時代から長年、暴力団による犯罪を捜査しつづけてきた刑事たちの間では、「なぜ、自分たちが半グレのようなガキどもの捜査をしなければならないのだ」という懐疑的な声も聞かれた。

しかし、池袋のチャイニーズドラゴンの乱闘事件を捜査し、一部の幹部の逮捕にこぎつけたのは、警視庁組対部暴力団対策課だった。凶悪化する準暴力団、半グレグループについて警察庁は2023年7月、新たに「匿名・流動型犯罪グループ」という広い概念で位置付け、都道府県警の垣根を取り払って捜査を強化する方針を表明した。2022~2023年に全国各地で連続強盗事件を引き起こした、「ルフィ」を名乗る指示役に率いられたグループなどを念頭に置いているという。

こうしたグループは、これまでオレオレ詐欺などの特殊詐欺を行っていたと見られていた。しかし、近年は「闇バイト」と称してSNSで若者らを募り匿名性の高い通信アプリなどで指示して白昼堂々と強盗事件を実行させるなど、警察庁は「治安上の重大な脅威」としている。

反社会的勢力は時代とともに変化している。警察はこうした動きに対応していく必要があり、まだまだ課題は多い。

#1

文/尾島正洋

『俺たちはどう生きるか 現代ヤクザのカネ、女、辞め時』(講談社)

尾島正洋

2023年12月12日

900円

208ページ

ISBN:

978-4-06-534460-6

「それでもヤクザになりたいという若い入門希望者は少なからずいる。警察から目を付けられるから、最近はあえて盃を与えず組員と同じ扱いにしているんだ」
警察の徹底した締め付けによって、車を買うことも、ゴルフをすることも、自分名義のスマホを持つことさえ許されない現代ヤクザ。
それでも覚醒剤、闇カジノ、風俗店など「シノギ」の道が途絶えることはない。
現実に、ここ数年暴力団員数の減少は止まり、増減なく横ばいになっている。
ヤクザ取材歴25年以上、暴力団組員、幹部、組長に取材を重ね、業界にパイプと人脈を持つ筆者が聞き出した肉声と本音。
暴力団組員は、実はその多くが国民健康保険に加入し、抗争でケガをしたときも、保険証を提示して治療を受けている。
また、ストーカーになった元組長、気に入った女性をホストクラブに連れていく理由、組長の妻と愛人の生態など、現代ヤクザのリアルに迫る。
誰もが知りたい以下の疑問に答える必読の一冊。

「みかじめ料」を払う店はなくなったのか?
バブル期のヤクザはどのくらい潤ったか?
「暴排条例」がもたらした壊滅的な打撃とは?
闇カジノはなぜ「おいしいシノギ」なのか?
コロナ後に覚醒剤密輸が激増したのはなぜか?
ヤクザはマイナンバーカードを持てるのか?
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