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歯切れの悪い岸田首相会見に台本はあるのか…「首相会見の質問事前提出」開示要求に「不存在」と隠す官邸と記者クラブ

集英社オンライン / 2023年12月18日 11時1分

自民党の政治資金パーティーをめぐる裏金疑惑、物価上昇・少子化などの問題に適切な政策を見出せないなどから、内閣支持率が急降下している。こうした多くの問題に対して、歯切れの悪い首相会見を見てやきもきする国民も少なくない。自らも首相会見に参加して予定調和な進行を目撃してきたフリー記者・犬飼淳氏は、開示請求結果に基づき、官邸と内閣記者会による「首相会見」の蜜月を指摘する。

首相会見に台本はあるのか?

臨時国会が閉会した12月13日に行われた内閣総理大臣記者会見(以下、首相会見)。注目を集める政治資金パーティーをめぐる裏金問題に質問が集中する中、岸田文雄首相は「まずは事実確認」「説明責任を果たす」など曖昧な回答に終始した。



また、従来通り手元の原稿を読むだけで回答を済ませるという場面も散見された。こうした首相会見の形骸化が国民の「知る権利」を侵害し、裏金問題を始めとする政治腐敗は悪化の一途を辿っている。本記事では、首相会見における質問の事前提出、いわゆる台本の存在について取り上げる。

同会見で岸田首相は前任者(菅義偉氏、安倍晋三氏)と同様、回答時に事前に用意した原稿を読み上げる場面が目立つ。これは質問が事前提出されていないと不可能に近い。首相会見の中継を観たことがある国民の間では、記者クラブ(内閣記者会)の質問事前提出はもはや公然の事実となっている。筆者のように質問を事前提出していないフリーランスの記者が指名されることはゼロではないが、極めて稀である。現に、昨年8月から継続的に同会見に参加する筆者が計8回の参加で指名されたのは、昨年10月のわずか1回のみだった。

筆者はこうした状況を改善するため、いわゆる「台本」の存在を浮き彫りにできないかと考え、今年7月に以下2点を内閣官房に開示請求した。

(1)会見開始前に記者が内閣広報室に提出した質問内容
(2)(1)に関連する記者と内閣広報室のやり取り


狙いとしては、「事前提出された質問内容」を入手できれば、その後の「会見での質問内容」との比較が可能になる。ほぼ100%一致することを証明できれば、少なくとも質問に関しては事実上の「台本」の存在を証明できると考えたのだ。

ところが、官邸報道室はこの開示請求を「不存在」を理由に不開示を決定した。筆者は80件超の開示請求の経験があり、さまざまな不開示理由を見てきたが、ここまで明らかに「存在」すると判断せざるを得ない内容を「不存在」と主張する決定はめったにないため、驚愕した。

出典:不開示決定通知 2023年8月31日付

事前提出された質問を官邸が公式な文書として扱っているかは疑問が残るため、「廃棄済み」(=以前は存在したが、今は存在しない)や「守秘義務」(=今も存在するが、内容は明かせない)を理由にした不開示決定を筆者は覚悟していた。しかし、「不存在」(=始めから存在しない)は、完全な想定外だった。昨今の予定調和な会見進行を知っていれば、不開示理由を虚偽と判断せざるを得ない。

この不開示決定を報告した筆者ツイートには決定を疑問視する反応がリプライや引用リツイートとして数多く寄せられていた。

不開示理由が虚偽である3つの理由

この不開示理由が虚偽である具体的な根拠を、筆者は少なくとも3点挙げられる。

【①総理の国会答弁】
実はこの不開示決定のわずか3年半前、安倍晋三首相(当時)は首相会見前の質問事前提出を国会で認めてしまっている。以下、その質疑を抜粋する。

——————
【蓮舫 議員】(2020年2月29日の首相会見で)最後に記者との質疑をやり取りされた時、総理は答弁原稿を読んでいるように見えたんですが、事前に記者クラブの幹事社を通じて質問内容を確認しているんですか。
【安倍晋三 総理】まず幹事社の方が質問されますので、その場合、詳細な答えができるように通告を頂いているところもございます。また外国プレスの場合はいくつかの可能性を示して頂くこともあるわけですが、必ずしもそれに限られるものではない。
【蓮舫 議員】フリーランスの記者からの通告も受けていますか。
【安倍晋三 総理】総理の記者会見においては、これは恐らく取りまとめを広報室で行ってますので、私も承知は・・。詳細については今ここでお答えすることはできない。
出典:参議院 予算委員会 2020年3月2日
——————

この質疑で安倍首相(当時)は主に以下3点を暗に認めている。

・幹事社は質問を事前提出していること
・外国プレスも質問を事前提出する場合があること
・事前提出された質問の取りまとめは広報室(=内閣広報室)が行っている(はずである)こと


これら3点はいずれも今回の不存在を理由とする不開示決定とことごとく矛盾している。この3年半の間に運用が変わった可能性もあるが、現在の岸田首相も事前に用意した原稿で回答を済ませる姿は同じため、その可能性は限りなく低い。

【②元総理番記者の証言】
筆者は第2次安倍政権時代の総理番記者から匿名を条件に具体的な証言を得ており、大手テレビ局、新聞社で構成される内閣記者会常勤幹事社19社が粛々と「業務」として質問を取りまとめて質問内容の事前調整まで行っていた実態を業務フローが描けるほど詳細に把握している。

(例)質問が重なった場合は会社間で事前に調整する、事前に示された質問に対して官邸が変更を助言することもある、等

つまり、質問を事前提出していただけの話ではない。いわゆる「台本」を内閣記者会と官邸が緊密に協力して作り上げていたと表現しても差し支えないかもしれない。

*内閣記者会常勤幹事社19社の内訳(五十音順):朝日新聞、NHK、共同通信、京都新聞、産経新聞、時事通信、JapanTimes、中国新聞、TBS、テレビ朝日、テレビ東京、東京新聞、西日本新聞、日経新聞、日本テレビ、フジテレビ、北海道新聞、毎日新聞、読売新聞

官邸と内閣記者会の奇妙な反応

【③官邸と内閣記者会の奇妙な反応】
今回の不開示決定について筆者は官邸報道室に「会見前に記者から質問を一切受け取っていない認識なのか」とメールで問い合わせたが、3か月以上経過しても返答は一切ない。これまで首相会見の問題点(人数制限、常勤幹事社等)について問い合わせた際は最低限の回答は返ってきたものの、返信すらないということは初めてのことである。

内閣記者会(当月幹事社の北海道新聞・フジテレビ)に対しても、筆者は今回の不開示決定を説明した上で「会見前に官邸へ質問を提出していない認識なのか」と首相会見の参加者(各社の官邸キャップに相当する記者)にメールで問い合わせた。しかし、形式的な返信はあったものの、問い合わせ内容への回答は実質的に拒否された。

首相会見で話す岸田文雄首相 写真/共同通信

仮に質問の事前提出が事実でないのであれば、官邸も内閣記者会も回答すれば済むが、両者はひたすら説明なく回答を拒否する姿勢から、質問の事前提出はクロではないかと考えられる。本来は権力を監視すべき内閣記者会が、官邸の嘘に加担してまで国民の知る権利を侵害するという本末転倒な構図がここでも確認できる。

また、今臨時国会の閉会直前、自らは裏金で私腹を肥やしていた与党が、国立大学に対しては「稼げる大学」への変身を強要する国立大学法人法改正案を強行成立させ、その矛盾に大きな非難が集まった。こうした悪政を許す背景には、今回取り上げた首相会見のように内閣記者会常勤幹事社19社を筆頭とする大手メディアが、「国民」ではなく「官邸」に勤労奉仕していることが大きく関係しているように思えてならない。

文/犬飼淳

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