オフィスに出勤せず自宅などで働くリモートワークは、企業側と従業員側の信頼関係のうえで成り立っている新しい働き方だ。ある種、性善説を前提とした就業形態とも言えるだろう。
ではこうしたリモートワークを基本とした業務で、悪意を持ったモンスターバイトを雇用してしまうと、どうなってしまうのだろうか?
“モンスターバイト”による「リモートワーク詐欺」働いたように偽装したバイト側が労基署に駆け込んだ結果…企業側が受けた理不尽な被害とは?
集英社オンライン / 2023年12月21日 17時1分
リモートワークで採用した従業員が実はモンスターバイトで、実質ほぼ働いていないにもかかわらず仕事をしていたように偽装し、賃金未払いだとして労基署に駆け込んだらどうなるか? ――実際に「リモートワーク詐欺」被害に遭った企業側の悲痛な訴えをお届けする。
被害に遭ったA社は“週1出社”以外はリモートワーク
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モンスターバイトの悪質な手口と、労働基準監督署(労基署)の解せない対応により、「リモートワーク詐欺」に遭ったと訴えるのは、メディア関係の中小企業・A社の社長だ。
「ウェブコンテンツ制作を主な事業としている弊社は、社員とアルバイト合わせても10人未満の小規模な企業です。コロナ禍以降にリモートワーク制を導入し、社員もアルバイトもオフィスへの出社は週1日だけにし、それ以外の日はリモートワークということにしています。
今回のトラブルを起こしたX氏が、アルバイトスタッフとして弊社に入ってきたのは半年前。在籍していたのは1か月半ほどでした」(A社社長、以下同)
姑息すぎる…「リモートワーク詐欺」の悪質手口とは?
X氏は20代男性で、週3日のアルバイトスタッフとして雇用。月曜はオフィス出社してもらい、それ以外の2日間はリモートワークという契約だ。
「最初の1か月は、一応は働いていたように思います。ただ、こちらが指示していることが理解できないのか、それとも物覚えが悪いのか、何度伝えても同じミスを繰り返していたので生産性の低さは感じていました。
新人でも1時間程度あれば十分終えられる業務に3、4時間費やしていたり、リモートワーク日に1日4回提出を義務付けている業務報告も、何度教えても送って来なかったり……。
肌感としては標準的な新人スタッフの3分の1程度の仕事量しかこなせていない印象です。しかし今振り返ると、最初からサボろうとしてできないフリをしていたのかもしれません」
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1か月目の給与はきちんとX氏に支払ったというが、問題は2か月目。
結論から言うと、X氏は最低限働いた形跡だけを残してその月の中旬に“飛ぶ”(やめる)のだが、リモートワークで働いたフリをしていた6日分の賃金(約6万円)を請求してきたのだという。
「最初の異変は初週のオフィス出勤日。回線工事の業者が急に来てしまったという筋の通らない理由で出社拒否。2週目も意味不明な理由でオフィス出社せず、3週目のオフィス出社日に音信不通となりそのままバックレたんです。
ただ3週目に飛ぶまでは、リモートワークをしている体裁は取っていました。とはいえ、初月よりもさらに生産性が下がっており、さすがに意図的にサボっているのではないかと疑っていたので、X氏が飛んだ後に、その月の彼の仕事内容を精査したところ、とんでもない事実が発覚したんです。
X氏からの提出物は、ネットの情報を丸々コピペしただけであったり、他スタッフのデータをそのまま流用しただけだったりしたのです。何時間もかけて作ったかのように見せかけていた提出物は、ほんの10分程度で作れるお粗末なものばかり。当然、それらの提出物は使いものにならず作り直す必要があり、実質的にX氏は働いていなかったんです」
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オフィス出勤日に出社しなかったのは、リモートワークであれば働いたフリをしてサボることができるが、出勤してしまうと偽装ができないからだと考えるのが妥当だろう。
労基署は詐欺疑惑のあるモンスターバイトの主張を鵜呑み
その1か月ほど後、音信不通だったX氏から急に6日分の給与を支払ってほしいという旨のメールが届いたという。A社社長が、リモートワークを偽装していただけで勤務実態がないため支払えないと伝えたところ、X氏は労基署に賃金未払いとして訴えたそうだ。
A社社長はやましいことは一切ないと自負しているため、労基署からの来署依頼に応じ、対面で監督官にX氏がリモートワーク詐欺を働こうとしていることや、多々ある疑惑を伝え、潔白を主張したそうだが……。
「労基署の対応には本当に驚きました。その監督官は弊社の言い分を一通り聞いてはくれたので、X氏に数々の不審点があることはわかっているはずなのに、なぜかその日のその場で弊社は『労働基準法違反』『最低賃金法違反』という名目で、X氏の請求どおりの額を支払うよう是正勧告されてしまったのです。
要するに、弊社側が詐欺犯だと訴えているX氏に対して調査などしてくれることなく、X氏の疑惑は未解明のままこちらの言い分を無視し、法律違反のレッテルを貼ったのです」
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A社社長はあまりに理不尽で納得がいかなかったため、支払うことはできないと伝えたとのこと。だが、監督官から「このままでは告訴される可能性や書類送検される可能性がある」と言われて大事になる懸念を抱き、泣く泣く請求額の約6万円をX氏に振り込んだそうだ。
余談だが、請求されていた6日分のなかには、出社をバックレて音信不通になった最終日の分も含まれていたという。この日については、X氏はリモートワークの偽装さえもしておらず、労基署にはその点も伝えていたにもかかわらず、なぜか最終日分も含めてA社に支払いを命じたというのである。
公平を期すためにX氏と労基署の上層機関へも取材依頼
公平性を期すため、集英社オンラインではA社社長を通して、X氏に取材を申し込んだが、1週間後の期日までに回答は得られなかった。
次に、都内の各自治体の労基署をまとめる上層機関「東京労働局 労働基準部 監督課」に、A社・X氏の問題についての労基署の対応への見解を求める取材依頼をしたところ、東京労働局担当者から電話にて、「個別の事案についての取材は受け付けていない」との返事があった。
その通話中に、個別の事案としてではなく、一般論としてリモートワークの問題に対する労基署の対応について取材をさせていただきたいと再申請したが、「一般論という前提でも取材は受けられない」との回答で、東京労働局の見解を聞くことはできなかった。
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この結果をA社社長に伝えたところ、次のような所感を述べた。
「百歩譲って、弊社の言い分を聞いた後に監督官が改めてX氏に対して徹底的に調査したうえで、弊社が法律違反だと認定されたのであれば、まだ納得できたでしょう。けれど労基署は、詐欺疑惑があると訴えているのにろくに調べもせず、スルーしたんです。
率直に言って、リモートワークが絡んだ問題について、労基署側がまだきっちりと線引きをしたレギュレーションなどを作っておらず、対応が遅れているのだと思います。“労働の基準を監督する機関”でありながら、最新の働き方に追い付いていないのではないでしょうか。
弊社が被害に遭ったように、モンスターバイト側がリモートワークを偽装しておいて労基署に駆け込めば、企業側が労働基準法違反とされてしまい、支払わざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。労基署が間接的に詐欺行為に加担してしまう恐れもあるわけで、労基署に対しての不信感も強いです」
ちなみに、A社と同業界のB社社長も類似の被害経験があったことを教えてくれた。
「リモートワークで雇った新人スタッフが非常識なレベルで仕事が遅く、まともに作業していないと感じたので注意していたら、1カ月も経たずに辞めてしまいました。労基署に訴えられてもやっかいなのできちんと給与は支払いましたが、詐欺られた気分でした」(B社社長)
リモートワークという働き方は企業と従業員の信頼関係があってこそ成立するもの。だが逆に言えば、従業員側がその信頼を裏切る前提で、サボッたり詐欺的請求をしたりしようと思えば、容易にできてしまう“穴”が多いのかもしれない。
取材・文/昌谷大介/A4studio
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