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Apple が4四半期連続の減収…イノベーションのジレンマに陥り業績低調なAppleが抱える最大の課題とは

集英社オンライン / 2023年12月20日 12時1分

Apple社(以下、アップル)の時価総額が12月6日に再び3兆ドルを超えた。アップルは6月30日にマイクロソフトやサウジアラビアの国営石油会社であるサウジアラムコ、グーグルの親会社であるアルファベットなどの名だたる企業を抑えて、いち早くこの大台を突破していた。まさに世界中の企業のトップランナーだ。しかし、その牙城は盤石なのだろうか。

プロダクト事業の売上高が5%減少

アップルが12月に入って株価が押し上げられたのは、アメリカの利上げ停止観測が強まった影響が大きい。足元の業績が弱含んでいるのだ。革新的な製品を生み出す力を失い、手堅いサブスクリプションサービスで稼ぐようになっている。

アップルは4四半期連続の減収だった。特に弱いのがiPhoneやMacなどのプロダクト事業だ。2023年7-9月のこの事業は5.3%の減収。2023年度通期の売上高は、前年度比5.5%減少している。


Financial Dataより(筆者作成)

アップルの2023年度の売上高は、3832億ドルで前年度比2.8%の減収だった。主力であるプロダクト事業の不調の穴を埋めているのがサービス事業。アップルミュージックやアップルアーケードなどのサブスクリプション型のサービスを提供している。

2023年7-9月のサービス事業の売上高は223億ドルで、前年同期間比16.3%の増加。通期でおよそ1割伸びている。

Financial Dataより(筆者作成)

アップルは今年10月にサブスクリプションサービスの値上げを行った。アップルTV+は6.99ドルから9.99ドル、アップルアーケードを4.99ドルから6.99ドル、アップルニュース+は9.99ドルから12.99ドルに改めている。

これは3~4割アップの大胆な価格改定だ。しかし、アップルは2023年10-12月の売上高を前年並みと予想している。値上げによるサービス事業の伸長に期待できるが、プロダクト事業の伸び悩みでその効果が相殺されている様子がわかる。

破壊的イノベーションの象徴的な存在だったが…

プロダクト事業が弱含んでいる主要因は、MacとiPadの不調だ。品質が向上したことでパソコンなどのハードは製品ライフサイクルが長くなっているうえ、インフレが進行して高額製品はユーザーの間で買い控えが広がっている。

Financial Dataより(筆者作成)

しかし、アップルの売上高の半分はiPhoneが占めている。このカテゴリの売上高を伸ばせないことが、アップル最大の課題であるのは間違いない。

企業におけるイノベーション研究における第一人者、クレイトン・クリステンセンの世界的名著『イノベーションのジレンマ』で、クリステンセンはイノベーションを「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」の2つに分けた。大企業は破壊的イノベーションを軽視すると説明する。

iPhoneは破壊的イノベーションの象徴的な製品だ。ノキアとブラックベリーの高性能携帯電話やソニーのウォークマン、キヤノンやニコンの低価格なデジタルカメラを市場から一掃し、それらの機能をポケットに収まる端末1つに集約した。

クリステンセンは、破壊的イノベーションを起こした後、企業は既存顧客に主眼を置き、製品価値を高めることに注力すると説明する。

コダックはデジタルカメラを世界で初めて開発したにも関わらず、フィルムカメラの主力事業から転換することができずに淘汰されたのはよく知られている。アップルもその轍を踏んでいるように見える。

その象徴的な出来事が有機ELの採用だ。アップルは広範なサプライチェーンを構築し、同一の部品を複数社から調達するマルチベンダー方式をとってきた。これは供給体制を安定させることと、アップルの価格交渉力を強くするという2つの意味がある。

アップルはiPhoneという強力なブランドを構築して消費者を魅了し、世界同時販売で市場に大量供給、価格交渉力を駆使して低価格で製品を作り出すというビジネスを展開していた。まさに持続的イノベーションの理想形ともいえるビジネスモデルである。

しかし、このモデルは密かに転換点を向かえることになった。それがサムスンただ1社から提供されることになった有機ELだ。

折り畳み型のiPhoneを開発中か?

アップルは2017年に発売したiPhoneXの上位機種に有機ELを採用した。当時、サムスンは画面を押すとくぼみができるような弾力性のあるディスプレイの開発に成功しており、展示会でも実物を発表していた。

iPhoneX 写真/Shutterstock

それだけに、iPhoneへの有機ELの採用は、これまでのスマートフォンの常識を覆す製品を期待する声が強かった。しかし、デビューしたのは従来の板状のiPhoneだった。サムスンは2019年に2つ折りのGalaxyを販売しているが、これは先駆者のアップルが先に世に送り出してもおかしくはなかったはずだ。

通常、革新的な製品を生み出すには、自社で研究開発を行うか、他社から提供を受けるか、他社と共同で開発する必要がある。

サプライチェーンの構築に注力してきたアップルは、自社で革新的な製品を生み出す力を失っていた。アップルが有機ELの自社開発拠点を設立し、内製化したディスプレイに製品の一部を切り替えるのは2024年からだ。開発が完全に後手に回っている。

有機ELに切り替えた当時、アップルは供給元をサムスン1社に絞り込んだことで交渉力を失い、従来型のデザインに収めざるを得なかった可能性もある。開発、交渉の両面で手詰まりになったのだ。

また、アップルとサムスンは特許訴訟を行っていた経緯があり、共同開発という道がとりづらかった。和解したのは2018年に入ってからだ。

2023年7月にサムスンの子会社の幹部が、アップルと協力して折り畳み式のディスプレイを開発しているとリークして話題になった。折り畳み式iPhoneの真偽は不明だが、こうした情報がサプライチェーンの1社から出てしまうほど、アップルの力が弱まっているということだろう。

小粒なM&Aに留まるアップル

マイクロソフトと比較して投資が消極的な点も気がかりだ。

2023年10月にアメリカのゲーム会社アクティビジョン・ブリザードがマイクロソフトの子会社になった。マイクロソフトはこのM&Aに10兆円という途方もない額を投じている。また、マイクロソフトはChatGPTのオープンAIに1.3兆円を投じるとも報じられている。イノベーションを起こしづらくなった企業は、M&Aを成長エンジンにするケースが多い。グーグルの親会社のアルファベットもM&Aには積極的だ。

写真/Shutterstock

アップルも買収や出資を行っているものの、2020年に入ってからのM&Aへの投資額は100億円~200億円程度。回数も多くない。アップルの企業規模に比べると小粒な印象は否めない。

電気自動車で覇権を握っていたテスラが、中国の世界最大級のEVメーカー・BYDに足元をすくわれている。今の状況を見ると、アップルが主力のアメリカ市場でサムスンやアルファベットにシェア奪われる事態が起こっても、決しておかしくはないだろう。

取材・文/不破聡

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