1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. カルチャー

いつまで京都人は「いけず」なのか!? 「ぶぶ漬け、どうどすか?」はとうに絶滅しているのに、なぜ罪悪感を京都だけになすりつけるのか

集英社オンライン / 2023年12月21日 16時1分

言いづらいことを遠まわしに伝える、京都の「いけず文化」。そもそもこのいけず文化はどのように始まり、いつまでネタにされ続けるのか。『京都ぎらい』(朝日新書)の著者で、自身も京都府在住である、国際日本文化研究センター所長・井上章一氏に話を聞いた。

方言にノスタルジーを感じる人には
ささくれだって響く京都の言い回し

「京都人は腹黒く、裏表がある」などと揶揄されながら、さまざまなメディアでおもしろおかしく取りあげられる京都の「いけず文化」。一種のご当地ネタとして長らくいじられ続けてきたが、このいけず文化いじりは一体いつまで続くのか。

国際日本文化研究センター所長・井上章一氏は、次のように語る。

「いけずな言い回しの代表にされる『ぶぶ漬け、どうどすか?』なんて言葉は、すでに京都の日常会話からは絶滅しています。



それでもなお、主に“標準語”を自負されている関東圏の方々から話題にされるのは、彼らが方言を、飾りがなく、素朴で温かいものだと認識しているからではないでしょうか。

方言にノスタルジーを求めるあまり、入り組んだニュアンスが込められている京都のいけずな言葉が余計にささくれだって響くのかもしれません。方言のくせに標準語より複雑な言い回しを使っているという反感は、今後も続くような気がします」

一方で、2023年11月には、そんな京都のいけずな言葉をステッカー化した「裏がある京都人のいけずステッカー」が京都府のお土産ショップで発売された。発案したのは大阪のイベント企画会社と京都のデザイン事務所。11人の京都人も制作に協力したという。

『裏がある京都人のいけずステッカー』(800円+税)。大阪の「ない株式会社」(https://71inc.jp/)と京都のデザイン事務所「CHAHANG」(https://chahang.jp/)が作成

このようなビジネス展開も、京都がいつまでも「いけず」扱いされる要因になっているようだ。

「京都に来た観光客が、もうそろそろ店を出たほうがいいかなというときに『ぶぶ漬けどうどす?』なんてウェイトレスに言われたらおもしろがりますよね。仕事の上でお客さんを喜ばすことは必要ですし、そうしたら、それをもっと商売にしようと考える京都人も出てくるのではないでしょうか。

どうせいつまでも『京都人は腹黒い』と言われ続けるのだから、それを逆手に取ろうと考える人は今後も増えていくかもしれませんね」

「いけず」は争いを避けるための処世術

そもそも、なぜ京都には「いけず」のイメージが根付いているのだろうか。

「世間から『いけず』だと認識されているような言い回しは、洛中の老舗料亭などを中心に使われてきました。周辺には創業200年、300年なんていう店がたくさんあり、そういった店同士が争いを避け、長く店を切り盛りしていくための処世術として生まれたと考えられます」

「金持ちケンカせず」ならぬ「老舗人ケンカせず」なのだろうか

古都京都の「いけず」は言葉だけにとどまらない。歴史的建造物の内部からも、言いづらいことを遠まわしに伝える文化が見て取れると井上氏は教えてくれた。

「京都・山科の毘沙門堂(創建789年)というお寺にある『とりあわずの間』をご存知でしょうか。その部屋のふすまには、梅と雉が描かれています。梅が咲く季節に合わない鳥が描かれているので『鳥、合わない』、要するに『取り合わない』。今日はあなたと『取り合いませんよ』という意味の部屋なのです。

ご住職に会いに行っても、ここに通されたら渋々帰らなくてはいけない。一方で、京の文化を理解していない人は、この部屋でずっと無意味な時間を過ごさなければならないわけです。

京都は日本の首都としての歴史が長かったので、入り組んだ言い回しや表現がたくさん生まれてきました。

そして、首都ではなくなった京都の言葉を、他の地方の人は学習しなくなります。

結果として京都の中で古くから育まれてきた文化が理解されづらくなり、それらが他県から『いけず』だと認識されてしまうようになったのではないでしょうか」

「京都五ケ室門跡」のひとつに数えられる「毘沙門堂」。春は桜、秋は紅葉で有名なる観光名所

加えて、本音と建て前を使い分ける慣習は、決して京都に限ったことではないと井上氏は指摘する。

「皆さんもビジネスの場では、思ってもいない褒め殺し的な文句を言ったり、丁寧すぎるお願いの文書を送ったりするでしょう? それらは果たして“言いづらいことを遠まわしに伝える”京都の「いけず」とどこに違いがあるのでしょうか。

自身の日頃の行いから目を背け、罪悪感を京都だけになすりつけて安心しているようなところがあるようにも思えますね」

「楽しそうやね」と言われたのに警察を呼ばれて…

長い歴史の中で育まれてきた、いけず文化だが、年々国際化が進む京都の現状を踏まえると、井上氏は「そろそろ言語習慣を改めたほうがいいのかもしれない」と話す。

「私の友人に、アフリカのマリ共和国から京都に移り住んだ方がいらっしゃいまして。とても交友関係の広い方で、よくお客さんを招いてホームパーティーをなさっていたそうです。ある日、近所に住む女性から『いつも楽しそうやね』と言われたらしいのですよ。

それに対して友人は『楽しいですよ。よかったら一緒にどうです?』というやり取りをされたらしいのですが、数日後に『近所から騒音に対する苦情が来ている』と警察から連絡が入ったそうで…。

その女性は『やかましいわ』という意味でマリの人に話しかけたんでしょうね。しかし、世界中の人が綺麗な言葉に包んだ本音を読み取れるわけではありませんから。京都の国際化を考えるのなら、いけずな言い回しにはいささか問題があるように思えます」

一方で、いけず文化を積極的に導入すべき場面も存在するようだ。会社内のパワハラ問題を回避するためには、いけずな言い回しが意外と有効だという。

「今はどんな職場でも言葉に気をつけなくてはならないですよね。私は以前、知人の弁護士に京都のいけずな言葉はハラスメントになるのかを聞いたことがあります。

例えば、いつも時間にルーズな部下に対して『あんたいつも、ええ時計したはるなあ』と言ったらどうなるのか、と。

結果、ハラスメント認定は受けないそうです。全国の重役さんたちに、京都弁学習講座でも開いてあげたらいいんじゃないかと思いますね」

取材・文/渡辺ありさ

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください