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トラブルだらけのマイナ保険証「他人の顔で認証できる」「兄弟の情報が出てきた」… “強引なDX”がもたらした医療現場の不安と混乱「来年秋に一本化で大丈夫なのか」

集英社オンライン / 2023年12月21日 8時1分

マイナンバーカードを保険証として利用できる「マイナ保険証」。当初は医療全体で大きな恩恵が生まれることが期待されたが、いざ蓋を開けてみると、データの紐づけミスや端末エラーをはじめとしたトラブルが続出し、疲弊と混乱を生み出している。2024年秋の保険証廃止が迫る中、果たして政府は国民と医療現場の不安を拭えるのだろうか。

今の健康保険証は予定どおり「廃止」へ

やはり、廃止になるようだ。現行の健康保険証の話である。

12月12日、岸田文雄総理大臣は予定どおり2024年秋に今の健康保険証を廃止し、「マイナ保険証」に一本化することをあらためて発表した。

一方で、今年トラブルが続出したマイナ保険証に対しての、国民の不安は拭えない。



そもそもマイナ保険証は、医療分野でのデジタル化を進め、患者がよりよい医療を受けられるようになることを目的に導入された。しかし、ここでいう「よりよい医療」とはどんなものだろうか。

2024年秋には現在の健康保険証の廃止が決定。マイナ保険証に一本化される(写真はイメージ)

利用者は、本人が同意すれば、過去の自分の診察記録や服薬データを提供することができる。従来の保険証では、過去に受診した医療機関の診察内容を把握するには、本人の記憶や「おくすり手帳」などを確認するしかなかった。マイナ保険証では、こうしたデータを集約し、医療機関や自身がオンラインで閲覧できるようになる。

また、転職をしたときに新しい健康保険証を作り直す必要もなくなる、という利点もある。さらに、医療費の手続きもデジタル化されるため、確定申告の手間は減り、「高額医療費」に達したときも自動的に計算され、上限を超えた支払いは不要になる。

医療全体として見た場合も、医療現場の負担が減り、効率化されることで、医療費の適正化につながると期待されていた。

利用率は約4.5%。6か月連続で減少

当初、マイナ保険証を巡って懸念されていたのは、主に「追加費用」と「悪用」というポイントだ。このうち、追加費用は窓口負担が3割の人の場合、マイナ保険証利用で初診6円、従来の保険証なら12円と、あまり大きな金額ではない。

紛失・盗難の場合の悪用についても、カード自体に医療情報が記録されているわけではなく、必要に応じてオンラインで本人確認をする。パスワードもあり、不審な動作が続けばカードに搭載されたICチップが壊れる、といった仕組み自体は銀行のキャッシュカードなどと、それほど変わらない。

それなのに、マイナ保険証の利用率は2023年10月時点の政府発表で約4.5%と、6か月連続で減少している。その理由は、後述する一連の問題による心理的な不安が大きいだろう。

騒ぎが大きくなったきっかけは、今年に入って、マイナ保険証で参照できる医療情報について、別人のものが誤って紐づけられてしまうミスが相次いで発覚したことだった。診察記録などは慎重な取り扱いが必要な情報であり、SNS上で当事者が声を上げ、注目が集まった。

政府によると、2023年10月の時点でのマイナ保険証利用率は約4.5%と発表されている

マイナ保険証の本格運用を開始する前である2021年にも、他人の情報を紐づけるミスが3万5000件判明しており、本格運用の開始は半年延期されている。このときも一斉点検や自動システムによるチェックといった対策をとっていたはずで、SNSで注目が集まる前から政府側も問題を把握していた。

厚生労働省はミスの原因として「紐づけの際のルールが徹底されていないこと」を挙げる。

これまでデータを紐づける健康保険組合などに対しては「氏名」「生年月日」「性別」「住所」の4つの情報で確認することを求めていたが、住所の確認を省くなどの事例があり、誤登録につながった。

一連の問題を受けて、政府は今年6月に「マイナンバー情報総点検本部」を設置。同本部での12月の発表によれば、現在までにマイナンバーに紐づけられた医療や福祉などの情報について8351件のミスが確認された(先行点検分を含めると計1万5907件)。全データは約8200万件を数えるので、割合としてはさほど多くないが、センシティブな個人情報の流出リスクがあるとあっては政府としても悩ましい問題だ。

そのうち健康保険証の情報については、すべてのデータを住民基本台帳と照合して確認する作業も進められている。その結果、氏名などが一致しないケースが新たに約139万件確認されたという報告があった。別人の情報が紐づけられているのは450件程度と推計されており、確認作業の完了は2024年春が目処になる。

健康保険証の廃止後も、最大1年間は現行の保険証が使用可能だ。また、マイナ保険証を保有しない場合には、申請なしでも資格確認書が発行される。政府は国民の不安を拭うことに躍起となっているが、ここまでの事態になってしまえば、先行きは不透明と言わざるを得ない。

「他人の顔で認証できる」「兄弟の情報が出てきた」

日本医師会は7月の記者会見で、データ紐づけのミスなどにより国民や医療現場に不安と混乱が生じていることについて、長島公之常任理事が「この問題の解決が喫緊の課題であり、現行の健康保険証が廃止される令和6年秋までに万が一体制が整わない場合は、保険証の有効期限延長の要請をし得る」という姿勢を示している。

また、全国保険医団体連合会は12月20日、マイナ保険証の利用を巡る10月1日以降のトラブルの実態調査結果を発表。医療機関のカードリーダーのエラーなどで保険資格確認ができず、「一旦10割負担を患者に請求した」という事例が265医療機関、少なくとも510事例あることがわかった。

そのほかにも、現場の医療機関からは「名前や住所に●(黒丸)が表記される」「顔認証がうまくいかない」「他人の顔で認証できる」「カードリーダーもエラーが多すぎて使いものにならない」「資格喪失している保険証が『有効』となっていた」「兄弟の情報が出てきた」といった声が挙がっている。

河野太郎デジタル大臣は12月12日の会見で、再発防止策の必要を認めたうえで、「いずれマイナンバーカード1枚で、診察券も医療の受給者証もすべて済むということになる」「よりよい医療をDXを通じて提供する体制を整えていきたい」と述べた。

いつまでも従来の保険証のカードを持ち歩き、転職すれば作り直すというのが、時代にそぐわないことは間違いない。便利になることを望まない国民もいないだろう。開始直後からトラブル続出でケチがついてしまった制度だが、今後は足元の揺らぐことがないように期待したいものだ。

文/あまのなお

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