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バラバラ遺体の過激な映像を流せば関心を引けるのか…イスラエル-パレスチナ戦争への日本の「無関心」と戦うTBS戦場記者の葛藤

集英社オンライン / 2023年12月23日 11時1分

2023年、悲鳴があがったのは日本だけではない。世界でもさまざまなが悲鳴が巻き起こり、なかでもイスラエルとパレスチナの戦争は多くの悲しみを生んだ。しかし、自身の生活で精一杯な状況にある日本人にとっては、遠い異国の悲劇という側面もある。その距離感を少しでも縮めるべく、戦地の取材を続けるTBS記者の須賀川拓氏に話を聞いた。(前後編の前編)

「無関心こそ最大の悪」

――須賀川さんは戦場記者として現地で見たものを発信されている一方で、X(旧Twitter)上に寄せられる“クソリプ”にも律儀に反応されていますよね。

彼らもいち視聴者であって、この戦争に対して多くの日本人が無関心である中で超ありがたい存在と思ってます。僕は、「無関心こそが最大の悪」と考えていて、もちろんX上でそれ以上のやり取りは望めませんが、少しでも関心を持ったり、議論が広がっていくことのほうが重要なんです。なので、クソリプはクソリプだけど、そこは「しょうがねえな」って感じで、僕としては割り切っているところがありますね。


TBS記者・須賀川拓氏 (写真/本人提供)

――なるほど。「最大の悪は無関心」ですか。

はい。逆に、Xはそこに風穴を空ける力を持ったメディアじゃないかとも思っています。地上波はもちろん、YouTubeやXなどのSNS、いま準備中のドキュメンタリー映画や、TBSがニュース配信プラットフォームとして力を入れているTBS NEWS DIGに関しても、情報の刺さり方や広がり方においてすべて指向性が違うんですよね。

僕が見ているのはシンプルで、難民支援と紛争早期解決です。どんな形であれ、それに繋がるのであれば、かっこよかろうが、かっこ悪いかろうが、別に何でもいいと思っています。

10月10日撮影 イスラエル・スデロット ハマスに一時占拠され破壊されたイスラエルの警察署の前(写真/本人提供)

――ハマスがイスラエルに侵攻した10月7日は、どこにいたんですか?

家族で親戚の法事をしていたんですよ。終わってから携帯電話を確認したら、着信がたくさん入ってて、「ハマスが越境した」と。その文字を見た瞬間に「これはとんでもないことになった」と直感しました。

すぐにTBSの外信部長に連絡して、「須賀川見たか?」「見ました」「やばいな」「やべえよ」「やばいっすね」って、「やばい」だけの応酬が10回ぐらい続いて。パレスチナ問題や中東和平を研究している人はみんなそうだったと思いますが、相当な数の人が死ぬということが瞬時にわかってしまったんですね。だから、いま起きていることは、まったく予想外のことではありませんでした。

ハマス侵攻の2日後にイスラエル入り

――それから、すぐにイスラエル入りをしました。

10月7日が土曜日で、日曜日の便を取り、月曜の朝にはイスラエルに入りました。今年の夏も現地には行っていて、そのときは南部に拠点を置くイスラム聖戦の子供たちの軍事キャンプを取材するために、ガザにも入っていたんです。

僕は料理が趣味で、ガザに行くと寿司を握るんですよ。下水処理がしっかり整備されていないガザの近海は汚染されているので、そのぶん養殖が盛んなんです。いつも、大きな養殖場に併設されたレストランで寿司を振る舞っていましたが、そこも今回の空爆で跡形もなく破壊されてしまいました。養殖場や浄水処理場はひとつなくなるだけでも致命傷になる大切なインフラですが、それらがことごとくやられているというのが、本当に今回の特筆すべきところだと思います。

――イスラエス・パレスチナ問題は須賀川さんにとって戦場取材の原点と聞きました。

おっしゃる通りです。2019年3月に赴任して、4月に最初に行った紛争地がパレスチナ・ガザ。それから、ほぼ毎年行っています。

――これまで見てきたパレスチナの光景と、今回ではまったく違うものですか?

実はあまり変わっていなくて、それが恐怖でもあります。イスラエル側からは遠くでボンボンと空爆の煙が上がるのが見えるけど、レストランも営業していて普通の生活がある。その非対称がこれまでもずっと続いてきました。

ただ、唯一違うのが、今回はイスラエル側もものすごく多くの血を流したこと。これまでガザからどれだけロケット弾が飛んできても、アイアンドーム(イスラエルの防空システム)が迎撃をしてきたので、イスラエル国民に直接的な被害が加わることはあまりなかったんです。

イスラエル南部を移動中にアイアンドーム(防空システム)が、ガザから放たれたロケット弾を迎撃する様子

一方、ヨルダン側西岸やガザはずっと痛みを感じてきました。当然、ハマスのやったことは完全に戦争犯罪で、民間人を狙ったことは許されませんが、彼らの感情としては、これまで占領下で抑圧されてきたことの延長戦なんですよね。

報道機関がガザに入る唯一の方法

――10.7が戦争の始まりではないということですね。

はい。そのことはやはり、我々の無関心のせいでもあります。だから、今までパレスチナことを何も知らなかった人たちが、意見を交わしあっていることは、すごくいいことだと思っています。

――開戦後のイスラエル国内の様子は、須賀川さんの目にどう映りましたか。

もう怒りが半端じゃないです。それまで「パレスチナを開放しなきゃダメなんだ」と言っていた穏健派のイスラエル人が、「絶対許せねえ」「徹底的に潰すしかない」と言っていて、ものすごくショックを受けました。ある意味、ハマスはイスラエル国内にいる自分たちの最大の味方を敵に回すぐらいのことをやってしまったんです。

あれから2か月と少し時間が経って、イスラエル側の度を超えた攻撃や、人質の奪還がうまくいってないことと合わさって反戦ムードが多少広がっていますが、それでもパレスチナの人たちに心を寄せてきた人たちは、イスラエルからかなり減ってしまったと思います。

ガザ境界付近で砲撃準備するイスラエル軍の155ミリ榴弾砲

――現在、メディアがガザに入ることはできるのでしょうか。

基本的にはできなくて、ひとつ可能性としてあるのが、イスラエル軍に帯同して入ること。CNN、BBC、CBS、ABC、FOXニュース、ニューヨーク・タイムズのような、イスラエル側が「影響力がある」と判断した世界的メディアやいくつかの日本メディアはその方法で入っています。ですが、どの社も出版・配信する前にイスラエル軍からチェックを受けているとみられます。私たちは戦争勃発当初から申請していますが、いまだに選ばれていません

――NHKや共同通信が報じているガザの映像というのは?

ガザの中にいる現地のフリーランスジャーナリストと専属契約をしているんだと思います。彼らは生活のためということもありますが、やっぱり現状を世界に知ってもらいたいという信念で動いています。パレスチナ、ガザの人たちは特にそれが強いです。

テルアビブのホテルで、朝出発前の荷物のチェック

――須賀川さんの滞在地には、他国メディアもたくさんいたと思いますが、それぞれ各国に伝えている内容は違ったりするのでしょうか?

意外とやっていることは変わらないんですが、海外はニュースに対する感度が全然違うんですよね。どうしても日本は関心が薄れるのが早い。これはもう、現場の僕らがいい取材をして、関心を持ち続けてもらうしかないです。

バラバラ遺体の過激な映像を流せば関心を引けるのか?

――中には、地上波では流せない映像もありますよね。

そうですね。遺体に関しては「死者の尊厳」という日本らしい理由で流せません。これはこれで、すごくまっとうな理由だなと思います。海外だと「WARNING」という警告の後に流したりしますけど、日本の地上波でバラバラになった遺体がいきなり出てということは考えにくいじゃないですか。そこは国民性もあるのかなと思いますね。

10月10日撮影 イスラエル南部スデロットの街、イスラエル軍とハマスの交戦の痕跡

――まあ、そのまま流せばいいってものでもないですよね。

でも、流せるならば、ありのままを流したほうがいいかなと思うこともあるんです。ただ、僕の最終的な目的は「日本人の関心を、難民問題や紛争の早期解決に持っていくこと」なので、過激なものを見せることでチャンネルを変えられてしまってはダメですし、「すげえ」「えぐい」と思われるだけでもダメ。そのバランスは、ちゃんと考えていかなきゃいけないなと思っています。

――そこは、メディアによっての使い分けも考えられますね。

そうですね。僕が現在作業をしている映画に関しては、関心のある人がお金を払って観にきてくれているので、ほぼモザイクなしでいけますし、YouTubeも年齢制限がかけられるので、それぞれのプラットフォームの性質を考えながらやっていくつもりです。

おかげさまで、Xでフォローしてくれる人も少しずつ増えてきたので、最近は遺体映像のリポストや、それに対するコメントもすごく慎重になりました。やっぱり、それを見た瞬間に離れてしまう人のほうが多いと思いますし、それは結果的に自分が目指すものではないと思うので。

取材・文/森野広明 撮影/村上庄吾

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