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どうすればイスラエルの侵攻は終わるのか…現地を知る戦場記者が考える紛争終結への糸口と報道だからできること

集英社オンライン / 2023年12月23日 11時1分

2023年、悲鳴があがったのは日本だけではない。世界でも多くのさまざまなが悲鳴が巻き起こり、なかでもイスラエルとパレスチナの戦争は多くの悲しみを生んだ。しかし、自身の生活で精一杯な状況にある日本人にとっては、遠い異国の悲劇という側面もある。その距離感を少しでも縮めるべく、戦地の取材を続けるTBS記者の須賀川拓氏に話を聞いた。(前後編の前編)

中東情勢の報道で何を信じればいいのか?

――今回の戦争に対する日本国内の反応を見て、感じることはありますか?

極端な二項対立になってほしくないということはずっと思っています。「ふざけんなよ、ハマス」とか「イスラエルこそテロ国家だ」って言い切ってしまうほうが、気持ちの整理がつけやすくて楽ですが、世の中そんなにシンプルではなくて。むしろほとんどがグレーじゃないですか。



だから、パレスチナ寄りの人であろうと、イスラエル寄りの人であろうと、もうちょっと対話ができるといいなと思っています。お互いに虐殺をされている当事者同士が分断するのはもう仕方がないと思いますが、周りがそれを煽ってしまうと収拾がつかない。そこは我々の情報発信が大切になってくると思っています。

TBS記者・須賀川拓氏

――今回のことで、改めてイスラエル・パレスチナの問題を調べてみましたが、それぞれに根深い歴史があり、識者たちも自分の立場ありきでコメントし合っている印象を受けました。正直、何を信じていいのかわからない、という気持ちもあります。

「何を信じていいかわからない」というのは、正常な状態だと思います。たぶん、ひとつだけを信じるってことはないんですよ。イスラエルのナラティブ(物語)で考えれば、それこそ何千年もさかのぼる悲劇の民族があり、それは歴史上のファクトだから、絶対に否定してはいけないことです。今回の戦争で、イスラムフォビアが広がることが懸念されていますが、実はそれよりもやばいと懸念しているのが、反ユダヤ主義です。

それこそ、ドイツでハーケンクロイツがいきなり壁に描かれたり、ユダヤ人の家にダビデの星がスプレーされたり。本当にあってはならない話です。悲しいことにイスラエルが攻撃をして、パレスチナ人が死ねば死ぬほど、反ユダヤ主義は拡大していってしまうんですよね。

「亡くなった1人1人に名前がある」

――そういう意味でも、解像度を上げて報道を見るために、視聴者にできることはありますか?

刺激的な見出しや映像に対して一旦、距離をとることが大事かなと思います。初期のころ、イスラエルがガザの病院を空爆して500人が死んだという情報に、世界中のメディアが飛びついたんです。でも、実はあれはイスラム聖戦というパレスチナの武装勢力が打った不良品のロケットが病院に落ちたことによるもので、亡くなった数も40~50人でした。もちろん、それでも大変な惨事ですが、それについては僕も「表現が間違っていました」と、Xで訂正のポストをしました。

つい先日も、パレスチナ人の抱いている赤ちゃんの遺体が人形だったのではという報道がありましたが、あれも常識的に考えたらありえないんですよね。そんなきれいな人形なんて残されてないし、そもそもあれだけ赤ちゃんが死んでいるんだから、人形で仕立てる意味がない。でも、エルサレムポストという信頼できるイスラエルの新聞社が報じたものだから、僕の中にもちょっと「もしかしたら……」という気持ちがありました。

結果的に、いろいろな検証記事が出て、エルサレムポストも取り下げましたが、今後もこのような刺激的なものがSNSを中心にバンバン流れてくると思います。だから、自分が引っ張られたときこそ「危ない」と思える感覚ができていけばいいかなと思います。その意味では、今回のことでみなさんの情報に対するリテラシーはかなりついてきているんじゃないかなという気はしています。

2019年 トルコ軍によるシリア越境攻撃 トルコ側国境側にて

――死者数も、イスラエルとパレスチナの発表でだいぶ差がありますからね。

そうですね。ぶっちゃけ、あれも数えようがないんですよ。実際は、パレスチナ側の発表よりも多いと思います。というのも、絨毯爆撃をされてるので、数千人規模で人が埋まっていて、誰も救出できない状態なんです。

ここにもイスラエルとパレスチナの非対称があって、「この人たち、1人1人に名前がある」として、イスラエルの大学の講堂に亡くなった千数百人の名前と写真を並べた「We are NOT numbers ウィー・アー・ノット・ナンバーズ」という式典が行われたのですが、これってパレスチナ側にも当てはまることなんですよ。市民の命に優劣はないはずなのに、その観点を抜きにして、僕たち日本人がイデオロギー対立に陥ってはいけないと思いました。

「We are NOT numbers ウィー・アー・ノット・ナンバーズ」大学講堂に並べられた亡くなった被害者たちの写真と名前

どうすればイスラエルの侵攻は終わるのか

――イスラエル軍の地上侵攻もはじまりましたが、今後の展開として落としどころはあるのでしょうか。

テルアビブ市内で日本の昼番組に向けて中継準備

本気で落としどころがないんです。本当に冗談抜きで、しつこいようだけど、ない。イデオロギー抜きでイスラエル軍の動きだけを、ファクトとして見ると、まずガザ北部はほぼ真っ平になりました。南部もハンユニスという大きな街を包囲しました。となると、もうガザに残されたのはほんのわずかで、そこに220万人のパレスチナ人がいます。その時点で、もう人道危機の極限状態ですよ。

そうなったときに、周辺国は難民の受け入れ準備をすることになるかと思いますが、仮にそうなると、パレスチナ人に戻る土地がなくなってしまいます。1回出てしまえば、絶対に戻れないですから。

そして、アラブ諸国としても、難民を受け入れること=第二のナクバ(アラビア語で「大厄災」。1948年のイスラエル建国により、パレスチナの地に住んでいたアラブ人が居住地を追われ、難民となったことを指す)に加担することになってしまうので、心情としても絶対にしたくないわけです。だから、まずはなんとか恒久的な停戦に合意をさせて、ハマスを抜きにしたパレスチナの統治機構をどうにか作っていくこと。答えはありませんが、まずその議論を始めない限りは、人が死に続けるしかないんです。

10月8日 テルアビブの空港到着 シェルターの場所をしめす看板

――いままでも、一旦は落ち着いても、またそれぞれに過激な指導者が出てきて衝突するということを繰り返していますよね。

そうなんですよね。だから、イスラエル側の立場で考えると「2度とイスラエルに手を出せないようにするしかない」「それが我々の自衛権なんだ」というのは、めっちゃわかるんですよ。

いまは、過剰防衛だ、完全に自衛権を逸脱していると言われていて、国際法上でも間違いなくそうなんですが、敵を殲滅しないと自分たちが生き残る道はないということが何千年の歴史で彼らのメンタリティに刷り込まれてしまっている。それはお互いの正義だから、もう交わらないんです。

ただ、不完全ではあれど、一応は第2次大戦以降に世界が作ってきた国際秩序というものがあるわけじゃないですか。力による現状変更はダメだよ、他国を侵略しちゃダメだよ、占領国は非占領国の人たちのウェルビーイング、生活権利を保障しなきゃダメなんだよという、ベーシックなところに立ち返って考えることしか、方法はないかなと思います。それができるのはやっぱりアメリカや国連だったりするわけですが、いかんせん、現状では全然ダメですね。

プロパーのジャーナリストにできないことを発信したい

――今後も報道の仕事を続けていくうえで、須賀川さんが考えていることはありますか?

さきほどの話とやや矛盾しますが、見てもらってなんぼという点では、例えば、激しい映像や強い証言が入り口になることもありだと思うんです。いい記事を書いた、いいドキュメンタリーを作ったといっても、見てもらえなければ自己満足ですから。

僕で言うと『クレイジージャーニー』に出させてもらったり、XやYouTubeでフランクに発信をしていきながら、多くの人に見てもらう機会を増やせたらなと思っています。

そういう意味では、もっと真ん中を歩いているプロパーのジャーナリストたちからすると、「なんだあいつ」と思われている可能性もあるんですよね。でも、僕にとってそれはまったくどうでもいいことで、そういう人たちにできないことを自分はやっていると思っています。

ガザ境界近くの町スデロットからみる、ガザ北部の空爆

――それだけ、自分の仕事に自信を持っているんですね。

どちらかというと、目標が明確というところですかね。難民支援と紛争の早期解決につながるのであれば、その過程や形はどうでもいい。紛争をなくすことは絶対にできませんが、少なくともいまある戦争を、少しでも早く終わらせることができればなと思いながらやっています。

ウクライナ取材 南部ミコライウに撃ち込まれたクラスター弾の残骸

取材・文/森野広明 撮影/村上庄吾

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