「選挙中、候補者の事務所に電話をすると当落がわかるポイントがある」自称“選挙ジャンキーライター”が語る選挙のおもしろがり方【映画『NO選挙,NO LIFE』が話題に】
集英社オンライン / 2023年12月21日 17時1分
「参議院選挙の立候補者全員に会う」ことを目標にした畠山理仁が最も接触に苦労した候補とその理由とは……延べ300時間にわたり畠山にカメラを向けつづけた前田亜紀監督と映画『NO選挙,NO LIFE』の制作裏を語り合う。
総収録300時間!? 映画製作のこぼれ話
前田 これは本編には入らなかったんですけど、取材した2022年の参院選で特に印象に残ったのは、核融合党の桑島さんを追いかけるところです。「僕の言いたいことはポスターに書いている」と言うので、ポスターを見に行ったんですよね。ご自宅のちかくに。
畠山 行きました、行きました。電話で何度か直接お会いしたいとお願いしたんですが、頑なに固辞されました。
前田 でも、すでにポスターは、畠山さんは入手していたにもかかわらず「生ポスターを見なきゃ。それに、ご自宅の近くに行けばご本人に会えるかもしれないですから」と言い。
畠山 選挙活動を終え、帰って来られそうな時間を狙って行きましたね。
前田 だけども会うことができず、ポスターの写真を撮って帰った。
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桑島の選挙ポスターを撮る畠山(映画『NO選挙,NO LIFE』〈未公開パート〉より)
畠山 桑島さんはお医者さんで、病院の前に「選挙期間中は休診します」という張り紙を確認したんですよね。
前田 会えなくて残念でしたと言うのかと思ったら、畠山さんは「半分、ホッとしました。会うことで、とてもいい体験になることもあれば、そうじゃないこともあるでしょう」と。だから、このひとはもしかしたら、すごい人見知りなのかなと思ったんですよね。
畠山 そうですねぇ、人見知りです。選挙だから、ズケズケ聞けるというのはあります。
前田 畠山さんの取材が選挙に特化しているのは、人見知りだからというのもあるんですか?
畠山 あるでしょうね。たとえば、ふだん一回会ったくらいの人と街で出くわしたら、相手がまだ気づいていないというときに黙礼し、死角のほうに歩いていくというのはするかもしれない。
前田 えっ、それは?
畠山 「あ、こんにちは」までは言えるんですけど、選挙以外だと、このあと何を話していいんだろうか。そう思うとねぇ。選挙であれば話すことは容易いんですけど。挨拶したあと、歩きながらいったい何をしゃべればいいのか……。日常会話を続ける自信がないんですよ。
はい。だから、車の中で前田さんに聞かれもしないのにあれだけ選挙のことを話し続けたんだと思います。前田さんがどういう人なのか、まったく聞こうともせずに。
選挙は候補者に「問い合わせる」と面白い
前田 なるほど…。話を戻して、私がド肝を抜かれた話をしていいですか?
畠山 えっ、何でしょう。
前田 私たち(制作スタッフ)の間では、畠山さんは「穏やかな狂気のひと」と言われているんです。昨年の参院選は34人、候補者がいました。「この中に一人だけ、有権者とキャッチボールをしようとしない人がいます」と畠山さんが言っていたんですよね。それは、HPとかに問い合わせ窓口がまったく設けられていないという意味で。私はそういう視点で候補者を見たことがなかったので、穏やかながらも「狂気」を感じたんです。
畠山 えっ、そうですか? そもそもwebサイトをつくっていない人もいましたけど、普通、主要政党が推している候補者であれば、「みなさんの声を聞かせてください」と体裁だけでも窓口をつくるものじゃないですか。
前田 そこに気がつく畠山さんに、私はびっくりしました(笑)。
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映画『NO選挙,NO LIFE』より
畠山 実際、その候補者の街頭演説の予定を聞こうとしたときに、「あれ、どこに聞けばいいの?」と困ったんです。だけど、そうか、一般の方は問い合わせをしようとは思わないんですね。ゼッタイ、問い合わせしたほうがおもしろいのに。
前田 そうなんですか?
畠山 電話するとわかりますから。落選する人の事務所は、電話の声が暗いんです。結果が出る前から。後ろでザワザワしている事務所は活気があって、勢いがあるんですけど。
なかには「ワンルームの風呂場で受けているのかなぁ」というくらい反響する事務所があって、「はい。〇〇事務所です」と言った瞬間、間取りまで想像できてしまう。
前田 それは、畠山さんが長年、電話をかけ続けているからなんでしょうねえ。
畠山 でも、自分が聴きたくないことは聴こえなくて。家族によく怒られています。「さっき言ったのに、聴こえてないの」って。
前田 話が変わるんですけど、畠山さんは嫉妬することありますか?
畠山 しっと?
前田 たとえば、大手新聞のスター記者とかに。
畠山 うーん。「やられたなあ」というのはありますけど。たとえばルポライターの常井健一さんが中村喜四郎さんをインタビューして『無敗の男 中村喜四郎全告白』(文藝春秋)を書かれたときには「やられた!!」と思いました。でも、それは嫉妬ではなく、お見事というしかない仕事でした。
前田 その中村さんは、もともと畠山さんのほうが取材は先にされていたんですよね?
畠山 僕は2005年から中村喜四郎さんを追いかけ始めたのですが、常井さんのほうが熱い手紙を書いていたんですよね。それで常井さんに「喜四郎さん、僕のインタビューには応えてくれなかったんだけど」と言ったら、「手紙を書くときは伊東屋の便箋を使ったほうがいいですよ」というんですよね。常井さんから熱心な手紙をいただいて、というのはいろんな人から聞きますから。しかも、取材を終えてからもお礼の手紙を送っているんですよね。
前田 畠山さんは、手紙は?
畠山 (取材の)壁が厚いときには書きますね。中村喜四郎さんには、僕も手紙は書いてはいたんで。でもダメでした。
前田 「なんだよ」みたいに思うことはないんですか?
畠山 理由ははっきりしていますから。常井さんは俺より一生懸命にやったんだろうとわかるし。だから尊敬ですよね。次こそは自分が、とは思いますけども。
選挙取材の続行は宝くじにかかっている?
前田 そういえば宝くじを買ったと話されていましたよね。選挙取材をつづけるかどうかを占うんだって。
畠山 宮崎県知事選挙のあった、2022年の年末ですね。宮崎でいちばん当たりが出るという所に並んで。手持ちの3万円をぜんぶ突っ込むか、ギリギリまで迷って、買ったのはバラの6千円でした(笑)。
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映画『NO選挙,NO LIFE』(未公開パート)より
前田 映画の宣伝ポスターに「コスパ、タイパ無視」とコピーを付けたんですが、畠山さん自身、その自覚はありますか?
畠山 コスパはそうですね。ただ、「タイパ」の意味がわからなくて。調べて、その通りだと思いました。子供にも聞いたんです。「君たちは、タイパという言葉を使うか?」と聞いたら使うというから、「へえー、タイパを考えてやっているの?」と言ったら、「そらあ、そうでしょう。考えない人は、いないよ」って。
前田 話は変わりますが、畠山さんのことを、いい育ちだったんだろうねぇという人は多いですよね。
畠山 えっ、そうですか?
前田 多いです。
畠山 そうだとすると母親の影響が大きいかもしれませんねぇ。母親がクリスチャンで、僕は幼児洗礼を受けているんです。ただ、中学校のときに大喧嘩して「ぜったいクリスチャンとは名乗らないぞ」と宣言して、教会には行かなくなったんですけど。
母には、『黙殺』で開高健ノンフィクション賞をもらったときにも「あなたの賞じゃない。みなさんが取らせてくれた賞なんだよ」と言われました。妻からも同じようなことを言われています。「なんなら、私が書いたようなものなんだから」とまで言われちゃった。冗談でですけど(笑)。まあ、妻が書かせてくれたようなものなのは確かなので。
前田 なるほど。
畠山 選挙取材は本当に勉強になります。ある候補の方と出会って初めて「ノブレス・オブリージュ」という言葉を知ったんです。何だろうと調べると、開高健も同じことを言っていて。
社会的地位の高いものは、それに応じて果たさなければいけない責任と義務があるという意味らしいです。欧米社会に浸透している道徳観で、「かっこいいなぁ。いつかは自分も」と思いました。でも、自分は一向に金持ちにならない(笑)。
前田 なりそうには思えないですね。
畠山 それでも、頑張っている人のクラウドファウンディングを見て、お金を入れたりもしているんですよね。家族もそれをやめろとは言わないし、妻も「〇〇に寄付していいですか」と聞いてくる人なので、そこはよかったと思っています。神様がいるなら、そろそろ宝くじを当ててくれてもよさそうじゃないですか。だけど、なんで当たらないんだろうとは思いますよねえ。
構成/朝山実
『NO選挙,NO LIFE』(前田亜紀監督)は、東京・ポレポレ東中野ほか全国ロードショー公開中
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コロナ時代の選挙漫遊記
畠山 理仁
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2021年10月5日発売
1,760円(税込)
四六判/304ページ
978-4-08-788067-0
選挙取材歴20年以上! 『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で第15回開高健ノンフィクション賞を受賞した著者による”楽しくてタメになる”選挙エッセイ。
2020年3月の熊本県知事選挙から2021年8月の横浜市長選挙まで、新型コロナウイルス禍に行われた全国15の選挙を、著者ならではの信念と視点をもって丹念に取材した現地ルポ。「NHKが出口調査をしない」「エア・ハイタッチ」「幻の選挙カー」など、コロナ禍だから生まれた選挙ワードから、「選挙モンスター河村たかし」「スーパークレイジー君」「ふたりの田中けん」など、多彩すぎる候補者たちも多数登場!
<掲載される選挙一覧>
熊本県知事選挙/衆議院静岡4区補欠選挙/東京都知事選挙/鹿児島県知事選挙/富山県知事選挙/大阪市住民投票/古河市長選挙/戸田市議会議員選挙/千葉県知事選挙/名古屋市長選挙/参議院広島県選出議員再選挙/静岡県知事選挙/東京都議会議員選挙/兵庫県知事選挙/横浜市長選挙
黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い
畠山 理仁
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2023/12/20084405167791/400/mokusatsu_syoei.jpg)
2019年11月20日発売
924円(税込)
文庫判/376ページ
978-4-08-744049-2
落選また落選! 供託金没収! それでもくじけずに再挑戦!
選挙の魔力に取り憑かれた泡沫候補(=無頼系独立候補)たちの「独自の戦い」を追い続けた20年間の記録。
候補者全員にドラマがある。各々が熱い思いで工夫をこらし、独自の選挙を戦っている。何度選挙に敗れても、また新たな戦いに挑む底抜けに明るい候補者たち。そんな彼・彼女らの人生を追いかけた記録である。
2017年 第15回 開高健ノンフィクション賞受賞作
【目次】
第一章/今、日本で最も有名な「無頼系独立候補」、スマイル党総裁・マック赤坂への10年に及ぶ密着取材報告。
第二章/公職選挙法の問題、大手メディアの姿勢など、〝平等"な選挙が行なわれない理由と、それに対して著者が実践したアイデアとは。
第三章/2016年東京都知事選挙における「主要3候補以外の18候補」の戦いをレポート。
【選考委員、大絶賛! 】
キワモノ扱いされる「無頼系独立候補」たちの、何と個性的で、ひたむきで、そして人間的なことか。――姜尚中氏(政治学者)
民主主義とメディアについて、今までとは別の観点で考えさせられる。何より、作品として実に面白い。――田中優子氏(法政大学総長)
ただただ、人であることの愛おしさと愚かさを描いた人間讃歌である。――藤沢 周氏(作家・法政大学教授)
著者の差し出した時代を映す「鏡」に、思わず身が引き締まる。――茂木健一郎氏(脳科学者)
日本の選挙報道が、まったくフェアではないことは同感。変えるべきとの意見も賛成。――森 達也氏(映画監督・作家)
(選評より・五十音順)
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