今の50代が10代の頃に一度だけ経験したインフレ到来…物価の上昇に、賃金も金利も年金も一切追いつかない、日本国民が貧乏になる未来
集英社オンライン / 2024年1月4日 7時1分
42年ぶりのインフレ、33年ぶりの円安。資産価値の目減りを防ぐためにもこれからは資産運用が必須となる。だが、そう言われてもピンとこない50代以上の人は正直多いはずだ。しかし投資は若い人にだけ必要な知識ではない。50代から安定的に資産を増やす方法をまとめた『投資のプロが明かす 私が50歳なら、こう増やす!』より、まずいま日本が置かれている状況を一部抜粋・再構成して解説する。
物価上昇が続くこれだけの理由
デフレは30年近く続いてきましたから、みなさんの中には「インフレだと騒ぐ声もあるけれど、物価上昇はいっときのことで、本格的なインフレにはならないのでは?」と思っている方もいるかもしれません。
たしかに物価が一方的に上がり続けるとは限りませんが、私は大きな時代の流れとして日本がデフレからインフレに移っており、物価上昇基調は継続すると考えています。
図7をご覧ください。これは日本の消費者物価指数(総合)の推移を示したものです。
すでに2022年12月の段階で、生鮮食品を除く総合指数が4.0%(前年同月比)の上昇となりました。
このような物価の動きは、41年ぶりですが、つまり、現在50代の方が10歳くらいのころ以来だということです。
私自身も41年前は16歳でしたから、大人になってからはみなさんと同様、ずっとデフレ時代を生きてきました。
つまり、いまの日本は多くの人にとって「未経験のゾーン」に入ったといっていいのです。このような物価の上昇が今後も続くと考えられる理由の1つは、人手不足です。
日本は少子高齢化が進み、最近はさまざまな業界で深刻な人手不足が生じているというニュースを目にすることが多くなりました。
絶対的に人手が足りない中で人材を確保しようとすれば、企業側はそれなりに賃金を上げていかざるを得ません。これは企業にとっては重いコストとなり、企業が提供するさまざまな物やサービスの価格上昇につながります。
地政学上の問題も、物価上昇に直結します。
東西冷戦の時代から米中新冷戦の時代へと世界の対立構造が変化する中、「産業のコメ」とも呼ばれる半導体の製造拠点を中国から移転させる動きが加速しています。
経済安全保障上は必要な対応ですが、これがさまざまな製品のコストアップ要因になることは、間違いありません。
気候変動も、物価上昇の要因となります。
日本では気候変動の直接的な被害を実感することはまだ少ないかもしれませんが、欧米を中心に、世界ではすでに気候変動が引き起こしていると見られる大規模な災害が多発しています。グローバルな視点で見ると、気候変動に対する危機感は切迫したものだといっていいでしょう。
もちろん再生可能エネルギーへのシフトは一朝一夕には進みませんが、世界各国が二酸化炭素排出削減を目指すことは必須となっています。
そしてこれは、化石燃料の長期的な需要減少が避けられないことを意味します。
化石燃料の生産に新たな設備投資をしようという企業は多くなく、このような事情を背景として、化石燃料の価格上昇は中長期的に続くことになりそうです。
物価上昇の根拠をいくつかご紹介しましたが、こうしたさまざまな構造的要因を考え合わせると、私はそう簡単にデフレ基調に戻ることはないのではないかと思います。
物価上昇に、
賃金や金利が追いつかない
物価が上昇する中、最近は給料を引き上げるというニュースもよく目にします。物価上昇と同じくらい賃金がアップすれば、日々の生活にはあまり影響はないかもしれません。
しかし、たとえば賃金が3%上がったとしても、物価が5%上昇すれば、実質的には賃金が下がることになります。
では、実際はどうでしょか?
図8は、実際に受け取る金額を表す「名目賃金」から物価変動の影響を差し引いて算出する「実質賃金」がどのように推移しているのかを示したものです。
このグラフを見ていただくとわかるとおり、残念ながら賃金上昇はインフレにまったく追いついておらず、実質賃金は下落が続いています。
先ほどご説明したように、いまは人手不足ですから、今後は賃金を上げざるを得なくなる企業が増えてくると考えられます。
いずれは実質賃金がプラスになることもあるかもしれません。しかし、大企業はそれなりに賃金を引き上げることができても、中小企業の中にはなかなか賃上げに踏み切れないところも多いのではないかと思います。
「自分の勤務先では賃上げは望めない」と感じるのであれば、物価上昇の影響をもろに受けることになりますから、今後のマネープランについてはいままで以上に真剣に考える必要があります。
もう1つ、物価上昇にともなって注目したいのが、金利の動向です。
インフレになると預貯金の価値が下がるとご説明しましたが、もしインフレに負けないくらい預金金利がつくなら、資産の価値は守られることになります。
これも実際にどのような状況になっているのか、データを見てみましょう(図9)。
金利の基準となる「10年国債の利回り」から「物価上昇率(消費者物価指数)」を差し引いた「実質金利」の推移を見ると、近年はほぼマイナスで推移していることがわかります。
つまり、いま現在も私たちの預貯金の価値は目減りしているということです。
一般的に、インフレが過熱した場合、中央銀行は金利を引き上げるのが定石です。これは、金利が上がると、高い金利で資金を調達しなければならなくなった金融機関が企業や個人に貸し出す金利も引き上げるからです。
お金が借りにくくなると、企業が借金して設備投資をするのをやめたり、個人がローンを組んで家や車を買うのをやめたりします。すると景気が下向きになり、物価が下がる方向に進むわけです。
では、今後の日本で、インフレに伴って金利が引き上げられることはあるのでしょうか?
私は、金利引き上げにはあまり期待できないと思っています。というのも、いまの日本の政府には「金利を上げたくない理由」があるからです。
まず、金利が上がると借金を返済する際の金利負担が重くなります。いま国には1270兆円もの借金があり、借金なしではやっていけない状況です。
金利が上がると、莫大な借金に対する金利も上がってしまい大変なことになるので、金利上昇はなんとかして避けたいはずです。
一方で、インフレになれば物価上昇に伴って自然に税収がアップするので、借金の負担は目減りします。つまり、国が莫大な借金を返済するためには、インフレが続く中で金利を低いままにしておくのが得策だということになります。
しかし、預金金利がまったく上がらず、物やサービスの値段が上がるということは、私たちにとっては非常に不利な話です。このような状況を「金融抑圧」といいますが、誰が抑圧されているのかというと、私たち国民が抑圧されているわけです。
インフレでお金の価値が下落して国の借金の負担が減ることは、「インフレ税」と呼ばれます。
インフレが起きても、私たちはさほど騒ぎません。フランスなどでは暴動が起きたりしていますが、そもそも日本では物価が上がるという経験をしたことがない人が多く、デモが起きる気配はありません。
これが、もし消費税の話なら、1%でも上がるとなれば大騒ぎになるはずですから、政府にとって「インフレ税」は恩恵が非常に大きいといえるでしょう。
物価の上昇に、賃金も金利も追いつかないというのは、私たち国民にとって非常に過酷な状況なのです。
老後の年金も、
インフレ以上には増えない
もう1つ知っておかなければならないのは、インフレによって私たちが将来受け取る年金額がどのような影響を受けるかについてです。
物価が上昇した場合、年金額が同じくらい引き上げられなければ、実質的に年金の価値は減ってしまうことになります。
では、実際はどうなるのでしょうか?
年金額は毎年、賃金や物価の変動率を基準に改定されています。現役世代の賃金や物価が上昇すれば、ある程度は年金額もアップするのです。
しかし2004年の年金制度改正では、物価や賃金の上昇をそのまま年金額に反映しない「マクロ経済スライド」という仕組みが導入されています。年金制度を維持することを目的に導入されたこの仕組みがあるため、インフレになっても、物価上昇をカバーするほどには、年金額は上がりません。
つまり、年金もインフレには勝てないことが確定しているわけです。
図/書籍より
写真/shutterstock
投資のプロが明かす 私が50歳なら、こう増やす!(幻冬舎刊)
朝倉智也
11月29日発売
990円
192ページ
978-4344987111
「50代で投資を始めるのは遅いのではないか」と思っている人が多いようだが「今ほど低コストで良質な金融商品が揃ったことはなく、生活に余裕の出てくる50代こそチャンス」と著者はいう。だが実際に始めようと思っても、どれくらいの額をどれくらいの期間で運用すべきか迷う人もいるだろう。そこで本書では、著者が自らを「50歳の投資未経験者」と想定して、いかなるマインドセットで、何にどう投資するかを具体的に開陳。何もしなければ資産が減るという未曽有のインフレ時代に、余裕のある老後を迎えるための知恵を凝縮した一冊。
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