「人が死んでいる!頭血出てる!うめきが聞こえる…」西成出身のラッパーSHINGO★と歩く「今回人間で生まれたから、人間ムキ出しで生きたいから」《西成さんぽ》
集英社オンライン / 2023年12月24日 17時1分
本記事のタイトルの言葉はSHINGO★西成の楽曲『ゲットーの歌です(こんなんどうDeath?)』のコーラスで、西成で生きるという悲哀のこもった現実をコミカルに歌った歌詞だ。SHINGO曰く「この10年ほどは路上ひったくりも、あちこちにいた覚醒剤の密売人も、とんと見かけなくなりましたね。防犯カメラが増えたからですかね」と言う。付近に高級ホテル「星野リゾート」もオープンし、街の変化を感じる。しかし西成は西成。いまだディープな街の風景をSHINGOが案内してくれた。
吸ったタバコの吸い殻は灰皿ではなく床に
SHINGOがインタビューに指定した場所は「コーヒーショップ伊吹」。道路の向かいには「スーパー玉出」が見える。縦長の店内で、吸ったタバコの吸い殻は灰皿ではなく床に落とす独特な作法の喫茶店だ。
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ラッパー・SHINGO★西成
「俺の実家はこの伊吹側のほうにあって、ガキのころはこの伊吹の向こうの玉出側に渡るのがちょっとした冒険やった」とSHINGO。このコーヒーショップの窓から見える地元の景色と濃い濃いコーヒーがお気に入りで昔から通う。
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昔ながらの「コーヒーショップ伊吹」
「濃いコーヒーに今どき珍しい白い角砂糖つき、やろ。ここは『ここから…いまから』のジャケットを撮影した場所でもあります。あの日、ジャケット用にたっかい革ジャン買って用意してたんやけど、炊き出し終わった後、カメラマンと“今日撮っちゃおうか”みたいな話になって、炊き出し終わりのラフな格好で。でも結果、それがよかったんですけど」
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フーッと煙を吐きながら「あかん、いま完全に家でまったりした顔してた」
「じゃ、ほな、少し歩きまひょか」と外へ。
「SHINGOの西成さんぽ」の始まりです。
「近所のおっちゃんに習った、ここではこうして生きなさい」
まずは「スーパー玉出」。関西の台所として有名なこのスーパーは、野菜に肉に魚にお惣菜から何から何までなぜか安い。「MCハマー。スーパー玉〜、や。朝まで〜スーパー玉出〜しょーもないコト気にせんでかまへんかまへん〜玉出〜にカマゲン! 24時間営業」
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大阪を代表する唯一無二の格安スーパー玉出
お次はSHINGOが中高時代から通うゲーセン「ポパイ」。
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「タッチパネルや画面表示じゃなく、ベット枚数が電卓のようなデジタル表示だし、馬はCGじゃなく模型の馬が走る古めかしい台でしょ。これ俺が中高生くらいのころからあって、周りはみんな40、50のおっちゃんがゲームとはいえ真剣に興じてて、なんつうか鉄火場みたいな危うさで。ぎょうさんお客さんいたのでオレはおっちゃんがスッといなくなったときに、ようやく中で動く馬を眺める、そんな感じやった」
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西成にはSHINGO★西成の楽曲のジャケットで見る風景が溢れている。ここはシングル『To Be With You』で見られる西成らしい街角だ。
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「あの曲は『大切を大切にする気持ちを大切に』シンプルなこと言ってる歌でしょ。ちょうどコロナ禍で出した歌でした。俺は歌詞を書くときはいつもなんかの紙の切れ端に書いてまとめて。それをクリアファイルみたいなのに入れて溜めて、言葉を繋いでいくんです。このメモ書きでメモする癖は、今年で92歳になったオカンとのメモ書きのやり取りの習慣からなんですよね」
今年8月に朝日新聞で受けたインタビューでは、このオカンとのメモ書きのやり取りのことをこう答えていた。
〈週2回ほど、便箋(びんせん)やチラシの裏に書かれたオカンの手紙がこたつ机の上に置かれるようになったのは、小学校に入った後からだろうか。《ナシが冷やしてあります。食べて下さい》。そんな書き置きもあれば、《よき友であればお互いに話合ふべきです。がまんする時はがまんし、話合ふ時はとことんまで。お互いにわかるまでね》といったアドバイスも〉
「鳩に餌やるな!」って怒鳴ったおっちゃんの肩に鳩が止まって(笑)
SHINGOは自分が生まれ育ち、今も暮らす西成の街づくりにも率先して動く。西成の街をカラフルに彩るグラフィティプロジェクト「西成WAN(ウォールアートニッポン)」もそのひとつだ。
「これは俺が総合プロデューサーを務めさせてもらったもので、スペインやサンディエゴなど世界中のアーティストさんや阪南大学さん、南海電鉄さんなどにも協力してもらった、西成発のグラフィティアートプロジェクトです。ここではおもろいおっちゃんに遭遇するのと同じ確率でアートな風景に遭遇するんです。セピア色の街を彩ろうという想いの元です。でもそれも、2007年に亡くなった仲間のTERRYから“アートはスゲエ”と教えてもらったから」
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そしてここが西成署から100メートルほど南に位置する萩ノ茶屋南公園、通称「三角公園」だ。釜ヶ崎地区の住民の拠点とも呼ばれる場所で、SHINGOはここで何年も炊き出し活動を行ってきた。
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「ここでは俺が毎年夏にやってる“米カンパライブ”も何度かしてきました。いろんな所でライブしてきたけど、ここでライブするときが一番緊張するし興奮する。今朝もね、自分のガキを小学校に送り出すときは曇りなこともあってか、おっちゃんらがみんな不機嫌で“鳩に餌やるな!”って怒鳴って、その怒鳴ったおっちゃんの肩に鳩が止まって“おお、止まるんか、この鳩は”ってショートコントみたいな騒ぎを見て、今こうして数時間後に戻ってきたら…天気もよくなったからか、なんかおっちゃんらの顔が柔らかいっすね。こんなおもろい公園、他にないやろ」
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そして、かの有名な「旧あいりん総合センター」。約半世紀にわたり労働者を支えてきたこの街のシンボル的な複合施設で、主に労働福祉に関するさまざまな課題に対応してきた。そのセンターの建て替え計画が出て約4年。路上生活者が「建て替え後の具体像が示されていない」と反発し建物前の占拠を続けている。
自分の幸せは周りの幸せから
「この前を高校のときも通学路で通ってましたよ。ガキのころは、ここら辺で寝てる労働者に毛布やおにぎりを配る活動を近所のガキと一緒にやったんですけど、そのときの掛け声が“わっしょい、わっしょい”なんですよ。神輿担いでもないのに“わっしょい”って。シュールやろ。なに担いでんねん。でもね“わっしょい”には、行き倒れそうな人らの気持ちを持ち上げるような、そういう意味もあるんやろ」
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散歩の終わりを締めくくるのは、甘味処「ハマや」。南海線の萩之茶屋駅ガード下のこの店は、昭和の漫画『じゃりン子チエ』のテツがデートに使っていた喫茶店のモデルとなった店とも言われている。
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「ここのぜんざいが大好きでねー。熱々なんですわ。だから俺はいつも、この餅を箸でのばして熱を分散させてから食べるんですわ。甘党な人には、ぜんざいとミックスジュースの組み合わせがおすすめです。ジュースがさっぱりしててお口直しにピッタリなんですわ」
最後は、SHINGO自身も幼少期にお世話になったという児童施設「こどもの里」へ。
「今日は息子とここで小学校帰りに待ち合わせしてるんです。俺もここにメンコ遊びに来たし、息子もここで宿題やったり遊んだり。親子二代でお世話になってます」
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最後に、自身のアーティスト名にまでして背負う西成の街で活動し続けるのはなぜかも聞いた。
「使命なんて言ってられないですけど、せっかく、今回人間で生まれたから、人間ムキ出しで生きたいからです。いまだおっちゃんの歌や夜中1時に聞こえてくるテレサテンの音楽に溢れて、朝怒ってたおっちゃんが昼には笑ってる、みんな、地元LOVEやろ、人間LOVEやろ、の精神を忘れないで生きてれば救える命があると信じて2024年も生きていきたいねん。」
自分の幸せは周りの幸せからという考え方で誰もが生きていけば、世の中はいい方向に向かっていくはずなのに。みんな、地元LOVEやろ、の精神を忘れないで2024年も生きていきたい。
取材・文/河合桃子 撮影/高木陽春
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