VR空間に3Dアートを描く、VRアーティストとして活動するせきぐち。Googleが開発してオープンソース化したVR用ペイントソフト「Tilt Brush」を駆使して描く、独特な世界観を持つ作品が人気を博している。
2021年3月には、NFTアート作品「Alternate dimension 幻想絢爛」を、世界的に有名なNFTマーケットプレイスである「OpenSea」に出品。当時の暗号資産のレートで約1300万円という高額で落札され、メディアでも大きく取り上げられた。自身の作品の価値が青天井のごとく上がっていく瞬間を、せきぐちは「ドキドキして、信じられなかったですね」と振り返り、その裏側を明かした。
バーチャル神社で約1,200万円が流通! せきぐちあいみが実感する、NFTで成功する条件とは
集英社オンライン / 2022年5月29日 14時1分
昨今、世界中で大きな注目を集める「NFT」。それを活用して、さらなる飛躍をしようと挑戦する1人のVRアーティストがいる。それが、せきぐちあいみだ。昨年、メディアでも大きく取り上げられた自身のVRアートの落札を皮切りに、せきぐちは様々なNFTプロジェクトを手掛けている。今回は、せきぐちが感じた「NFTで成功する条件」に迫った。
「Twitterの創業者であるジャック・ドーシーのツイートのNFTが約3億円で落札されたというニュースを見て、出品を決めました。その後、SNSで信用できる方から方法を教えてもらうなど、2日ほど勉強して出品できました」
デジタルデータを改ざん不可能にするブロックチェーン技術の活用によって、「電子上に存在している一点物の芸術作品」と証明できるようになったNFTアートには昨今、世界的に大きな注目が集まっている。高額落札で話題を呼んだ「Alternate dimension 幻想絢爛」も、一点ものの限定品。それまで企業からの制作依頼やライブイベントの出演による活動が主だったせきぐちにとって、最初のNFT作品であり、新たな挑戦の始まりでもあった。
「Alternate dimension 幻想絢爛」の成功体験を踏まえ、せきぐちはNFTアートを活用する様々なプロジェクトを立ち上げている。
その1つが「Crypto Zinja」だ。イメージとしては、京都・伏見稲荷大社にズラリと並ぶ、奉納した個人名や社名が刻まれた「千本鳥居」が、バーチャル上で再現されるといったところか。ヘッドマウントディスプレイを装着してCrypto Zinjaに入ると、その鳥居をくぐることもできる。
https://conata.world/zinja より引用
「メタバース空間にウェブからアクセスしたら誰でも入れる神社を建立して、メタバースの神社内にある鳥居に名前を刻む権利をNFTにしています。複数ある小さな鳥居は定額で権利を販売して、大きな鳥居についてはオークションで権利を購入できる方を決定しました」
このアイデアが浮かんだのは、2021年の年の瀬だったという。そこからブロックチェーンエンジニアとXRクリエイター、せきぐちがタッグを組みNFT化を進めた。その間、およそ3ヶ月ほど。短期間で出品にこぎつけたように見えるが、せきぐちからすると「もう遠い昔の話に感じる」という。それだけNFTの世界は変化が激しく、まさに加速度的に進化しているようだ。
Crypto Zinjaでは、NFTの落札や鳥居に名前を刻む権利の譲渡など通じて、当時のレートで約1,200万円ほどの流通が発生しているという。さらに、“Osaisen”というお布施も可能に。そのポテンシャルに着目した、現存する有名神社とのコラボレーションも決定しているというから驚きだ。
さらに、せきぐちはCrypto Zinjaを通じてもう1つチャレンジしていることがある。それが「DAO」による組織運営だ。
DAOはDecentralized Autonomous Organizationの略称で、日本語では「分散型自律組織」と呼ばれている。ブロックチェーンを活用した新たな組織運営の形として注目を集めているが、実際に機能している例はまだ少ない。
具体的にDAOで組織を運営するとどのようなメリットがあるのか。せきぐちは、こう説明する。
「ブロックチェーンを用いることで、個々人に対する収益の分配は事前に決めた比率に従って自動で行えます。また事前に分配率を決めておくことで、後々揉めるリスクもほぼないでしょう」
せきぐちの場合、Crypto Zinjaのロイヤリティは自身とXRクリエイター、ブロックチェーンエンジニアの3者で予め決めた比率に従って分けている。今後新たに立ち上げるプロジェクトについては、海外向けの広報担当者を交えることも検討しているそうだ。
Crypto Zinja以外に、せきぐちはあるNFTプロジェクトを紹介してくれた。それは東日本大震災の被災地であり、今も復興への道を歩む南相馬市へのチャリティだ。
「今、ウクライナへの支援をNFTを通じて行おうという動きが活発になっていますが、このようなチャリティとNFTはとても相性がいいと思います。国や地域ごとに異なる法定通貨ではなく、イーサリアムという暗号通貨があれば場所にとらわれず相手を支援できる。これは大きなことだと思います」
一方で、せきぐちはNFTをチャリティに活用する上で大きな問題にぶち当たったという。それは、暗号資産の値動きの激しさだ。南相馬市のチャリティイベントを行った際は、イーサリアムの価値が大きく下がっていた時期。「もし価値が上がっている時期にチャリティイベントができれば、もっと貢献できた」とその難しさも口にした。自治体などを巻き込んだイベントは、イーサリアムの価値下落を理由に延期するなどはできない。企業などがNFTを用いてビジネスを展開する上で、クリアすべき課題になるだろう。
お金だけ見ていたら、失敗する
神社やチャリティ、せきぐちは一見するとビジネスから遠く離れた分野でNFTの活用を模索している。何かとお金のことが話題になりがちなNFTにおいて、異色のようにも見える。
しかし、そこにはある真意があった。
「10年以上前からYouTuberとしても活動していますが、お金儲けだけしか考えずにYouTubeに参入した人たちは、ほぼ例外なく失敗して消えています。NFTもお金だけに目を向けている人は、いずれ消えていくでしょう」
NFTがブームになるにつれ、それにまつわる詐欺も増えているという。改ざん不可能で、かつ取引の履歴も全て残るブロックチェーンを活用したNFTでこのようなことが起こるのは何とも皮肉だが、お金の臭いがするところに怪しい人間が群れるのは世の常でもある。
しかし、せきぐちはあくまで一過性のことになるのではないかと見ている。そして、自戒を込めてこう語る。
「近江商人は三方よし(買い手、売り手、世間が利益を享受できる)ですが、私は『七方よし』くらいを意識してNFTのプロジェクトに向き合いたい。それがNFTで成功する条件になるのではないでしょうか」
VRやNFTを巡る動きは日進月歩で進んでいる。かつてGAFAが台頭して、Web2.0と呼ばれる時代が到来したように、近い将来、ブロックチェーン技術などを用いたデータの分散管理が実現される「Web3.0」の時代が訪れるのではないかとの期待が膨らんでいる。一体、Web3.0はどんな時代になるのかーー。1人のアーティストの活動から、その一端が見えてくる。
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