19歳のときに通り魔事件で同級生を亡くした人気漫画家の未成年時代…「漫画を描くのって苦しいので、行き詰まるともうやめちゃおうかなって今でもふと思うけど…」
集英社オンライン / 2024年1月8日 11時0分
〈同級生が描いた漫画にまっすぐ目を見て「つまらないね」…「それで完全に嫌われてしまって」漫画家・榎屋克優がトガりまくっていた20歳のころ〉から続く
漫画『日々ロック』の作者で現在『ブルーブルーそしてブルース』(双葉社)を連載中の漫画家・榎屋克優さん。いくつかの新人漫画賞を受賞し、順調に漫画家デビューへの道を歩んでいた19歳のころ、大学の同級生が通り魔に襲われて死亡するという事件が起きる。あれから17年、夢だった漫画家になった榎屋さんは今も事件を忘れたことはない。
漫画を描いているときだけは、人の気持ちを考えられる
――京都精華大学の在学中に友人だった同級生が巻き込まれた事件について、漫画化して命日であるこの時期に公開されていますよね。
榎屋克優(以下、同) あれは僕が19歳のころで、事件があったのは2007年1月15日でした。同級生の千葉大作くんという子が、学校のすぐそばで通り魔にあったんです。千葉くんは入学当初から僕に声をかけてくれて、作品を見せあうようなこともしていたのでショックでしたね。
すごくいいやつだったんですよ。僕なんかはイヤなやつなので、いいやつにおもしろい漫画を描かれたらもう太刀打ちできないじゃん、と思ってて。「漫画じゃ負けねえぞ」と、勝手にライバル視してました。
――その事件後、先生の作品づくりにも何か影響はありましたか?
命についてよく考えるようになりました。あの日、千葉くんは最後まで授業を受けていて、その帰り道に通り魔にあったんです。僕も同じ授業を取っていたんですが、途中で帰っちゃってた。ちょっとしたかけ違いで何が起こるかわからないし、真面目な彼がそんなめにあって不真面目な僕が無事なんて救いがないですよ。
漫画を描くのって苦しいので、行き詰まるともうやめちゃおうかなって今でもふと思うんです。パン職人に転職しようかな、とか。でも、千葉くんはもう描きたくても描けないんだと。僕はまだ生きているんだから描けるなって、背中を押してもらっています。
――1月15日が千葉さんの命日ですよね。
もう17年前の事件なんですが、まだ犯人が捕まっていません。なので何か気づいたこと、知っていること、思い出したことがあれば警察に情報を寄せてほしいです。時効もなくなっているので。
――漫画に音楽に、そしてご友人が巻き込まれた事件にと20歳前後でさまざまな経験をされていますが、当時から現在まで、先生の中で変わらないものはありますか?
うーん。難しいですけど、人間がそこまで好きじゃないってことですかね。
――でも先生の漫画は、人間の底力というか、虐げられた人間の輝きを描いているものが多いですよね。
たしかに…なんでだろう(笑)。漫画を描いているときだけは、人の気持ちを考えられるのかなあ。だから漫画を描いてるのかも。
コレもダメだろうなあと思って送った『日々ロック』
――ご結婚も24歳のときと、わりと早めですよね。
そうですね。まあいい人だったんでいいかなと思って結婚しました(笑)。もうちょっと遊んでおけばよかったなあと思っていたころもありますけど、子どもいて幸せです。樹木希林さんが言っていたんですよ。「結婚なんて、若くて判断力がないときじゃないとできない」って。
幸せとか安らぎとかいい面はぼやっとしてて、悪いところははっきりしてるから結婚て悪く映りがちなんですよね。年齢を重ねると悪いところばかり見えて、決断できなくなっちゃう。なので、早めに結婚するのはおすすめです。
――話は大学生時代のころに戻ります。18歳、19歳と立て続けにヤングジャンプで賞を獲得し、順調な漫画家人生かと思うのですが、当時ご自分ではどう思っていましたか?
本気で"遅い”と思っていました。高校生でプロになって、映画化も果たしてというのが目標だったので。あと、千葉くんの事件で死が身近になっていたこともあって、焦りもありましたね。そんな中、野球とか、木の精霊とか、ロボットとか、いろいろなテーマで連載に向けたネームを描いたんですけど、どれもおもしろくなかったです。多分、連載したいがために漫画を描いていたからダメだったんだと思います。
――初連載作となる『日々ロック』はどのように生まれたのでしょうか。
音楽は好きだったんですが、それを漫画にする気は全然ありませんでした。音楽と漫画の相性って悪いと聞いていましたし、それは僕も思っていたので。でもネタ切れで困り、捻り出すように描いたのが『日々ロック』の読切版です。日々沼なんて、5分でできたキャラクターですよ。コレもダメだろうなあと思ったけど、一応担当の編集者に送ったら、まさかの反応がいいという。読切として載って、その後3話分の連載用のネームも描くことになりました。
――ということは、読切の評判がよかったんですね。
よくなかったと思います。いや、よくないって言われました(笑)。女の子はかわいくないし、ギターもパンみたいだし(笑)。
少しくらい他人に迷惑かけても、好きなことをやるべき
――そうなんですね! 先生自身、描いていて感触はどうでしたか?
読切を描いたときは全然ノッてなかったんですが、連載用のネームは結構おもしろく描けたなと思ってましたね。でも、連載化しても正直人気はなかった(笑)。
――とはいえ6巻まで続き、映画化も果たしていますよね。
最初は1巻で終わる予定だったんですが、ファンレターが8通も届いたんです。少年誌と違って青年誌の漫画にファンレターが来るのって珍しいので、編集部もおもしろがってくれたみたいで。しかも、そのうちの1つは作中歌に曲をつけた自作CDでした。
「日々ロック最高!」ってでっかい文字と日々沼が何かを突き破っているイラストが添えられてて、小学生からの手紙か?って(笑)。でもすごくうれしかったですね。その後も基本的に人気はなかったけど、そんな一部からの反響と編集部内での好評があって続いていきました。
――トントン拍子というわけではなかったのですね。20歳ごろのご自身に、今何か伝えたいことはありますか?
もう少し絵の勉強をしておきなよって言いたいです。雑誌に載るまで、なぜか自分は絵がめちゃくちゃ上手いと思っていたんですが、載ってみてあれ?って気づいたんですよね(笑)。俺の絵、なんか変だぞ!と。しかも、『日々ロック』の連載がはじまったとき、ネットの掲示板に「ヤングジャンプでモーニングが実験的に載せそうなクソ漫画はじまる」って書かれていて(笑)。
ショックというより、めちゃくちゃいいパンチラインだなと思ったのを覚えています。今も空で言えるくらいですしね(笑)。それにしても、モーニングにも失礼だなこれ。
――人生の岐路に立つ20代前後の若者たちに、何かアドバイスをもらえますでしょうか。
そんな大層な人間ではないんですが…。最近、人に迷惑をかけるなってよく聞きますけど、僕は多少はかけてもいいと思っています。僕自身、かけまくってきた人ですし。少しくらい迷惑かけて、好きなこと、やりたいことをやるべきです。そもそも、100%誰にも迷惑かけないなんて無理な話なんで。ちょっとくらい、いいんですよ。
《前編》はこちら
《前編》同級生が描いた漫画にまっすぐ目を見て「つまらないね」…それで完全に嫌われてしまって…漫画家・榎屋克優がトガりまくっていた20歳のころ
京都精華大学の同級生・千葉くんの命日に書かれた漫画を読む
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取材・文/関口大起 写真/井上たろう
〈元19(ジューク)・岩瀬敬吾「売れるのはわかってました。生意気ですよね(笑)」解散にもつながる20歳のころのカン違いと違和感の正体〉へ続く
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