2022年2月、北京五輪のマスコット「ビンドゥンドゥン」を手にして、口角を上げ、目を細める坂本花織(22歳、シスメックス)の写真が、ウェブやスポーツ紙面を占拠した。
「(順位決定後も)3位って認識できないほど、とにかくびっくりしすぎて。うれしい以外、言葉が出てこない」
坂本は御利益がありそうなほど満面の笑みで、そう振り返った。女子シングル、世界を席巻していた最強ロシア勢の一角を崩し、下馬評を覆して表彰台に立っている。浅田真央以来、12年ぶりのメダルだ。
トリプルアクセルも、4回転ジャンプも跳ばない坂本が、なぜメダルを取ることができたのか? その理由に迫ることで、坂本というフィギュアスケーターの肖像が見えるはずだ――。