トランプ前米大統領がうごめいている。テレビやSNSの世界で、ではない。リアルな政治の場においてだ。2年後の大統領選挙への立候補を正式に表明したわけではないが、出馬に向けて着々と外堀の基礎工事を始めていると言っても過言ではない。
その戦略は今年11月の中間選挙で自らの息のかかった議員を一人でも多く当選させ、共和党内に“トランプ議連もどき”を作るというもの。その熱心さは、共和党を「トランプ党」に変貌させたいのではと思ってしまうほどだ。
トランプ氏の最大の武器は、支持者を中心に、いまだ根強い人気があること。今秋の本選挙を控え、党の公認候補になるための予備選挙がすでに全米各州で始まっているが、ここでトランプ氏の推薦を得られれば、候補者は圧倒的に優位に予備選挙を戦えるのだ。すでにその“恩恵”を受けた共和党候補者は150人に上る。
「ドナルド・トランプ第45代米大統領には、絶対、お礼の言葉を述べなければならない」
オハイオ州共和党上院議員候補の座を勝ちとった、作家でベンチャー資本家のJ.D. ヴァンス氏が、シンシナティで支持者を前に、こう仁義を切ったのは5月3日(日本時間4日)のことだった。
ヴァンス候補は予備選ではずっと3番手の位置に甘んじていた。それが4月15日にトランプ氏の推薦を受けるとトランプ支持者を中心に支持を集め、一気にトップに躍り出たのだ。
オハイオ州の上院予備選は全米でも注目の選挙区として知られるが、その理由はふたつある。
ひとつは場所柄だ。1964年以来、オハイオ州で勝利した大統領候補者は常にホワイトハウスの住人となっている。そのため、オハイオ州は”bellwether state”(大統領当選者を占う指標となる州)という特別な地位を与えられてきたのだ。
前回の大統領選でオハイオ州を落としたバイデン候補が当選したことで、そのパターンは途切れてしまったものの、全米屈指の激戦州(swing state)として、いまもその支持動向は注目の的となっている。