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〈野田サトルの2024年〉『ゴールデンカムイ』完結のあと、なぜデビュー作のリメイク『ドッグスレッド』に挑んだのか「連載を追って損はないと思います」

集英社オンライン / 2024年1月2日 11時1分

数々の漫画賞を受賞し、連載終了後も多くのファンを魅了し続ける漫画『ゴールデンカムイ』が1月19日からついに実写映画化される。現在、作者の野田サトル氏は「週刊ヤングジャンプ」にてアイスホッケー漫画『ドッグスレッド』を連載中だ。新作にかける並々ならぬ情熱に迫る。(前後編の後編)

《前編》はこちら

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東日本大震災の大きな影響を受けた新作

――新連載の『ドッグスレッド』は2011年の東日本大震災の描写をしっかりと入れていますが、どういう意図があるのでしょうか?

2011年、当時を描くなら避けては通れない必然の描写だったからです。
震災をドラマの盛り上がりに利用したくて時代設定を2010年からにしたわけじゃないのです。あの震災は、実際に、僕が前作の『スピナマラダ!』を連載準備していた当時に起こった出来事なんですよ。



主人公たちのライバル校は八戸の高校と決めてネームを描いていたのですが、彼らの身に震災が降りかかるなんて考えもしなかった。

でもあまりに大きな出来事過ぎて触れないのもおかしいのですが、当時は触れられなかったのです。深刻過ぎて作品に落とし込むことができなかった。

2012年の5月、連載中に八戸に取材に行けて、ようやくスピナマラダ!の後半で少しだけ震災について触れることができました。

だからこそ、現在連載している『ドッグスレッド』では、2022年になって八戸も取材して、当時の高校アイスホッケー選手だった方たちに話を聞いたり、監督や校長先生などにも当時の学校の様子をうかがったりしました。
今度こそ、覚悟を決めて描こうと思ったんです。

『スピナマラダ!』©野田サトル/集英社

――ドッグスレッドで描かれていることは、実在の高校がモデルであるとか、かなり元ネタがあるということですか?

そうですね。鮫王高校はモデルになっている高校が青森県・八戸市にあります。実際にインターハイでもベスト4に残るくらい本州勢では強いチームです。

震災で大きな被害にあった漁師のご家庭の選手のお話も実在しますし、小学生のお話ですけど防具が津波で流された選手もいたと聞いています。

震災部分のエピソードには実際に取材でうかがった要素がちりばめられています。

震災当時は「漫画家」という職業を続けることへの疑念も抱いた

――八戸市や自衛隊からも震災の写真提供を受けたそうですね?

はい。他にも主人公たちがテレビを見ているとき画面に映っている絵は、ゴールデンカムイからお世話になっているカメラマンの松田さんが当時、岩手にいたときに撮影した写真を参考にしたものです。資料をいただきましたが、あちこちにご遺体があって本当に壮絶な写真でした。

僕は震災当時、東京都民でしたけど東京だって被害もあったし、毎日が不安で怖かった。

でも本当に被害の多かった地域のことを思えば何も言えなかった。八戸だって他の地域に比べたら被害は少ないほうでした。なので八戸の方たちも同じ思いで、我慢していたとお聞きしました。当時の八戸の高校生はアイスホッケーなんてやっていていいのだろうかという罪悪感もあったそうです。

僕も漫画なんて役に立たないものを職業としていていいのだろうかって考えました。コロナ禍を経て、だいぶその考えは変わりましたけど。

――ドッグスレッドもゴールデンカムイ同様かなりの取材をされたとのことで、他に裏話があればお聞かせください。

元ネタと言えば狼之神高校伝説も、例えば「ピヨピヨ隊」は本当にモデルとなった高校の選手たちが十年以上前にやっていて、そう呼んでいました。

『ドッグスレッド』 ©野田サトル/集英社

さすがにボッコはありませんけど、似たようなことはやっていましたね。

鉄製のスティックとか、砂入りのペットボトルとか持って走ったり。いろんな高校の話を混ぜているので、特定はできませんが。

小道具ひとつにも徹底的にこだわる執念

――防具のディティールもかなり細かくなっていますね。

ほとんど同じ防具が自宅にあります。部屋ひとつ埋まります。

キーパーの防具だけでも10種類くらい。グローブやヘルメットやスケート靴やスティックなど。でもロウ(主人公・白川朗)のグローブだけは実物がありません。札幌オリンピック日本代表の防具がこの世にもう存在しないからです。

アイスホッケーの防具は選手にとっては消耗品という概念があるせいなのですが、日本アイスホッケー連盟に問い合わせたところ、何ひとつ残されていないということでした。

古い試合の映像とか当時のオリンピックの写真集など存在する古書すべて集めました。しかし画像が荒くて細かいディティールがわかりませんでした。

そこで当時日本代表であった方たち、もう70代の方たちなのですが、自分で調べて何とか数名の選手の方たちに連絡を取ることができました。しかしどの方も何ひとつ当時のものを持っていない。どうやら話を聞いていくとオリンピックが終わったら日本アイスホッケー連盟が選手たちから道具類を回収して、そのあと、すべて破棄してしまったのだそうです。

ヘルメットもグローブも、ユニフォームすら破棄してしまったんです。オリンピックのために作られた特注品で貴重な歴史的資料だったはずなのに。もう諦めかけていたところ、古書で集めたほとんどの写真集が朝日新聞社から出版されていることに気がつきました。

当時、札幌オリンピックの写真撮影はほぼすべて朝日新聞社が行っていたのです。

すると「朝日新聞フォトアーカイブ」というホームページを見つけまして、登録して観覧してみるとそこに選手たちのグローブが写った鮮明な写真が保存してあり、ようやくグローブのディティールを特定できたんですね。そこからまたさらに海外のオークションサイトで同じメーカーの近い年代のグローブを買い集めまして、そこでやっと作中のグローブを描くことができました。どうですか? この執念。

『ドッグスレッド』 ©野田サトル/集英社

――ここまでディティールにこだわって物を描く作家さんは、なかなかいないですね。では最後に読者のみなさんにメッセージを。

ドッグスレッド単行本、第1巻の発売は1月18日でゴールデンカムイ映画公開の直前となりました。いまのところドッグスレッドは、おもしろいものになっていると思います。
これからさらに加速しておもしろくなります。何か前向きになれるポジティブなものをこの世に残したいと思っています。

ゴールデンカムイのような作品を望むならゴールデンカムイがあるので読み返してください。ドッグスレッドも綺麗に終わるはずですし、連載を追って損はないと思います。よろしくお願いします。

野田先生の最新作『ドッグスレッド』1話目を読む

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©野田サトル/集英社

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