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「紙でも食べろ」と言われて新聞紙を食べて気絶…ホストクラブに呑み込まれた発達障害の女性「推しに会えたってだけで何も考えらえないくらい興奮して。薬もたくさん飲んだ」

集英社オンライン / 2023年12月28日 18時1分

歌舞伎町の街頭に立って売春をする女性たち、いわゆる“立ちんぼ”が、ホストの売掛け問題と共に注目されている。実は、彼女たちの中には、発達障害のある人も含まれている。なぜ、発達障害の女性がホストのために体を売り、金を貢ぐのか。本シリーズの取材協力募集に連絡のあった女性の体験からひも解く。

〝売掛けの沼〟に陥った発達障害の女性

歌舞伎町のホストクラブで「売掛け」を生んだのは、ホストクラブの〝祖〟とされている「愛」本店を創設した愛田武だ。

詳しくは拙著『夢幻の街――歌舞伎町ホストクラブの50年』に書いたが、当時と昔とではホストクラブの客層とビジネスモデルがまったく違った。


1990年代以前の愛本店でいえば、客層は2つに分かれていた。1つは店のダンスフロアでホストと社交ダンスをすることを目的として訪れる富裕層の女性。彼女たちには主に社交ダンスの得意なベテランホストがついた。

2つ目の客層が、夜の街で働く女性たちだ。ホストは吉原のソープランドや銀座のクラブへ自腹営業に行き、そこで月に数百万円を稼いでいる女性と知り合い、店に客として呼んでいた。彼らは店ではあまり金を使わさず、「裏引き」といって店の外で貢いでもらい、ヒモのような生活をしていた。店に金を落とさせるより、〝小遣い〟としてもらったほうが得だと考えていたのだ。

しかし、現在のホストクラブに来る客層やビジネスモデルはまったく異なる。

現在のホストクラブの集客方法は、ホスト個々がSNSを使って行う。SNSで引っかかる女性客は昔のような富裕層やナンバー1風俗嬢ではなく、家出少女のような生活困窮者が大半だ。簡単に言えば、ホストクラブで遊ぶ金などそもそもない。

そのため、ホストは売掛によって店で遊ばせた上で売春をさせる。だが、そういう女性たちの中に、高級風俗店でナンバー1を取れるようなコミュニケーション能力の高い人はまれなので、1回数千円から1万円ほどの格安風俗店に勤めるか、路上売春をしなければならない。

ホストにしてみれば、女性が稼げなければ売掛けの残りは自腹になる。それなら、店で金を浪費させず、その額を貢がせたほうが得だという見方もあるだろう。

だが、SNSで女性を引き付けるには、店でのランキングがモノを言う。女性のほうも№1だからとか1億円プレイヤーだからということで引き寄せられる。そのため、ホストにしてみれば、リスクを承知で女性に売掛をさせ、店で大金を遣わせる必要があるのだ。もっとそれで儲かるのは店だけなのだけれど。

このようにしてくり返されているのが〝売掛けの沼〟なのだが、なぜ発達障害の女性が、こうしたホストにつかまり、売春を強いられやすいのだろうか。今回連絡をくれた住谷美月(仮名・23歳)のケースを紹介したい。

「紙でも食べろ」と言われて新聞紙を食べて気絶

彼女が2歳のとき、母親が電車と接触事故を起こして死亡した。父親が育てられることになったが、トラックの運転手をしていたため家に帰らないことがよくあった。そのため、小学校4年くらいまでは、近所に暮らす祖母や叔母が世話をしに来たり、そちらに預けられたりしていたが、そこでしばしばいじめに遭った。美月は言う。

「おばあちゃんも、おばさんも私のこと嫌ってた。ごはんちょうだいと言ったら、腹減ってんなら〝紙〟でも食べろって言われて新聞投げつけられた。(私は怒って)全部食べてやるって言って、本当に食べたら気絶した。そんくらい私のこと嫌いだった」

中学に入ると、美月は学校に酒を持ち込んで飲み、急性アルコール中毒で倒れるとか、学校中の花壇に石灰をまくといった問題行動を起こす。病院でADHDと診断されたのはこのころだった。

医師に処方された薬を飲むようになってからは、美月の問題行動は一時的におさまった。ただ、薬が効きすぎて、「なんかフワフワとした別人みたいになった」感覚に陥り、外出もままならなくなったらしい。

中学卒業後、いったんは高校へ進学するものの、父親の再婚相手の女性から「家に金を入れろ」と言われ、1年で中退することに。その後、いくつかアルバイトを転々としたが、発達障害の影響か、人間関係がうまく築けなかったり、頻繁にセクハラを受けたりし、数カ月ごとに転職をくり返した。このころには病院通いをやめて薬も飲まなくなっていたらしい。

美月が東京に出てきたのは、19歳の終わりだった。彼女はその理由をこう言う。

「家ですることもなくて、スマホで動画見てたら声優の卵のAさんのこと知ったの。それで好きになって『投げ銭』をするようになった。私、バイトのお金全部親に取られてたから、チャットレディとかパパ活とかやってお金稼いでた。そしたら、同じファンの子がAさんに会ってるって聞いて、私も会いたくなって、千葉の害虫駆除の会社で働くことにした。もう親の近くはいいやって思ってたし」

「推しに会えたってだけで何も考えらえないくらい興奮してた」

害虫駆除の会社で働いたのは、そこが寮を完備していたからだという。

千葉県に移り住んでからはハプニングの連続だった。声優の卵のA氏が唐突に動画での活動を停止することになったばかりか、契約社員として入った害虫駆除の会社の社長から激しいセクハラを受けたのだ。

美月は寮を出てしまい、それから2か月近くはネットカフェやラブホを転々としながら売春をしていたが、希死念慮が膨らんでどうしようもなくなった。それでネットで見つけた相談窓口に連絡をし、生活保護を受けて、アパートで暮らすことになった。

アパートの生活は、美月にはとても孤独だった。生活保護でお金は入ってきたが、精神状態が悪く就労支援のための事業所などで働くことができなかった。かといって、心の拠り所だったA氏の消息はわからないままだ。

そんなとき、たまたまSNSで流れて来て知ったのが、歌舞伎町のホストクラブに勤めるイブキ(仮名)だった。イブキはダンスや歌のものまね動画を配信していて、それに心奪われたのだ。早速DMを送ったところ、「直に見せてあげる」と言われ、新宿に呼ばれた。そこからホストクラブに連れて行かれるまでは、たいして時間がかからなかった。

このときの気持ちを美月はこう表現する。

「推しに会えたってだけで何も考えられないくらい興奮してた。ヤバいヤバい、気絶しないようにしなきゃってことばかり考えた。それで薬(精神安定剤)もたくさん飲んだ。いくら払ったかは知らない。たぶん売掛け。でも、ものすごく楽しくて、今思い出しても『キャー』ってなっちゃうくらい」

写真はイメージです

まるで本物のアイドルと実際に会ったような気持ちだったのだろう。そしてホストクラブの華やかな雰囲気に包まれたことで舞い上がってしまった。

それから美月は毎日のように店に通うようになり、気が付いたら150万円以上の借金を抱えていることを知らされる。それから間もなく、売春をはじめるようになるのである。

大前提として、発達障害があるからといって、ホストクラブにのめり込むわけではない。実際に美月のようになる人はごくわずかだ。だが、そうなった人限定でみると、発達障害のある人の割合がそれなりにあるのはなぜなのか。

底辺で身ぐるみを剥がされる社会構造

まず家庭環境が悪く、親との関係が疎遠だった場合、子どもは発達障害に加えて愛着障害になるリスクが高いことだ。親との愛着関係がうまくいかなかったために、大きな孤独にさいなまれ、ねじれた形で他者に愛情を傾けるようになる。

そんな人たちが陥りやすいのが依存症だ。男性ならゲームやギャンブルといった「行為依存」になりやすいが、女性は推し活やホストといった「対人依存」になる傾向にある。特に発達障害があると、1つのことにのめり込みやすいため、いったんそうなると理解しがたいほどエスカレートしてく可能性がある。

美月の場合がまさにそうだろう。発達障害に、家庭の問題や対人依存の問題が重なったことで、孤独から逃れる術が推し活になってしまった。そして声優の卵のA氏への投げ銭から、ホストへと移り、ひたすら搾取されることになったのである。

世間一般で言われるように、ホストの売掛けは非常に悪質なものだ。だが、仮に売掛けをなくしたとしても、美月の心の問題が解消されるわけではないのは誰の目にも明らかだろう。ホストクラブに行けなくなれば、再び投げ銭にもどるか、ゲーム、ギャンブル、薬物といった別の依存に陥るかだ。そしてホストたちも売掛けとはまた別の形で、そういう女性をターゲットにして搾取するだろう。

こう考えていくと、社会的に弱い立場の人ほど、底辺で身ぐるみを剥がされる構造が見えてくるのではないだろうか。街頭での売春だの、売掛けだのと騒ぐのではなく、その奥にある構造に向き合っていくことのほうが大切なのだ。

取材・文/石井光太 写真/Shutterstock

★取材協力者募集
シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。


メールアドレス:shueisha.online@gmail.com
Twitter:@shueisha_online

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