1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. カルチャー

日本と韓国、どちらが豊かなのかの最終結論…平均賃金は韓国のほうが上であるという明確な事実をどうとらえるか

集英社オンライン / 2024年1月8日 10時1分

近年では海外旅行の行き先としてもお互いの国が一番になるなど文化に関してもリスペクトしあっている韓国と日本。野球やサッカーといったスポーツをはじめ、多くのことでライバルとしてもお互いを認識し合っている。だがこと経済において、どちらが豊かかという問いに対しては残念な結論が出てしまったようだ。『どうすれば日本経済は復活できるのか?』より一部抜粋して悲しい現実を紹介する。

指標によって結果が違う

日本と韓国の豊かさが接近している。OECDのデータによれば、2020年の平均賃金は、日本が3万8514ドル、韓国が4万1960ドルで、韓国のほうが高い(購買力平価)。

しかし、国民1人当たりGDPでは、日本4万88ドル、韓国3万1638ドルで、日本のほうが高い(市場為替レートでの評価。データはIMFによる)。



賃金と1人当たりGDPは、似たものではあるが、実は違う内容のものである。そのため、どちらを見るかによって結果が違うのだ。

これまでは、経済的な豊かさを表すどのような指標でも、日本は韓国より高かった。しかし、韓国の成長率が高いので、ほぼ同じような水準になってきた。このため、どの指標を見るかによって結果が変わるようになってきた。では、日本と韓国の一体どちらが豊かなのか?

生産性が高く少数精鋭なら、
1人当たりGDPは低い場合がある

この問題を検討する手がかりは、「生産性」の数字にある。これは、GDPを就業者数で割ったものだ。OECDの資料で生産性を見ると、韓国が日本より高くなっている。

GDPと賃金支払総額は、異なるものだ。まず、GDPの中には、賃金に分配されるもの以外に、営業所得などがある。さらに、誰の所得にもならない「固定資本減耗」という項目がある。これらがどのくらいの比率かによって、GDPが同じでも賃金支払総額は異なる。

しかし、生産性と1人当たりGDPでは、どちらも分子はGDPで同じだ。違いは分母だけである。1人当たりGDPでは人口数、それに対して「生産性」では就業者数が分母になっている。

国民全体の中でより少ない比率の人がより高い賃金で働けば、人口1人当たりのGDPが少なくなることがある。数値例を示そう。

J国とK国があるとしよう。人口はいずれも10人。

J国では就業者1人当たりの付加価値は20とする。付加価値の半分が賃金に分配されるとすれば、就業者1人当たりの賃金は10になる。

K国では、就業者1人当たりの付加価値は26、賃金は13だとする(これらは、同一の通貨、例えばドルで表示された額とする)。

J国では、10人全員が働くとすると、GDPは20×10=200であり、1人当たりGDPは20だ。これに対して、K国では、10人のうち7人だけが働くとする。GDPの総額は、26×7=182、国民1人当たりGDPは18.2だ。

この場合には、賃金が高いK国のほうが、1人当たりGDPが低くなる。つまり、K国は、「高い生産性の人が少数精鋭で働いている国」だということになる。就業者1人当たりの付加価値が多いという意味で「高生産性」であり、人口のうち就業者の比率が低いという意味で「少数精鋭」なのである。

パートタイマーを考慮したモデルが必要

しかし、これだけで日本と韓国のケースが説明できるわけではない。2019年の労働力率を見ると、男性は日本が71.4%で韓国が73.6%と、韓国のほうが高い。男女計では、日本が62.1%で韓国が63.6%と、韓国のほうが高い。また、女性も、日本が53.3%で韓国が53.9%と、韓国がやや高い。

そのため、前項で述べたモデルよりもう少し複雑なモデルが必要だ。それは、日本の場合にパートタイム労働が多いことを考慮したモデルである。

そこで、次のような数値例を考えよう。K国では7人の就業者がすべてフルタイムだが、J国では、5人がフルタイムで、残り5人はパートタイムであるとする。そして、パートはフルタイムの半分の時間しか働かないものとする。J国での1人当たりの年間付加価値生産額は、フルタイムなら20だが、パートは10となる。

賃金支払額は付加価値の半分であるとすれば、フルタイムが10で、パートは5だ。K国での1人当たりの付加価値生産額は20.5で、賃金は10.25であるとする。

以上の仮定に基づいて計算すると、J国のGDPは、フルタイム就業者分が20×5=100、パートによるものが10×5=50で、合計150になる。人口1人当たりでは15だ。

一方、K国のGDPは、20.5×7=143.5で、人口1人当たりでは14.35になる。このように、賃金の安い人が多いにもかかわらず、1人当たりGDPではJ国のほうが数値が高い。

「フルタイム当量」という概念

次に、平均賃金の計算を行ってみよう。パートタイム労働者分を調整するために、OECDの統計では、「フルタイム当量」という概念を使っている。

これは、例えば、フルタイムの就業者の半分しか働かないパートタイマーは、1人ではなく、0.5人とカウントしようというものだ。

右の数値例では、J国でのFTE就業者数は、フルタイムが5人、パートが2.5(=5÷2)人なので、合計で7.5人になる。賃金支払総額はGDPの半分である75なので、FTE就業者1人当たりでは、75÷7.5=10になる。

一方、K国では、賃金支払総額はGDPの半分である71.75であり、FTE就業者数は7人なので、1人当たり賃金は、10.25だ。したがってK国が高賃金国だ。しかし、K国のほうが1人当たりGDPは少ない。

実際のデータを見ると、韓国ではパートタイム労働者の比率が著しく低い。右のモデルが現実の姿をそのとおり示しているというわけではないが、おおよそ妥当なものだと評価することができるだろう。

「フルタイム当量」の考え方は、OECDだけでなく、アメリカなどの、さまざまな統計で用いられている。パートタイム労働者が増えてくると、経済の実態を把握するためにフルタイム当量の概念を用いることが必要になる。日本は世界の中でもパートタイム労働者が多いので、こうした概念の統計を作成する必要性が高い。それにもかかわらず、実際の統計ではこうした概念が用いられていない。

日本と韓国のどちらが豊かなのか?

以上の検討によって、国民1人当たりGDPと平均賃金、あるいは生産性(就業者数当たりのGDP)のどれを見るかによって見え方が異なる場合がある理由が分かった。しかし、「では、どちらの国が豊かなのか?」という問題が依然として残っている。

1人当たりGDPは、一見したところ「国民1人当たりで1年間にどれだけを使えるか」を示しているように思われる。

しかし、GDPの中には、消費だけでなく、設備投資や政府支出も含まれている。これらは、個人の支出ではない。

さらに、GDPには固定資本減耗引当が含まれている。これは、誰の所得にもならない。それに対して、賃金は、就業者が自由に使える。

その意味では、平均賃金が高い国のほうが豊かだと言えよう。また、賃金が高ければ、一定の所得を得るための労働時間は少なくて済む。そして、働かない時間(レジャー)は、経済的な意味を持っている。それが多いという意味では、高賃金が豊かさの指標としてより適切だと言える。また、就業者1人当たりのGDP(生産性)が高いということは、高度な技術を持っていることを示すとも言える。

以上を考えると、1人当たりGDPより、賃金や生産性のほうが豊かさを適切に表している指標だと考えることができるだろう。

写真/shutterstock

どうすれば日本経済は復活できるのか(SB新書)

野口悠紀雄

2023/11/7

990円

296ページ

ISBN:

978-4815610104

日本経済はデジタル化で復活させるしかない!

日本経済が危ない。

物価高騰は止まらないのに、賃金は上がらない。超高齢社会で労働力の低下は止まらない。1人当たりGDPがG7トップから最下位へ転落。etc.

日本はこのままで大丈夫なのか。危機的な状況にある日本経済への処方箋を提言する

デジタル化が日本経済を再生させる~付加価値と生産性で見る日本経済論
第1章 G7のトップから最下位へ
第2章 なぜ日本経済は停滞したのか?
第3章 今後の日本経済はどうなる?
第4章 日本が直面するスタグフレーションの恐れ
第5章 金融政策の誤り
第6章 マイナンバーカード「迷走」曲
第7章 生成AIという大変化に対応できるか?

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください