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「日本でMMTをやってもいいことは起きない」信奉者たちが目を逸らす「アメリカではすでに失敗している」事実

集英社オンライン / 2024年1月8日 10時1分

賃金は上がらないのに物価高が止まらない。経済学者の野口悠紀雄氏いわく、日本の円安・物価高は世界的な情勢の影響を受けているからだという。だがそれに対しての有効な策を日本政府が打てていないことも事実だという。氏の最新著である『どうすれば日本経済は復活できるのか?』より現代貨幣理論を交えて日本の深刻な現状をレポートする。

補正予算で国債発行額が
増加するパターンが定着

2022年度第2次補正予算案における一般会計の追加歳出は28.9兆円。この約8割に当たる22.9兆円は国債の増発で賄う。つまり、財政支出の大部分は国債発行で賄われるわけだ。

新型コロナウイルスの感染拡大に対処するため、さまざまな財政措置がなされた。その結果、補正予算で巨額の国債発行を行うというパターンが定着してしまったように見える。



財務省「国債発行計画」によると、2020年度当初予算における国債発行額は32.6兆円だったが、第2次補正後で90.2兆円、第3次補正後には112.6兆円となった*1。100兆円超えは、初めてのことだ。

2021年度では、当初予算で43.6兆円。それが補正予算で22兆円増加され、65.7兆円となった。

こうした財政運営がなされた結果、国債残高は増加している。財務省の資料によると、普通国債*2の残高は、2015年度末には805兆円だったが、2020年度末には947兆円となった。2022年度末には、今回の追加で1042兆円になる。

こうした急激な国債残高増が深刻な問題を起こすことにはならないかと、誰でも心配になるだろう。

*1 財務省の国債発行予定額では、新規国債のほか、借換債を含めた国債発行額も示されている。本稿の「国債発行額」は、新規国債発行額を指す。

*2 建設国債や赤字国債など。財投債を含まない。

MMTは国債で財政支出を
いくらでも賄えるというが……

MMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)という考えがある。

これは、「政府が国債発行によって財源を調達しても、自国通貨建てであればインフレにならない限り、問題ではない」という主張だ。ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授などによって提唱された。

国債の市中消化を続ければ、国債発行額が増加するにつれ金利が上昇する。そして、国債発行には自然とブレーキがかかってしまう。

これを避けるためには、中央銀行が国債を買い上げる必要がある。すると今度は、貨幣供給量が増加し、物価が上昇して、ついにはインフレになる。

MMTの理論は、「いくら国債を発行してもインフレにならない」と主張しているのではない。「インフレにならない限りいくら国債を発行してもよい」と言っているのだ。つまり、最も重要な問題をはぐらかしているのである。

MMTは実際にインフレを引き起こした

いまのアメリカの状況を見ていると、多くの人がMMTに対して抱いていた危惧が、まさにそのとおりの形で現実に生じてしまったことが分かる。

新型コロナウイルスに対応するため財政支出を拡大したのは、日本に限ったことではない。アメリカでも大規模な財政支出拡大策が取られた。そして、大量の国債発行を容易にするために、金融緩和に踏み切ったのである。つまり、財政拡大と金融緩和を同時に、しかも大規模に行った。まさに、MMTが推奨する政策が実現したのである。

そのために、コロナからの回復が見通せる段階になって経済活動が復活すると、賃金が上昇し、それが引き金となってインフレを引き起こしてしまったのだ。

もちろん、現在のインフレは、これだけが原因ではない。2022年の2月以降、ロシアのウクライナ侵攻によって資源や農産物が値上がりしたことも、大きな原因だ。これによって、昨年の秋以降進行していた物価上昇が加速することになった。

日本ではインフレが起きなかった

それに対して、日本では2022年までは、ホームメイド・インフレは起きなかった。

日本でもこの数年間で財政支出が拡大した。そして同時に、金融緩和政策も継続されている。それにもかかわらずインフレが起きなかったのはなぜか?

もちろん、いま日本では物価が上がっている。ただし、少なくとも2022年までについては、国内の要因によって起きたものではない。第1には、アメリカのインフレのため、第2にはウクライナ戦争で資源価格が高騰したためだ。その結果、輸入物価が上がったからだ。つまり、日本で生じた物価上昇は、輸入されたインフレであって、直接の原因は、海外にある。

日本で大量の国債発行がインフレにつながらなかった理由は2つ考えられる。

第1は、財政支出が需要を増大させなかったことだ。コロナ対策で最大のものは定額給付金だったが、これは消費支出を増やさず、貯金を増やすだけの結果に終わった。

第2に、日本企業の生産性が向上しない状況が続いているため、拡大策を行っても賃金が上昇せず、需要が拡大しなかったことがある。

日本でMMTをやってよいことにはならない

日本でホームメイド・インフレが起きなかったからといって、MMTをやっていいということにはならない。

大量の国債発行を可能にするために、日本では、長期国債を大量に購入し続けているだけでなく、長期金利を人為的に抑えている。その結果、アメリカの金利引き上げによって、日米の金利差が著しく拡大した。このため、アメリカのインフレが日本に輸入されることになったのである。この意味において、国債の大量発行がインフレの原因になっていると考えることができる。

金利抑制策の悪影響は、それだけではない。長期金利は、経済の最も重要な価格の一つだ。これが抑圧されているために、金利が経済の実態を表さなくなり、その結果、資源配分が著しく歪められている。

財政規律がなくなってしまったのが、最大の問題だ。その結果、効果の疑わしい(その反面、公平性の観点から大きな問題を含む)人気取り補助策が、次々と行われている。

国債発行を増やすという悪循環が生じている。それだけではなく、経済全体の資源配分が歪められている。これは日本経済の長期的なパフォーマンスを劣化させることになるだろう。

写真/shutterstock

どうすれば日本経済は復活できるのか(SB新書)

野口悠紀雄

2023/11/7

990円

296ページ

ISBN:

978-4815610104

日本経済はデジタル化で復活させるしかない!

日本経済が危ない。

物価高騰は止まらないのに、賃金は上がらない。超高齢社会で労働力の低下は止まらない。1人当たりGDPがG7トップから最下位へ転落。etc.

日本はこのままで大丈夫なのか。危機的な状況にある日本経済への処方箋を提言する

デジタル化が日本経済を再生させる~付加価値と生産性で見る日本経済論
第1章 G7のトップから最下位へ
第2章 なぜ日本経済は停滞したのか?
第3章 今後の日本経済はどうなる?
第4章 日本が直面するスタグフレーションの恐れ
第5章 金融政策の誤り
第6章 マイナンバーカード「迷走」曲
第7章 生成AIという大変化に対応できるか?

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