女性が自主的に子どもを持たない選択をし、その生活について語った動画がTikTokでは人気ジャンルとなっていることをご存知だろうか。
「#childfree」「#childfreebychoice」というハッシュタグの付いた動画投稿が、欧米圏の女性の間で増えているのだ。
動画の内容は、子のいない女性の週末の過ごし方を紹介するものなどがあり、例えば少し遅めの時間に起床し、ゆっくりドラマを観たり、どんな料理を作ろうかのんびり考えたりする様子などが投稿されている。
TikTokで1億6000万ビューを超える「#childfree」、“子どもを持たない”選択をする女性が欧米で急増するなか、日本女性たちは?
集英社オンライン / 2023年12月28日 17時1分
欧米を中心に自主的に子どもを持たない選択をする女性が増えてきており、その思想を意味する「#childfree」(チャイルドフリー)のハッシュタグは、TikTokで1億6000万ビューを獲得するほど注目されている。世代・トレンド評論家の牛窪恵氏に解説してもらった。
欧米から広まった自主的に子どもを持たない「childfree」
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こうした動画に賛同・共感するコメントがある一方、「子どもがいなかったら将来誰があなたの面倒を見るの?」、「今は子どもがほしくないだろうけどいずれ心変わりするだろう」といった否定的なコメントも少なくない。
だがそういった否定派に対して、賛成派から「必ずしも子どもを持つ必要はないんじゃないか」と反論の声が挙がっており、世界的議論に発展している状況だ。
まだ世の中のマジョリティは「結婚して子どもを持つことが当たり前で、それが幸せなこと」という価値観かもしれないが、なぜ子どもを持たない選択をする女性が注目されてきているのだろう。
「おひとりさま」や「草食系」といった言葉を世に広めた世代・トレンド評論家で、『恋愛結婚の終焉』など多くの著書がある牛窪恵氏は、こう解説する。
「『childfree』という言葉は20世紀後半に海外で生まれた言葉だとされていますが、日本で結婚や出産に関する認識に変化が顕著に見られ始めたのは、現在50歳前後の年齢になる団塊ジュニア世代ぐらいからでしょう。
また以前は、婚姻届を出した人のうち子どもを持たない人の割合は数%でしたが、ここ10〜15年で1割前後にまで増えている状況です。不妊の方も少なくない半面、私のように意図的に子を持たない女性も増えつつあるのではないでしょうか」(牛窪氏、以下同)
多様性が認められるようになり“当たり前”に変化
欧米で「childfree」の選択が浸透してきた要因には、やはり価値観の多様性が認められ始めた影響が大きいだろうとのこと。
「女性の社会進出が進んで、結婚後も出産や育児にとらわれずに自由に生きたい、働きたいと考える女性が増え、“子どもを持つことの尊さ”こそが至上だというような社会的観念が薄れてきたのでしょう。
イスラエルの社会学者オルナ・ドーナトさんの著書『母親になって後悔してる(Regretting Motherhood)』が、世界約20か国で出版され、欧州でも話題を呼んだように、結婚して子どもを作ることが幸せだという考え方が決して“当たり前”ではなく、子を持たなくても幸せになれるという価値観を持つ人が増えてきたようです。
そんななか、かつてはあまり公言できなかった子どもを持たないという選択について、社会でも少しずつ理解が進むようになったのだと考えられます」
日本よりも欧米圏のほうがさまざまな価値観が認められやすい土壌があったため、「childfree」も先行して浸透していったのだろう。
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また、欧米で「childfree」が広まっていったのは、男性側の事情も関係しているようだという。
「男女の育児参加にいまだ開きがあることも、『childfree』が広まっていった一つの要因だと言われます。日本の男性は、海外に比べて極端に育児に参加していないという印象があるかもしれませんが、実は欧米でも男女の育児時間には、いまも一定の差異があります。
たとえばスウェーデンでは、国民の専業主婦割合は2%程度で、ほとんどが共働き世帯。比較的男性の育児参加が進んでいるとも言われています。
それでも、2018年の『男女共同参画白書』を見ると、男性(6歳未満の子をもつ夫)の育児時間(約1時間)は女性のそれ(約2時間)の半分程度に留まり、一部の女性からは、仕事と育児の両立に悩む声も挙がっていると聞きます。
近年は出生率も低下傾向で、2022年には過去最低レベルを記録したとのこと。移民政策の影響などもあるでしょうが、一部では両立の難しさから『childfree』の選択をする人たちが増えているのかもしれません」
日本は欧米に比べてジェンダーレスの浸透がかなり遅れており、逆に欧米では男女差別、男女格差があまりないといったイメージを持つ人もいるだろう。
だが意外にも、スウェーデンだけでなく欧米のほとんどの国で、男性の育児時間は女性の半分程度しかなく、この辺りも『childfree』の増加に影響しているかもしれない。
「また、日本だけでなく米国や欧州などでも、男女ともに経済的に余裕がない層が増え、学卒後も親と同居する“パラサイトシングル”の割合が近年増えてきているそうです。
とくに米国では、かつては大学生になったら独り立ちするという文化が根強かったにもかかわらず、コロナ後は若年層(18~29歳)の52%が親と同居している、と言われます。
おそらく、彼らの多くは経済的な理由から、無理に子どもを持たなくてもいいのではないかと考え始めているのでしょう」
日本でも格差が広がってきているが、欧米のほうが高収入層と低収入層の差が激しいため、経済的に余裕のない男女の間で「childfree」思想が増加しているのではないか、と考えられる。
一人っ子の多さ、育休の取りにくさ…日本特有の問題点
一方で、日本で「childfree」の選択をする女性たちは増えているのだろうか。
「複数の調査結果を見ても、確かに日本でも増えています。欧米よりはるかに男性の育児参加が進んでいないことも要因ですが、日本では職場で産休・育休を取るタイミングを見計らわなければいけないという雰囲気があったり、妊活についてあまり理解が進んでいなかったりしています。
そのため企業でフルタイム勤務で働く女性のなかには、周りに言い出せない、あるいは迷惑をかけると気を遣い、出産・育児のハードルが高いと感じる人も少なくありません。
特に10代、20代の若者層に『childfree』の選択をする女性の割合が増えていると実感しますが、それは一人っ子家庭が増えたことも一因になっていると考えています。
ある研究所の調査でも、一人っ子ほど将来『子どもが欲しい』と考える割合が低い様子が見てとれます。一人遊びに慣れていますし、妹や弟がいないと年下の家族と密にかかわる経験がないので、将来、赤ん坊と接する自分のイメージが湧きにくいという人が多いのでしょう」
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国の第三者機関(国立社会保障・人口問題研究所)の最新の出生動向基本調査(2021年実施)を見ると、日本における一人っ子の割合は2005年に1割を超え、近年では約2割に達している。そのうえ、若年者の未婚割合も増えているため、日本の合計特殊出生率(1.26)はフランスやイギリス、スウェーデン(それぞれ1.6~1.8台)などに比べて格段に低い。
それなのに、日本ではまだまだ“意図的に子どもを持たない”ことを公言できるような空気感ではないと牛窪氏は指摘する。
「やはり日本では今でも、“結婚”と“子どもを持つこと”がセットで考えられている節があります。いわゆるロマンティック・ラブ・イデオロギー(恋愛・結婚・出産の三位一体化)が根強いんですね。
ですから、結婚はしたいけど子どもはほしくないと考える人も『結婚前にchildfreeを表明してしまうと、結婚相手として選ばれないかもしれない』という恐れがあるのではないでしょうか。そのためchildfreeの考えを、胸に秘めて表に出さない男女が多いように思えます」
日本人の国民性として、“急激な変化を嫌う”という特徴があるのは通説だ。新しい価値観は変化の象徴でもあるため、もし「childfree」の考えを持っていた女性がいたとしても、なかなか堂々と宣言できない雰囲気が、日本全体を包み込んでいる。
ただ、公言している女性がまだ少ないだけで、水面下では日本でも「childfree」思想が広まってきているということなのかもしれない。
取材・文/瑠璃光丸凪(A4studio)
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