「大人、大嫌いでしたね」元19(ジューク)・岩瀬敬吾が20歳で抱いた大人への反発と警戒、それでも音楽をやめなかった理由
集英社オンライン / 2024年1月8日 12時1分
1998年にメジャーデビュー、2002年に解散するまでの約3年間、19として活動したミュージシャンの岩瀬敬吾。20歳のころの大ヒットや、周辺の変化に対する心情を振り返ってもらったインタビュー前編に続き、後編では、45歳になった今だから抱く「20歳」への思いや、リリースしたばかりのアルバム『traditional humming』について聞いた。
就職難と厳しい体罰。いろいろなことに警戒していた
――若いころの自分を振り返ると「バカだったな」と思う人が大半だと思いますが、岩瀬さんの20歳のころは、シビアに現実を見ていた気がします。当時を振り返ると、今の自分とは違うなと思いますか?
考え方は変わっているし、アップデートされた部分もありますけど、あまり変わっていないと思います。「20歳のころはバカだったな」と思うような、バカをする時間があのころ、なかったので。
僕らはロスジェネレーションと呼ばれる世代で、高校時代にバブルが崩壊して、就職も厳しい時代で。学校では体罰もありましたし、いろいろなことに警戒して、能天気には生きていなかったと思います。
世の中には、いいやつと悪いやつがいるっていうのが、当時からわかってきていましたし。いい人だと思って心を許すと、実は悪い人だったって思うこともあったり(笑)。そういうことでへこんでいましたね。
根拠のない自信を持つバブル世代の大人に反発
――20歳のころ、大人は信頼していなかったですか?
大人、大嫌いでしたね(笑)。
――やっぱり、反発が大きかったんですね。
時代もあったと思うんですよね。事務所やレコード会社で、僕たち20歳ぐらいのアーティストを管轄するのは30歳前後のスタッフだったんですけど、彼らはバブル世代なので「物事はうまく回るに決まってる」と思っている方が多くて。感覚が僕らと違うんです。その自信はどこから来るのか、謎でしたね(笑)。
――ピュアにはしゃいでいたというより、大人たちに挟まれた厳しい期間だったわけですね。そういう20歳前後を過ごした経験は、その後のご自身の人生にどう影響を与えていますか?
すごくよかったと思います。特に音楽に関わる部分で、大変なこともたくさん経験して、それがあったからこそ、そうではない、別の音楽のやり方に対する意欲が湧きましたから。
――音楽を嫌いになることはなかったのでしょうか?
まったくならないです、大好きなので。嫌になるとしたらその周りの部分であって、僕は作品を書くことが本当に楽しくて。今回のアルバムを作る上でも、時間や制作費の面でタフなこともありましたけど、それでも音楽を作るのが本当に幸せで、ものを作るって素晴らしいことなんだと改めて痛感しました。
コロナ禍前は年間200本のライブで全国を回る日々
――12月にリリースしたばかりの『traditional humming』は、15年ぶりのフルアルバムだそうですが、どういう思いで作られた作品ですか?
フルアルバムはミュージシャンにとって、残すべき大事な引き出しだと思っているので、思いは強いです。15年間というと、長男が生まれてからの期間なんですよ。
誰かを支えて生きていくということに初めて向き合いましたし、その間に、事務所をやめて自分で活動を始めたりして、いろいろなことを経験しました。
サポートギターをやってみたり、コンペに曲を出してみたりもしたけど、僕はやっぱり、ツアーを中心に音楽活動をしていこうと決めて。そして本格的にツアーに回り始めたのが、15年前でした。
――30代を経て40代になった今、本数としてはもっともツアーを回っているんですか?
40代に入ってすぐコロナ禍になったので、40代の前半はほとんど回れないまま終わってしまったんですけど、それまでは年間200本以上はライブをしていました。ずっとツアーばかりで、なかなかアルバムを作ることに気持ちが回らず、これだけ経ってしまったという感じです(笑)。
ただ、ツアーに行くと環境も変わるし、喫茶店や居酒屋でライブをすることもあって。場所によって音の響き方が変わるのが、すごく勉強になるんですね。声の出し方も含めて、野球で言うと、どうやって塁に出るかという方法論がたくさん身に付きました。
今回、アルバムのレコーディングをしてみて、ツアーを通じて表現の引き出しが増えたと痛感しましたね。
自分が続けてきた音楽は鼻歌。僕の一部でしかない
――『traditional humming』というタイトルや収録曲からは、岩瀬さんの表現の原点に回帰した作品のように感じました。
原点とまでは考えなかったのですが、とてもフラットに作れたと思います。もしかしたら、20歳のころの19の匂いも感じてもらえるのかもしれませんし。
ただ、hummingは、鼻歌なんですよね。自分が25年間続けてきたことは鼻歌程度だという思いもあるんです。諦めではなくて、音楽は価値を付けるようなものではないと思っていて。もちろん音楽家としてのプライドは持っていますが、音楽はただ、僕という多面体の一部なんですよね。
――アルバムの中の“君は行け”という曲は、故郷を思ったときの孤独感や、ご自身が両親のもとを旅立った過去についても歌っていますが、これは、お子さんに向けて書かれた曲ですよね。
そうですね。子どもが成人して、どこかに旅立つときのことを想像しながら書きました。
20歳の自分に「やめとけ」と言いたいこと
――20歳に対するイメージは、お子さんを持つと変わってきますよね。これから20歳になる子どもに向けた思いが生じますが、そこに当時の自分を重ねる気持ちもあって?
おっしゃる通りですね。若い人間が近くにいるので、自分はあのころどうだったっけな?と思いながらも、この子たちが20歳になったらという、心配ばかりが浮かびますね。でも……楽しかったですね。20歳のときは、やっぱり。
――今、20歳のころの自分に何か伝えられるとしたら、何が言いたいですか?
当時すでにデビューしていたので、広島の地元の成人式の式典にゲストとして参加したんですね。その時、変な上下の服を着ていったんで、それじゃないほうがいいよって(笑)。
――(笑)。どんな変な上下、着ていかれたんですか。
上下で色と素材が全然違う、変なスーツだったんですよ。それ、恥ずかしいからやめとけって言いたいです。若気の至りってやつだな(笑)。当時、僕の髪の毛は青くて健治くんも金髪だったから、ヤンキーに絡まれて、めっちゃ嫌でした(笑)。
――「夢」が19の楽曲のテーマのひとつでしたが、岩瀬さんの今の夢は何ですか?
ツアーでいろいろなミュージシャンに会うんですけど、若くて才能があるアマチュアのアーティストがたくさんいるんですね。結婚して子どもが生まれたり、仕事を変えたりしながらも、形を変えて音楽活動をしている彼らに声をかけてレコーディングをして、それをまとめたアルバムを自分のレーベルから出したいと思っているんです。
メジャーデビューできるかどうかは、運が大きくて。メジャーシーン以外にも、才能があっていい作品を作っている人はたくさんいるので、そういう子たちと一緒に、形に残るものを作りたいですね。
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《前編》
取材・文/川辺美希 撮影/井上たろう
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