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「英単語を書いて覚える」は意味なし? 英語学習の“書いて覚える信仰”の背景にあった日本独特の文化とは?

集英社オンライン / 2024年1月12日 11時1分

中高生時代の英語を勉強するために英単語の書き取りをしたことがある人は多いだろうが、果たしてこのやり方は効率的なのか? “書いて覚える”信仰はどのようにして生まれたのか? 昭和女子大学国際学部教授で英語教育の研究者である森博英氏に聞いた。

「英単語を書いて覚える」勉強方法は、学校の筆記テストの影響が大きい

あるX(旧Twitter)ユーザーがTOEICで高得点を取るための勉強方法について解説したポストが、1.3万以上の“いいね”を獲得して話題になっていた。そのなかに英単語を「大量に書いて覚えるやり方は効率が悪すぎます」という興味深い一文も。

授業時間に書かされる、宿題でノートに書き取る、試験対策でなんとなく繰り返し書く――といった方法で、英単語の書き取りを学生時代に経験した人は多いことだろう。



なかには「単語を書き取るだけで意味はあるの?」と首をかしげたり、それこそ効率が悪いと思ったりする人がいてもおかしくはない。とはいえ、英単語を書いて覚えるという勉強方法自体は、いまだに学校教育に残っている。

森博英氏は学術的な根拠はないと前置きしたうえで、この信仰が誕生した背景について次のように考察する。

「学校の筆記テストの影響が大きいのではないでしょうか。中高の筆記テストでは、英単語の書き取りはもちろん、英作文や英会話の穴埋め、和訳、英訳問題が課せられることが多い。

TOEICの筆記試験や大学共通テストの試験はマーク式ですが、学校の英語試験では記述式のテストが多数を占めています。ですからテストをこなすために、『単語を書いて覚えるのは当たり前』という考え方が根付いたと考えられます」(森氏、以下同)

学校のテスト対策の一環として、書いて覚えることが必要不可欠だったというわけか。

「英語の習得のためには、『聞く(リスニング)』、『話す(スピーキング)』、『読む(リーディング)』、『書く(ライティング)』の4技能が重要な要素と位置づけられているのですが、日本の英語教育では伝統的にリーディングを重視する傾向がありました。

『文法訳読法』という教え方で、あたかも暗号を解読するかのように、記号を付けたりしながら英文法の解説をして英語の文章を読む指導をしていました。

とりわけ文法力の育成に注力しようとして、英文法を身につけるため、英語の授業で和訳、英訳を行うこともしばしば。翻訳は書くことでも行われてきたので、その名残としても英単語を書いて覚える勉強方法が現在まで残っているのかもしれません」

別の観点では、書いて覚えることそのものは日本の教育の伝統だという考え方も。

「あくまで推察ですが、日本では仏教の影響により写経する文化がありましたので、それもあって『書いて覚える』ことが重視されていたのかもしれません。国語の授業や宿題で漢字の書き取りをさせるのも、そのような影響かもしれませんし、その流れで英単語の勉強でも漢字の書き取りに習った可能性はあるでしょう」

ライティング、スピーキングでは効果あり?

では、英単語を書いて覚えることは非効率という指摘の是非についてだが、研究者としての森氏の見解を聞いた。

「TOEICや共通テストなどリーディング力やリスニング力のみが問われる試験においては、書いて覚えることはあまり効率的ではないかもしれません。

リーディングやリスニングは、受容活動といい、読んだり聞いたりするときに単語の意味さえわかれば十分ですので、書いて覚える必要はさほどありません。

ただしスピーキングやライティングは産出活動で、話したり書いたりするスキルを高める場合においては、実際に手を動かし単語の書き方を覚えることは有効。スピーキングのために書いて覚える必要があるのかと思うかもしれませんが、英単語の『つづり字』を書きながら実際に声にも出して覚えると、英単語の意味の理解をより深めることができるでしょう。

また近年はメールやチャットアプリでの英語のやりとりも増えてきており、実践的なコミュニケーションを取るうえでは、書いて覚えることは決して不要ではないと私は考えています」

単語を書いて覚えること自体は無意味ではなく、むしろ言葉に対する理解が深まるということだろう。

「書いて覚えるという勉強法についての研究結果では、時間がかかりすぎるから非効率だという報告があった一方で、口に出して覚えるよりは効果的だと主張する研究者もいます。

私も一研究者として申せば、『音』と『文字』を結びつけるという行為は、相互補完的な学習になると考えています。読む、聞くための学習でも、書くことで単語に対する理解が深くなり、単語を覚える手助けとなる可能性があるからです」

目的によっては「書いて覚える」が適している

英単語は学習者の目的や伸ばしたいスキルによって、自分に合う勉強方法も異なってきそうである。そこで下記の3つの学習者像別に、森氏がおすすめする勉強方法について解説していただこう。

≪(1)TOEICや共通テストで高得点を取りたい人≫

≪(2)英語圏の方々と英会話をしたい人≫

≪(3)英会話に加え、チャットやメールでも英語で話したい人≫

「(1)は、短時間で英文を大量に読みとく力が問われますので、単語を見て瞬時に理解できるトレーニングをしましょう。単語帳やアプリを利用するのはもちろん、単語の語源、コアイメージに注目し、ほかの語との連想を意識すると覚えやすいと思います。また多読中に文脈を意識して単語の意味を考えてみると、単語のイメージが浮かびやすいでしょう。

(2)は、コミュニケーション中に文字を挟むわけではないので、書いて覚える必要性はさほどないです。特に会話を交わすためには、単語がまとまった定型表現の習得もよいとされているので、それを勉強しておくといいでしょう。

(3)は、話すだけでなく、書いて伝えることが大切になるので、とりあえず単語や英文を書いてみましょう。ただし機械的に文字を繰り返し書いているだけでは効果は薄いため、意味や発音、つづり字を意識してみてください。英訳、和訳を書いてみて、テストのように答え合わせしてみると理解も深まるはずなので、おすすめです」

ただ、こういった勉強法はあくまでも目安とのこと。

「結局は人それぞれで自分に合ったやり方が違うので、いろいろな勉強方法を試してみるのが英単語学習の近道です。単語力は英語力の土台なので、自分に合う勉強方法を見つけたほうが、長い目で見ると、学習者本人のためになるはず。英語学習は急がば回れ的なもので、効率よりも効果を求めたほうが、英語の理解がより深まるでしょう」

取材・文/文月/A4studio

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